第四章:UMA探偵と巨影の襲来-3

 有馬さんは、きょとんとした顔で聞き返した。

「このUMA探偵・有馬勇真が……何の手先だって?東南アジア諸国連合ASEAN?」

 そんな有馬さんに対し、白髪混じりの男の方は、ただじろりと睨みつけただけで応えを返さなかった。

 代わりに返事をしたのは、東雲だ。

「我々が言っているのはASEAだ。Nが余計だな」

「ASEANのNはNationsだから……そうか、分かったぞ!つまりASEAというのは東南アジア連合か!」

「何が『そうか分かったぞ』だ!なんだその理屈は!じゃあ何か?PETはポリエチレンテレフタレートの略だから、そこからPを取ったETはエチレンテレフタレートがおうちに帰る話だとでも言うのか?そんなわけないだろう!」


 言い争う有馬さんと東雲――というよりは、東雲の方が一方的にいきりたっているだけだが――を前にして、白髪混じりの男は溜め息をついた。

「この男に遊ばれているだけだというのが分からないんですかね」

 それを聞いて、東雲はきまり悪げに押し黙ったが、有馬さんの方はいっこうに態度を変える様子が無い。

「何を言っているんだい、君は。このUMA探偵・有馬勇真はいつだって真面目だよ。ゆーまの『ま』は真面目の『ま』だ」

 白髪混じりの男は、忌々しそうに舌打ちした。それと同時に、銃の先端を檻の隙間から突っ込むと、それで有馬さんの顎をぐい、と押し上げた。

 今はまだ、殺すつもりは無いはずだ。

 そうと分かってはいても、目の前のその光景に、嫌な汗が滲むのを抑えられない。


「ASEAめ、ようなことを言っておきながら、結局はこんなコバエを送り込んでこちらの邪魔をするか。……もっとも、最初から信用などしてはいなかったがな」

「おいおい、そのコバエというのはまさかこの有馬勇真のことかい?いくらなんでもコバエはないだろう。言うならせめて仔馬とか」

 よせば良いのに、余計なことをぺらぺらと喋る有馬さんの喉が、銃の先端でどん、と突かれる。

 が、それだけで――つまり、弾は発射されることなく――、銃の先端はまた檻から引き抜かれた。


 咳き込む有馬さんを見下ろす男の表情は、しかし満足げではなかった。この程度では気が済まないということか。

 とはいえ、今のところはこれ以上何かをするつもりも無かったらしく、他の兵士を引き連れて荷台から降りていった。

 去り際に、独り言のようにぼそりと呟く。

「二代目の腰巾着が。現場にしゃしゃり出て足を引っ張りやがって」

 独り言を装ってはいたが、明らかに東雲に聞かせるために言っていた。

 東雲は何も言い返すことなく、ただ眉間に皺を寄せて耐えている。


 俺達にとっては、東雲だって敵だ。だが、そうではあっても、それは見ていて気分の良い光景ではなかった。

 ――と、俺は思ったのだが、どうも人によって感想は違うものらしい。

 ここぞとばかりに大爆笑する人がいた。

「あっはっはー、あんた、お仲間から随分と嫌われてるみたいじゃーん?」

 嘲笑うルルさんを、東雲は苦々しげに睨んだ。

「黙れ。お前は自分達の立場が分かっているのか?」



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