第二章:UMA探偵とヒュドラの再生-7

「そんな……」

 この一瞬で傷口が再生した?いや、そんなわけがない。トカゲと違って蛇は尻尾が再生するという話も聞いたことがないし、ましてや頭だ。破壊された時点で即死だから、再生なんてできるわけがない。じゃあ、最初から二頭いた??


 有馬が二発目を放った。

 だが、さしもの有馬も、あまりにも突然だった二頭目の来襲に、十分に狙いをつける余裕が無かったらしい。放たれたスピアは海蛇の頭部をかすめて飛び、その右目表面を抉ったものの直撃はせず、そのまま後方に流れて海中へと没した。

 海蛇の頭部はそのまま直進してくる。有馬は左手に跳んで海蛇の進行方向から逃れたが、それは私のいる方向だ。


「ちょっ、何でこっちに逃げて来るんですか?!あと一発撃てるんでしょ?!」

「こんな近距離で撃って爆発したらこっちも巻き添え食らうだろうが!」

 なるほど、言われてみればそれはそうだが、巻き添えというなら、有馬がこっちに来たら私も巻き添えで海蛇に襲われるではないか。

 そう思ったのだが、意外なことに、海蛇の頭部はそのまま直進して私達を素通りした。右目が抉られたせいでこっちが見えていないのか?

 その時、私はとんでもないことに気がついた。


 過ぎ去っていく海蛇の頭部。そこについている右目が、いつの間にか元に戻っている。

 そんな馬鹿な。確かについさっき有馬の撃ったスピアに抉り取られていたはずだ。再生したのか?この何秒かのうちに?そんなことが可能なのか?

 だが、そもそもこんな巨大な海蛇自体がイレギュラーな存在なのだ。超再生能力があったとしてもおかしくないのかもしれない。ならば、やはり巨大海蛇は複数いたわけではなく、今襲ってきたのは、さっき有馬に頭部を吹き飛ばされたのと同じ海蛇か。

 だが、その考えは間違っていたようだ。背後の水音に、嫌な予感がしつつも振り返ると、新たな海蛇が鎌首をもたげていた。さっき襲ってきた二頭目は、まだ前方にいる。やはり巨大海蛇は一頭ではなかったのだ。


 三頭目の頭部が迫ってくる。有馬が狙いをつけ直した。だが、間に合わない。今度こそ、その口がぱっくりと開き、私達を丸呑みにする、その瞬間が見えるようだった。

 だが、そうはならなかった。海蛇は口を閉じたまま、またも私達の横を素通りした。


 ほっとしたその一瞬、船が激しく揺れた。勢い良く通り過ぎていく海蛇の体が、船体のどこかにぶつかったのだ。ふわっと体が浮くような感覚がしたかと思うと、景色が反転し、開けっぱなしだった口と鼻に水が入ってくる。思わずむせると、更に水が気道に入ってきた。一瞬遅れて、私は海に落ちたのだと気付く。本能的に海面に顔を出そうとしたその直後、頭上で爆音がした。恐らく、有馬が三発目のスピアで海蛇を一頭撃ったのだ。だが、仮にそれが命中していたとしても、少なくとも海蛇はもう一頭いる。予備のスピアをセットし直してる余裕がはたして有馬にはあるだろうか。

 ぼちゃぼちゃと頭上に肉片が降り注ぎ、私は慌てて再度海中に潜った。

 一頭目の時と同じように、頭部を失った海蛇が目の前で静かに海底へと落ちていくのが見えた。とりあえず、もう一頭仕留めることに成功はしたようだ。

 最後の一頭――本当に最後だという保証は無いが――が海中にいる私に気がつく前に、一刻も早く船に引き上げてもらわないと。

 そう思って、再度海面に上がろうとするその直前、私の眼前に信じられない光景が展開された。


 さっき撃たれた海蛇、海底から伸びるその体が、底に降りるや否や、海底に溶け込むようにスーッと消えていったのだ。そして、そのすぐ横の、何も無いはずの海底から、新たな海蛇が浮かび上がるように姿を現した。

 やはり、さっき見た水中カメラで見たものは、見間違いではなかったのだ。あの時も、海蛇は何も無い海底から突如として出現した。


 何も無いところから突然現れ、そして突然消える。抉られた目も、ものの数秒で再生する。

 理解できない。わけが分からない。

 これは……。

 これは、本物のバケモノではないのか。

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