第三章:UMA探偵と巨大な白骨-3

『動くな。お前は完全に包囲されている』

「うょえぁっ!」

 神経が張り詰めていた時だけに、思わず変な声が出た。慌てて周囲を見回し、一瞬遅れて、自分の携帯電話の着信音であることに気づく。

 やれやれ、これではルルを笑えないな。

 こんな時だというのに携帯電話をマナーモードにしていなかった自分に苦笑しながら、発信者を確認する。


「もしもし、カクコさん?」

『有馬、今どこにいる?』

 電話の発信者は、カクコだった。

 有馬が知る“政府極秘機関”エージェントの一人。もっとも、彼女(本当に女性なのかは不明だが)を有馬にそう紹介したのは有馬の前任者であり、カクコ自身はそれを否定している。

 しかしその一方で、では実際はどういった立場の人間なのかについては、いっさい説明しようとしない。極秘機関の人間でないなら、さっさと本来の立場を説明すれば良いだけの話だし、逆に本当に極秘機関の人間ならば、適当な偽の身分くらい用意していても良さそうなものだ。

 そういった点も含め、いろいろとよく分からないところの多い人物である。


「今、ちょっと仕事中でね」

 場所などの詳しい情報を喋ってしまって良いものか迷った。

 カクコとは基本的に協力関係にあるが、しかし所詮は別組織の人間だし、もっと言うなら本当の正体も不明だ。向こうからの依頼で動いている事案の場合はともかく、今回はそうではない。

 しかし有馬が迷っている間に、カクコはあっさりと告げてきた。

「昨日の夕方に傍受したという救援要請の件だな?」

 有馬は拍子抜けした。

「なんだ、知っていたのかい」

「お前のところの協会から連絡があったのだが?」

 いったいUMA探偵協会は何を考えてわざわざカクコ達に連絡したのか。順当に考えると、ここに出現したUMAか襲撃されたこの施設、もしくはその両方がカクコ達と関係があるからではないかと想像できるが、それならばこちらにもその旨伝えておいて欲しいものだ。どうも協会の上の方の人間は隠し事が多すぎる。


 まあ与えられない情報は自ら取りに行くのがUMA探偵というものだ、と前任者も言っていた。ここは一つ、カクコから情報を引き出すこととしよう。

「ここの施設、カクコさん達には随分と馴染みのある所らしいね?」

「施設?そこは山じゃないのか?そんな所に何かの施設があるのか?」

 カマをかけてみたのだが、あっさりと外れた。

 相手がカクコの場合、とぼけているのかそれとも本当に心当たりが無いのか、声の抑揚からだけでは判断がし難い。感情が声にというよりは、のだ。

 しかし有馬のこれまでの経験から考えると、カクコは都合が悪いこと、言いたくないことを聞かれると基本的に黙る場合が多い。あんな怪しげな格好をしているわりに嘘をつくのは得意ではないのか、『知っていてすっとぼける』というような対応を取られた覚えが無いのだ。いや、むしろあんな見るからに怪しい格好をしているあたりに、嘘の下手さが現れているとも言える。

 ならば、本当にここのことは知らないのか?

 だが、もし何の関係も無いのならば、協会がカクコに連絡した意味が分からない。

 有馬は、もう一つ聞いてみることにした。


「じゃあこいつには見覚えがあるかい?」

 そう言って、穴の底にあった巨大な白骨死体の映像を送る。今度は顕著な反応が返ってきた。

「キーコ ル ケ ア 何故そいつがそんなところに?!」

 意味不明の言葉がいきなり出てきて戸惑ったが、何やら聞き覚えがあるような気もする。

少し考えると思い出すことができた。

「キーコルケアというと、確かこの前に巨大海蛇が出たって聞いた時に、カクコさんがその正体じゃないかって勘違いしてたやつか。この骨になってるのがそのキーコルケアなのかい?」

 実際には蛇ではなく両生類のようだが、一般人が見れば蛇と勘違いしても不思議は無いだろう。

「そいつはキーコルケアなどという名前ではない」

 否定された。そういえば、前にも同じことを言われたような気がする。

「……いや、これはお前に言っても仕方の無いことか。確かに、この前の海蛇の時に正体として考えていたのはそいつだ。それにしても、そいつの死体がそんな所にあるのは大いに問題だ。詳しく調べる必要がある」

「詳しく調べるつもりなら、この下に降りるための道具が必要だろうね。それにしても、鉄格子だけでは済まさずにこんな深い穴の下で飼ってたとか、随分な警戒っぷりだ」

「そいつはそのくらいの警戒が必要な生物だ。巨体に見合った馬鹿力も脅威だが、何より厄介なのは遠距離攻撃ができることでな」

「遠距離攻撃?!」

 クロクビコブラやリンカルスのようなスピットコブラと呼ばれるタイプの蛇は毒を飛ばすことができる。こいつも似たようなことをするのだろうか。この巨体だと毒の噴射量も多そうだ。

「この大きさだけで十分にヤバそうだというのにその上遠距離攻撃もできるとか、また随分とデタラメな化物だね。ところでカクコさん、そんなこいつを襲って食べるような生物にも心当たりがあったりするかい?」

「は?キーコ ル ケ ア を襲って喰う?」

 やはり何度聞いてもキーコルケアに聞こえる。

 いや、待て。

 そう言えば、ところどころに妙なが挟まっている。もしかしてこの間が重要なのか?

 試してみることにした。

「どうやらここの    は何かに食べられてしまったようなのだけどね」

「さっきから言っているようにその生物はそんな名前ではないが、まあお前に言っても仕方の無いことだから好きに呼ぶと良い」

 違ったようだ。間は関係無いのか?

「話を戻すが、成長途中の小さい個体であれば捕食されることもある。がしかし、そのくらいの大きさにまで成長したものであれば、同族以外には敵無しだな。

 さらりと衝撃的な言葉が出てきた。

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