17ページ目 その本の話、まだ引っ張るんですね

 「パンパカパーン! 第二回! 生体日記じゃんけん大会ー!」

 

玲奈が叫ぶ。零と僕は高々あげられたその日記を見る。え、その生体日記ちゃんと片づけてあったはずですけど。


「じゃんけんって……前回もじゃんけんしたけど、結局みんな好き勝手に書いてたよね?」


 零は視線を手元の文庫に戻した。


「でもでもでもでも、主導権は大事! じゃんけんするのー!」


 こうなった玲奈は聞かない。だから零も僕も仕方なく『ぐー』を つくる。


 零に至っては顔をあげてすらいない。


「よーし、最初はグー、じゃんけん、ポン!」


 今回も一発で決まった。


                 ◇◇◇

 新学期。まだ蒸し暑い体育館で長い校長の話を聞いた。毎回誰かしら倒れる。校長という人物は、毎回大してありがたくもない話をよく話す気になれるもんだ。学校行事の中でテストに続くくらいの勢いでいらないものランキング上位に載るだろう。


「えー……だからこそ皆さんには」


 33回目……『えー』という全国共通の校長の口癖を数える。ジャ○おじさんみたいにほっぺが赤くなってる。校長も暑いんじゃないか。

 バターン、とまた誰か倒れた。駆け寄る先生も困った顔をしている。


「おわり」


 毎回この言葉で終わる。待ち望んでいた解放の言葉だ。

 生徒も先生もホッとしたような表情になって始業式は終わりを迎えた。



 始業式の後は掃除があって授業がある。なんで新学期早々授業なんだ。と文句をたれる。

 この後すぐにある授業は国語だった。


「感想文間に合ってよかったー」


 改めて読み返すとなんともひどいものだが、出すことに意義があると思う。うん。

 なんであんなに感動したのか、今となっては分からない。あんなに泣いたのに感動はすぐに薄れてしまうようだった。


「あ、笹野君『勿忘草の約束』で感想文書いたの?」

「え?」


 僕の感想文を後ろから見るようにして紗代ちゃんが声をかけてくれた。いや、声をかけてくださった。

 しまった。まだSAWAYAKAシリーズを読んでいない。どう受け応えしたらいいかわからない!


「あ、うん。そうそう、零姉ちゃんに借りたんだ」

「その本良い本だよね! 私も読んだよ。今度、新刊が出るみたい」


 ジーザス! ちなみに僕はキリスト教じゃなく仏教でもない無宗教。それでも心のなかで叫ばずにはいられなかった。紗代ちゃんと同じ本を読んでた! ありがとう零様! ていうかこの本そんなに人気あったんだ。


「新刊、出るんだ。それは読んでみたいかも」

「うんうん。私その本でルルンボが北極で白熊と戦うところでうるっと来ちゃった」

「僕はジェンが勿忘草を食べるところが印象に残ってるかな」


 こうして紗代ちゃんと話しができるなんて夢のようだ。ありがとうジェン、ルルンボ。


「新刊はね、ルルンボの生き別れの弟が出てくるみたいだよ。楽しみだね。あの本好き嫌い別れるからこうやってお話しできる人がいて嬉しいな」

「そうだね!」


 僕も嬉しいです。


「じゃぁ授業始まるからまた後で!」


 鐘の音に遮られた僕と紗代ちゃんはまるでシンデレラとその王子。いや、自分のことを王子だなんておこがましいか。


「ま、またね!」


 椅子から半分立ち上がった姿で僕は紗代ちゃんが席に着くまで見送った。



 『SAWAYAKA☆秋風Boy』が今日発売される。買いに行かねば。僕はそんなことを考えつつ授業をだらだらと聞いていた。そして、読書感想文もちゃんと先生に提出し、新学期スタートはなかなか良いものとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕と双子の姉 @amano_sora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ