第四章:UMA探偵と巨影の襲来-1

 車に戻ってきた有馬さんは、背中に銃を突きつけられていた。俺達は為す術も無く、鉄格子越しにそれをただ見ている。檻の中にいるせいで、文字通り手も足も出せない。

 そんな俺達を見て、有馬さんは溜め息をついた。

「君達も捕まってしまっていたというわけか。その檻が敵に使われるはめになるとはね」

 俺達が檻の中にいて、その周囲には銃を持った兵士か何かのような人達がいる状況を見て、有馬さんは俺達が銃で脅されて檻の中に入れられたのだと考えたようだ。

 しかしながら、厳密にはそれは違う。


 元はといえば、ルルさんが外からの不穏な視線を感じると言い出し、象が暴れても壊れないという檻の中に入っていた方が安全そうだからと自分からさっさと檻に入ってしまったのだ。

 そして俺も、視線を感じるっていうのは何だろう、目から何かが発せられるわけではないのだから、そんなのはただの気のせいなのでは……と思いつつも、その後に続いた。

 正直なところ、俺としては、どちらでも良かった。

 外に危険な何かがいようといまいとどちらでも良かったし、檻の中に入るか入らないかもどちらでも良かった。しかしどちらでも良かったが故に、流されるようにして行動を共にしてしまったのだ。

 そして、ルルさんが格子の隙間から檻の外側に手を出して鍵をかけていた時、あいつらが入ってきて、鍵を奪われ、そのまま閉じ込められてしまったというのが真相である。

 まあ、過程は違うとはいえ、結果的には、あいつらに檻へ入れられたのと変わらない状況ではある。


「その男は武器を隠して持っていないかよく確認して、手錠もかけてから檻に入れた方が良い。最大限の警戒が必要な相手だ」

 そう言いながら、有馬さんに銃を突きつけている兵士に続いてトラックの荷台に上がってきた女性の姿を見て、ルルさんが驚きの声をあげた。

「この間の偽警官?!何であんたがここに?!」

 入道ヶ島で錯乱したルルさんをノックアウトしたり、逆に有馬さん達に倒されたりした偽警官、東雲だった。

 驚いたのは向こうも同じだったらしく、こちらの姿を見て目を見開いた。

「誰かと思えば、島で暴れたバーサーカーか。何でここにというのはこちらのセリフだな」

「誰がバーサーカーか!花も恥じらうアイドルレポーターに向かって何たる言い草、捨ておけない!」

 元々は事務員だったところを、急遽補充が必要になったレポーターに抜擢された主な理由がその外見なだけあって、ルルさんはうちのサイトではそこそこ人気でファンもいる。だから百歩譲ればアイドルレポーターは間違いではないかもしれないが、しかしそこに“花も恥じらう”という形容はどうだろう。

 俺はそう思ったが、東雲の方はその点には何もつっこまずにスルーした。

「知ってるよ。お前達のことはあれから調べさせたからな。胡散臭い動画ばかり配信してる三流サイトのレポーターだろう?」

「さっ、三流のサイトにも一流のレポーターはいるしね?!」

 サイトが三流なのは認めてしまうのか。俺から見れば、自分でコンテンツを作製しているだけで動画配信サイトとしてはなかなかのものだと思のだが、これは元テレビ局の人間の上から目線的な偏見によるものなのかもしれない。


「どうせこんなサイトが何流しても真に受ける人間なんていないだろうし、変にことを荒立てた方が逆に注目を集めてしまう危険性があったから、この前のタコの動画も『どう見てもCG』って感じのコメントつけまくらせるだけで放置してやったというのに、またわざわざこんなところに首を突っ込んできて、本当に馬鹿な奴らだな」

 東雲は呆れたように、そしてどこか哀れむように頭を振った。

「ああっ!あの荒らしコメントもあんた達の仕業だったわけ?!そういや、島で私を痛い目にあわせてくれたのもお前だったな?!畜生、今に見てろよ!ソビエトロシアでは私がお前をぶちのめすし、ソビエトロシア以外ではお前を私がぶちのめす!」

 いやもう何言ってるんだろう、この人。

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