9ページ目 否。そして顔文字が腹立たしい。((*´∀`))ヶラヶラ

 私は今、自他ともに厳しいと有名なクラスメイトのやや後方を歩いている。弓道部副部長の彼は程よく引き締まった体をしている。整った顔立ち、女性がヒールを履いても困らない身長、学年首位という事実、運動神経だってある。そんな彼を校内の女子が放っておくわけはなく、入学してから今まで幾人の人に告白されたのだろう。加えて人望もある彼はとても眩しい。完璧ぶって余裕のない私には遠い存在で、目標にすべき人だ。


「他に買うものはもうないよね」


 彼と私の両手には二つずつ大きく膨らんだビニール袋が下げられている。主に多いのは菓子の類。生徒会室には小ぶりだが冷蔵庫もあるので、ジュースも買ってきた。折り紙にクラッカー、取り皿、割りばし、そういったパーティーに必要なものを買い込んだ。


「どう考えても菓子は買いすぎだろ」


 横に眉間にシワを寄せた白鷹君が袋の中を覗く。


「鳥居先輩、お菓子大好きだから」

「にしてもなぁ」


 私は会長のお菓子好きに困ることはなかった。集まりがあるたびにチョコレートやらポテトチップスやらみんなでつまめるお菓子を買ってきてくれた。そしてそれを一緒にたべながら話し合いをするのは嫌いじゃなかった。でも、白鷹君はそんな時間があまり好きじゃなかったのかもしれない。先輩の持ってきたお菓子にあまり手を伸ばしていなかった気がする。

 もう夕方だった。一つのお店では集まらず、いくつかのお店を回ったため時間がかかってしまった。


「やっと涼しくなったね。お昼時に出かけるのは失敗だったかな、暑さにやられて疲れたかな」

「気合が足りないんだろう」

「ははは、そうかも」


 ははは、と笑う私はどんな情けない顔をしているんだろう。涼しい顏をして歩く彼はすごい。


                 ◇◇◇


 「……なんで閉まってるんだ?」

「何故でしょう」


 学校は閉まっていた。校庭にも人の姿は見られない。いくら夏休みだからと言っても、こんなに早く閉まるなんてことあるんだろうか。否、ない。


「あ……」


 私は携帯を取り出すと、一つの通知に気が付いた。


『なんか、明日ある会議だか学会の準備があるみたいですぐに追い出されちゃいました☆学校自体しまっちゃうみたいなんで、先輩たち帰ってくるときはそのまま帰った方がいいかもですよー((*´∀`))ヶラヶラ 』


 後輩からだった。


「最後の顏が腹立たしいな」

「有紗ちゃん……」

「通知に気が付かなかったのか?」

「う……サイレントモードだから気が付かなかった。音もバイブも切ってた」


 携帯を覗き込んでいた白鷹君の顏が上がる。わぁーたぶんすごい怒ってる。


「だって、音とか鳴ったら迷惑かなって。バイブも音するし」

「家でもか」

「は、い」


 とたん白鷹君の表情が憐れみを含む。そんな肩身の狭い思いをしながら日常生活を送っているのか、と。


「仕方ない、それぞれで持ち帰るか」

「あーうん、あ、でも、白鷹君電車と自転車通学だよね? 明日持ってくるの……明日!? おおぅ……どうしましょう」


 私は突然恐ろしいことに気が付いた。


「なんだよ」


 ちゃんと学校側の閉鎖日を確認しなかったのが悪かった。


「明日、会議だか学会が学校であるんだよね? 入れる?」

「……」


 私と白鷹君は頭を抱えた。そして、結局私の家に荷物を持っていくことになり、急遽明日の『少し早いけどお疲れ様でした会』は私の家、笹野家で行われることになった。

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