15ページ目 密会で話されることは大抵守られない

 机に多くの食べ物、そして壁には少しの装飾。二年生と一年生は早く来て準備した。

 三年生がまとめてやってきたころにはすっかり準備ができていた。


「おいーっす」


 会長こと鳥居和音が挨拶をする。そしてさっそく目の前にある食事に目を輝かせる。


「おおーこれは手厚い歓迎感謝感謝!」

「これトリィ手をつけるのは早いぞ」


 チキンをつまもうとするその手を三年副会長の三上が軽くはたく。黒縁メガネで三つ編みに結った髪は、昭和時代の学生を彷彿させる。しかし、中身はそれに伴わず、漫画をこよなく愛する女子高生である。零も何度か漫画を貸してもらったことがあった。


「えっと、今日は『ちょっと早いけどお疲れ様でした会』にお越しいただきありがとうございます」


 零が挨拶をすると、三年生三人が頭をまばらに下げた。少し照れているようだ。


「まぁ今日は無礼講ってことでー」


 先日の買い出しを休んだ梓川がコップを掲げる。


「それ君がいうんかーい!」


 鳥居がすかさず突っ込みを入れると、笑いが起こった。いつもの調子、楽しい時間が始まった。




 会が進むにつれ、料理が少なくなる。ほとんど立食のような形であったので、固定された席もなく学生は好きに座ったり歩き回ったりしている。

 零が料理をとろうと机の上に並ぶ料理を見ていると、ふと少しだけ視界が陰った。少し視線を横にやると、電球の光を遮った白鷹がいる。

(Oh……)

 なんだか気まずい時間が流れる。それは、白鷹も同じなのだろうか、会が始まったときからすこしそわそわとしていた。


「あ、あのさ」


 そう声をかけた時だった。


「おっふたりさーん。楽しんでるー? 余所余所しいぞー。白鷹、笹野に告白でもしてフラれたんかー?」


 コップを片手にはしゃぎまくっている鳥居が後ろから白鷹と零の肩を抱いた。肩を抱くと言っても、零も白鷹もそれなりの身長があり、その逆に鳥居は身長が低い分類に当たるのでほとんど脇を抱いている恰好になってしまった。


「な、なに馬鹿なことを」


 珍しく白鷹が動揺する。


「困るよーこれから二人には生徒会ひっぱってもらわなきゃだからね! 白鷹には会長やってもらわなきゃだし」

「あははは。梓川君もいるじゃないですかー」

「あんなチャラ男知らん」


 そう言って鳥居はコップの中のジュースを飲み干す。お酒なんて入っていないのにテンションはマックスのようだ。


「鳥居先輩、そのことでちょっと相談が」


 白鷹がそういうと、鳥居はきょとんとした表情をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻って親指と人差し指でOKサインを作った。



                 ◇◇◇


 「相談ってなにさ」

 

 ドアの外からはにぎやかな声が聞こえる。

 白鷹と鳥居はリビングを出て玄関に来ていた。


「あの、さっきの会長の話なんですけど、部活の方でも先輩方が引退してから部長を引き継ぐことになって、あんまり生徒会活動に参加できそうにないんです。だから会長は他の人を任命してもらえませんか?」

「ほほーなるほどね。白鷹は弓道部だっけか。そりゃ大変だ。そうなるとー」


 鳥居が考えるように顎に手を添えるが、その考える時間を省くように白鷹が続ける。


「それで、笹野なんですけど、アイツ最近成績が下がり気味みたいで。来年は受験もあるし、アイツなりに目指してる大学とかもあると思うんで……」

「おっけ。わかった。それは大事な問題だもんね」


 途中で言葉を遮るようにして鳥居は胸を叩いた。


「よかった。それじゃぁよろしくお願いします」


 白鷹はホッとしたように言うと、二人は再び喧噪のなかに戻っていった。

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