第四章:UMA探偵と巨影の襲来-2
ヒートアップするルルさんに対して、東雲は軽く肩をすくめただけだった。いつも有馬さんがやっているようなオーバーリアクションではないが、その分、素で呆れられている感じがする。
「檻に入れられている立場で何を言っているんだか」
二人がそんなやり取りをしている間に、檻の扉が開けられ、手錠をかけられた有馬さんが銃で小突かれながら入ってきた。上着が脱がされているのは多分、そこに武器を仕込んでいたからだろう。
檻の扉が開けられたのだから、俺達にとっては千載一遇の逃げ出すチャンス……と言いたいところだが、銃口がこちらに向けられているため、そんな隙はまったく無い。
そして、扉はまたすぐに閉じられ、鍵がかけられてしまった。
四十代後半くらいだろうか、白髪混じりの男が荷台に入ってきた。その男が入ってきた途端、他の兵士達がさっと脇へどいたところを見ると、彼らの中では上位の階級にあたる人間なのかもしれない。
男は、ツカツカと檻の前までやってくると、中で座り込んでいる俺達を見下ろした。それだけで背筋がひやりとするほど冷たい目をしている。
「ふん、UMA探偵とやらは警戒が必要な相手だと聞いていたが、口ほどにもないな。島での失態は単に偵察を担当した工作員が無能だっただけではないのかな?担当者が誰だったのかは知らないが」
誰だったのかは知らないが、などと言いつつ、口元に小馬鹿にしたような笑みを浮かべて東雲の方をちらりと見る。
東雲は眉を上げた。
「隊長殿、今回はこちらが人数、装備ともに充実した状況でなおかつ先手を打てたから容易く思えたかもしれないが、こいつは……」
隊長と呼ばれた白髪混じりの男は、手を振って東雲の話を遮った。
「あーそうですかそうですか。あなた様がそう仰るのでしたら、そうなんでしょうね。そんなに警戒が必要な相手だと言うのでしたら、どうぞ御自分でこ奴らを見張っていてください。私どもは、ここを襲撃して我々の同志を喰い殺した巨大生物とやらをなんとかしなくてはなりませんので」
慇懃ではあるが、お世辞にも好意的とは言い難い口調である。
男は次に、再度こちらへと目を向けた。口角が上がってはいるが、目元はまったく笑っていない。
「今は手が離せないが、こちらが一仕事終えたら思う存分拷問にかけてやろう。それが嫌なら、最初から洗い浚い吐いてしまうことだ。そうすれば生地獄を味わうことなく楽に死ねる」
どうやら、喋ろうが喋るまいがこちらを生かしておいてくれるつもりは無いらしい。
「おやおや、随分とまた悪党らしいベタな台詞を吐いてくれるじゃあないか。しかしそんな台詞を口にする悪役は噛ませ犬に終わるというのが世の習いというやつなのだよ?」
有馬さんは、挑発するような不敵な笑みを浮かべながら、白髪混じりの男を真っ直ぐに見上げて言った。何らかの勝算があってのその態度なのか、それともただの虚勢なのかは、俺の如き凡人には判断がつかない。
俺が相手の立場だったら、有馬さんのこの不敵で自信有りげな態度に、不安を掻き立てられたことだろう。
こいつには、何か隠し玉があるのではないか――と。
だが、白髪混じりの男は、一抹の不安すらも感じていないようだった。少なくとも、ふん、と鼻で笑うその表情からは、そういったものは一切読み取れなかった。
「悪?我々が?逆だよ、それは。確かに我々は残忍な所業も辞さないが、それは我々が悪だからではない。お前達の方こそが、どれだけ残忍な目に合わされてもやむを得ないほどの悪だからだ。なにしろ我々が守ろうとしているのは、個人の命や民族、国家などといった矮小なものではなく、この世界そのもの。故に、それを邪魔だてしようとするお前達は、この世界の滅亡に手を貸さんとしていると言っても過言ではないのだから。……特にUMA探偵、お前がASEAの手先であることは、既に調べがついている」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます