第三章:UMA探偵と巨大な白骨-5

 有馬はその問いを、皆まで発することができなかった。


 振り返ると、咄嗟にライフルを盾代わりにして、背後からの攻撃を受け止める。

 否、受け止めるつもりだった、と言うべきだろう。

 受け止められるつもりでいたのだが、相手の蹴りは想定以上に鋭く、ライフルは手元を離れて飛んでいった。そのまま、巨大両生類の飼育場となっていた穴へ落ちていく。少し遅れて、穴の底から水音が聞こえてきた。恐らく、堀の部分に落ちたのだろう。

「どうした有馬?!何かあったのか?!」

 足元に落とした携帯電話からは、状況が掴めず困惑するカクコの声が聞こえてくる。

 だが、有馬にそれを気にしている余裕は無かった。次々と繰り出される突きや蹴りをかわしたり逸らしたりするので精一杯だ。


「ふふ、まさかこんな所で会うとはな、UMA探偵!思ったよりも早くこの前の借りを返せそうで嬉しいよ」

「『まさかこんな所で』ということは、私に仕返しをするためにここに来たってわけじゃあなさそうだね。いったいこんな所に何の用なのかな?……偽官憲君?」

 相手は、この前に島で対決した偽警官だった。

 確か、名前は東雲とか言ったか?どうせそれも偽名だろうが。

「何の用?それはこっちのセリフだな!ここの惨状はお前達の仕業か?!」

 会話の最中も、攻撃の手を緩める様子は無い。

 有馬は少しずつ体をずらしてなんとか間合いを取ろうとするが、その間合いもすぐに詰められてしまう。距離を取られてこの前と同じ様にテーザーガンで撃たれるのを警戒しているのだ。


 まずいな、防戦一方だ。


 UMA探偵はUMAを狙う不埒な人間と戦うことになる場合もあるため、対人戦闘技術の訓練も一応積んではいる。

 しかしながら、それはあくまでもサブスキルだ。本来の相手は人間ではなくUMAなのだから、当然と言えば当然である。したがって、対人戦闘に特化して技術を磨き上げた人間が相手となると分が悪い。

 この前はイトウを囮にし、隙を作って遠距離からテーザーガンで一方的に攻撃できたため、あっさりと無力化できた。しかし正面切って戦うとなると、体術では東雲の方がやや上だ。女にしては長身とはいえ、さほど骨太な体格でもない東雲よりはこちらの方が筋力があるから、その分でカバーしてどうにか互角といったところか。

 互角ならばこうも防戦一方にならなくても良さそうなものだが、先手を打たれた上に、そこから矢継ぎ早に攻撃を繰り出され続けているため、防御から攻撃に切り換える隙が無い。迂闊にそんなことをしようとすれば、その瞬間に向こうの攻撃がクリーンヒットするだろう。

 とはいえ、打つ手が無いわけではない。

 こんな攻撃ラッシュを続ければ、まず間違いなく相手の体力の方が先に切れるだろう。ひたすら防戦に徹してそれを待つというのもその一つだ。

 しかし東雲の体力がどのくらい保つものなのか、その情報がこちらには不足している。果たして、向こうの体力切れまで、こちらは攻撃をさばき続けることができるだろうか。

 他に何か、手はあるか。


 ついに避けることも防ぐこともできず、東雲の拳が有馬の胴体を捉えた。その勢いで有馬の体が後方へと飛ぶ。

 勝負はついた。

 有馬の敗北で。

 ……そう見せかけた。

 東雲の突きが当たった瞬間、有馬は自ら後方へと飛んでいたのだ。突きの衝撃を殺すため、そして、間合いを取るためである。

 東雲の方も、直撃したにしては手応えが弱すぎることにすぐ気がついた。だが、気づくのに一瞬の遅れがあった。自分の攻撃が当たったと思った時、油断が生じたのだ。

 そしてその一瞬の隙に、それこそ着地もしないうちに、有馬は懐から素早くテーザーガンを抜き、発射した。

 東雲も慌てて拳銃を構える。しかしワンテンポ遅い。

 ワンテンポ遅い、が……。


 あ、これは俺、死んだかも。

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