10ページ目 ハート型のクッションで愛を渡す

 僕が家に帰ると、部屋着でごろごろしている玲奈がいるだけだった。

 にしてもちょっとこの部屋涼しすぎる。転がっているリモコンを拾い、勝手に消す。


「電気代の無駄。で、お姉は?」

「ちょっと―! 人に断らずに消さないでよ! ちょっと肌寒いなーって思ってたけど!」

「思ってたなら消せよ!」


 なんでちょっと動けば取れる位置にリモコンがあるのに動かなかったのだろう。おまけに扇風機までついてるし。しばらくはこっちも消しておこう。


「あー! 扇風機まで消した!」

「いいでしょ、消しても。で、レイ姉ちゃんの方は?」

「ん? レイちゃんは学校行ったよー」

「ふぅん」


 聞いたけど対して興味があるわけじゃなかった。ただ、この空腹はどうしようか。見たところ戸棚の中にも机の上にもお菓子はない。あるのは玲奈が食べ散らかしたお菓子の残がいのみ。


「太るよ……」

「女の子はふとらなーい!」


 ビュン、とクッションが飛んでくる。それを少し首を倒してよける。僕に当たることのなかったクッションは、そのまま壁にぶち当たって床に落下した。


「もうすぐレイちゃんも帰ってくると思うから洗濯物とりこんできて」

「自分で取り込めや」


 ビュン、とハート型クッションが飛んでくる。もちろん僕はそんな愛情は受け取らない。


「まったくもー。ずっと家にいたんでしょ? そんくらいしてよ」

「ごろごろするのに忙しかった」

「そうですか」


 口でも力でも勝てない僕は仕方なく着替えるついでに洗濯物を取り込むことにした。

 僕がリビングに戻ってくると、玲奈は大声をあげて笑っていた。


「あははっ……あは、あひゃひゃっ、アヒッ、ハハッごほっ」

「むせこんでるし」


 笑いすぎて激しくむせ込んでいる玲奈は放っておき、僕は冷蔵庫を物色し始めた。当然何もない。『レイ』と書かれたミカンのゼリーカップがキッチン台に置いてある。もちろん食済み。もし、玲奈がこれを食べたんだとしたら、今日は荒れそうだ。

 僕は身震いすると麦茶の入ったお茶入れを取り出すとそのままそれ以上収穫の無かった冷蔵庫を締めた。


「どうするかな」


 コポコポと麦茶を注ぐと、勢いよく喉に流し込んだ。


「ユウちゃん、私にもお茶ー」

「はいはい」


 別のコップに麦茶を注ぐと、そのままお嬢様のもとに持って行ってあげた。


「さんきゅー」


 そんなやり取りを続けていると、ガチャリと玄関のドアが開いた。


「ただいまー」


 レイが帰ってきたようだった。

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