幕間「人喰いミズコさんの噂」その1
その噂を耳にしたのは、私が高校生の時だった。怪談好きの友人、斑鳩小卯芽が怪談専門サイト『お洒落なくらい怖い話』で仕入れてきて、グループの皆に話したのだ。
曰く、ミズコは元々、平穏な家庭で育てられた平凡な小学生だった。だがある夜、そんな彼女の運命を一変させる事件が起こる。
家に強盗が押し入ったのだ。
強盗は寝室で寝ていたミズコの両親を惨殺した後、他の部屋を物色しに行った。子供部屋で一人寝ていたミズコは、そのタイミングで物音に気づいて起きてきた。そして、運良くというべきか、強盗と鉢合わせすることなく両親の寝室までたどり着いた。
ミズコは悲鳴をあげた。小学生の少女が、何の心の準備も無く両親の惨殺死体を見せつけられたのだから、当然と言えば当然である。だがその悲鳴は、強盗に彼女の存在を気づかせてしまった。
寝室へと引き返して来ようとする強盗の姿に気づいたミズコは、間一髪のところでドアを閉めて鍵をかけ、寝室内に閉じ籠もることに成功した。
ただの小学生が咄嗟にそこまでの行動を取れたのは、奇跡的と言っても良いだろう。もっとも、強盗がその気になれば、ドアを破壊して侵入することもできたかもしれない。
だが、大きな物音をたてて近隣住民の注意を引くことを恐れたのか、彼はそうはしなかった。その代わり、寝室内に閉じ籠もるミズコに、こう囁きかけた。
「俺はずっと見ているぞ」
「この部屋のドアも窓も、ずっと見張っている。お前が出てこないか、ずっとずっと見張っている」
「そして、出てきたら、その時はお前の父親や母親と同じように、お前もズタズタにして殺してやる」
後に逮捕されて取り調べを受けた際、強盗は、警察への通報を少しでも遅らせるためにそのような脅しをかけたのだと証言した。寝室内には電話が無いことを覚えていた強盗は、そうやって事件の発覚を遅らせることで、少しでも逃げる時間を稼ごうと考えたのである。つまり、実際には、その強盗はドアも窓も見張ってなどいなかったのだ。
だが、寝室に閉じ籠もるミズコに、そんなことが分かるはずもなかった。恐怖に囚われた彼女は、自ら逃げ込んだはずのその部屋に――まともな食料など置かれていない寝室に――囚われる身となった。
事件が発覚したのは、三日後、ミズコの両親が無断欠勤を重ね、電話にも出ないことを訝しんだ勤務先の同僚が、彼女の家を訪ねてきた時である。
玄関に鍵がかかっていないことに気づいて扉を開けたその同僚は、荒らされた内部の様子からすぐに異常事態に気づき、警察に通報した。到着した警官達は屋内に踏み込み、そしてある部屋の内部に動くものの気配があることに気づいた。
部屋の内部にいる“何か”が呼びかけに応えなかったため、警官達はドアを強引に蹴破った。そして、室内の光景に戦慄した。
そこには、二人の人間の惨殺死体と……そして、入ってきた警官達に気づきすらしない様子で、一心不乱にその死体を貪る少女の姿があったのだ。
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