第二章:UMA探偵と立入禁止-2
「まっ、仮に人喰い巨大飛行UMAがいたとしても、そこにあるそれの中に入っていれば大丈夫さ」
有馬さんが、意識的なのかあるいは素なのか分からない、妙に明るい声で言った『そこにあるそれ』とは、俺達のいる荷台に積んである檻のことだろう。
檻と聞いて俺がまず想像するのは縦向きの格子だけがあるタイプだが、ここにあるのはそうではなく、縦横ともに十センチメートルくらいの間隔で格子がある。
扉のところに鍵が二本ついたキーリングがぶら下げてあった。全く同じ形状をしているところを見ると、一本はスペアのようだ。自転車を買った時などに、こんな風にスペアキーをセットで渡されることがあるが、この檻も買ったばかりで未使用なのかもしれない。
「入ってればって……UMAじゃなくて私らの方が檻に入るの?」
ルルさんは顔をしかめたが、有馬さんの朗らかな口調は変わらなかった。
「その檻は中型UMA用のもので、空が真っ暗になるほどの巨大UMAを入れておくのには恐らく使えないだろうね。しかし強度について言えば、象が暴れても壊せない頑丈さなのさ。いくら大きいとは言っても、空を飛ぶ以上は、体重は軽くなくてはいけない。ケツアルコアトルスやアルゲンタヴィスも70から80キログラム程度と人間レベルの体重しかなかったと言われているくらいだしね。その体重だって飛ぶためにはぎりぎりの重さだと考えられているくらいだから、飛行UMAである以上、重量級である可能性は低い。となれば、数トンの体重を持つ象以上の破壊力はとても無いだろうさ。まあ大船に乗ったつもりで、その檻の中でガクガク震えながら、このUMA探偵・有馬勇真の勇姿を撮影してれば良いよ」
大船に乗ったつもりでいるならガクガク震えたりはしないと思うのだが。
「……ん?」
唐突に、トラックが停止した。荷台と運転席を隔てる窓越しに前方を見ると、そこにはフェンスがあった。
『この先、私有地につき立ち入り禁止』
そう記された札が張り付けられている。
「ふむ」
ここで引き返すべきか考えているのだろうか……と思う間もなく、トラックは急発進した。ガシャアアン!と派手な音とともにフェンスが薙ぎ倒され、衝撃がこちらにも伝わってくる。
「ちょっ?!ちょっと、何してんのさ?!」
バランスを崩して床にひっくり返ってしまったルルさんが、腕をついて身体を起こしながら抗議する。
「安心したまえ!このUMA探偵協会のトラックは軍仕様で頑丈なのさ!フェンスとぶつかったくらいじゃ傷一つつかないよ。何しろ窓ガラスは防弾ガラス、君達の乗っている荷台の幌にも防弾チョッキと同じ素材が使われているくらいだからね!」
「いやいやいや!この車がいくら傷つこうが私の知ったこっちゃないんですけどね!じゃなくて!立ち入り禁止って書いてあったじゃん?!なに普通に侵入してんの?!」
「やれやれ、立ち入り禁止って書いてあったくらいで立ち入らなかったらUMA探偵は務まらないよ。UMAを秘密裏に飼育しているカルト教団やら悪の秘密組織やらの基地はたいていの場合立ち入り禁止だしね」
「そういう悪事がバレると困るから立ち入り禁止にしてるところよりも、まっとうな理由で立ち入り禁止になってるところの方が普通に多いと思うんだけど?!」
「そうだとしても、今回は救難信号が出されてたんだから、非常事態ということで許されるよ」
「その救難信号は私らに向けて送られてたもんじゃないと思うけどね!」
立ち入り禁止の看板を薙ぎ倒した地点から十メートルも進むと、急に道路の整備状態が良くなった。さっきまでは如何にも山道といった感じの、路面が土そのままの道路だったのだが、ここではきちんと舗装されている。
やがてトラックは、開けた所に出た。
「ほう。これはこれは」
有馬さんが感嘆の声をあげたのも無理は無い。そこには、こんな山奥には相応しくない大掛かりな施設があった。建物は大小合わせて十棟はあるだろう。小さいものは工事現場のプレハブ小屋くらいだが、大きいものは郊外のショッピングセンターくらいのサイズがありそうだ。
「何なの、ここ……?」
「さて、本当にUMAを秘密裏に飼育している悪の組織の秘密基地とかなのかもしれないな。地図上では何も無いただの山ってことになってるん……」
有馬さんの言葉が、中途半端なところで止まったような気がした。
「あの、どうかしました?」
「……いや、何でもない」
口ではそう言っているが、表情がそれを裏切っている。
有馬さんは、助手席から何かを取り上げた。今までは視界に入っていなかったそれを見て、俺達は息を呑む。
銃だ。
それも、あの警官を装っていた女性が持っていたような小型の拳銃じゃない。軍用か何かなのではないかとすら思える、大型のライフルだ。それを持ったまま、運転席のドアを開ける。
「ちょっと様子を見てくる。君達はそこを動かないようにね。そこの幌もそう簡単に破れるような代物じゃあないけど、もしそれでも危なくなるようだったら檻の中に逃げ込むようにね」
車を降りながら、こちらを振り向いて言い聞かせるその口調は軽いが、目が笑っていない。
「あの……有馬さんこそ外なんかに出てしまって大丈夫なんですか?危険なんじゃ……」
「なーに、危険を承知で死地に飛び込むのがUMA探偵というものさ。それにさっきも言ったけど、飛行UMAならたとえ巨大でも軽量級だ。もし襲ってきたとしても、このライフルの攻撃には耐えられないよ」
笑顔でそう告げると、有馬さんは運転席のドアをバタン、と外から閉じた。
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