8ページ目 灼熱地獄との戦いは制汗スプレーで太刀打ちできるのか

 「あれ、レイちゃんもおでかけー?」


 ソファーに寝転がっていた玲奈が上半身を起き上がらせ、制服に着替えて鞄を手に持つ零に声をかけた。


「うん、ちょっと。生徒会で3年生の任期お疲れ様でした会やるんだけど、その準備の買い物に行ってくる。玲奈も来る?」

「うーん、いいや。生徒会の人と一緒でしょ? 私あの人たち苦手」


 うへっ、と玲奈は舌を出す。そして興味を失ったように再びソファーに寝転がった。テレビのチャンネルを手に持ち、番組を次々と変えていく。


「じゃぁ、行ってくるね。あんまり薄着して風邪ひかないように」

「わかってるー。いってらっしゃい」


 おへそが見えそうなくらい短いタンクトップ。部屋着の短パン。お腹を冷やしそうな格好だった。

 玲奈は手だけ振ると、再びテレビに集中し始めた。


               ◇◇◇


 一歩外に出るとそこは灼熱地獄。麦わら帽子をかぶった近所のおじさんが自転車で横を通りぬけていく以外人は見えない。

 お昼ちょっとすぎ。気温も1日のなかで最高点を迎えようとしている時間だ。

 学校へは徒歩で向かう。20分ほど。家と学校までに結構な上り下りがある。それも結構な急斜面であるので、自転車よりも徒歩の方が通いやすかった。なんでこんなところに家を建てたのか、安かったからなのか、なんなのか。とにかく不便で仕方がない。

 そしてようやっと学校にたどり着く頃には、うっすらというよりもかなり汗をかいていた。


「うーん、涼しい」


 公立であっても、さすが県下トップの学生を呼び込むだけのことはある。冷暖房完備。これは大きな広告塔だ。さすがに廊下にはつけられてはいないが、各教室にはちゃんとついている。それだけで学校中が涼しくなるような感じがした。

 零は更衣室で汗をぬぐうと、夏はじめに玲奈から渡された制汗スプレーを体に吹きかけた。



 部活やら補習やらで賑わう夏休み中の学校。その中を多くの生徒が駆け抜けていく。挨拶をしたりされたりしながら、零は生徒会室のドアを軽くノックした。


「失礼します」

「おはようございます先輩」

「おはよー」

「おはよう」


 なぜ人間はその日初めて会った人に「おはよう」と声をかけたくなるのだろう。どうでもいいことが頭に浮かぶ。


「笹野で最後だな」

「遅れましてどうもすみません」


 今日は2、3年生だけの集まりだった。その中で、長身の男が前に出てくる。零と同じ2年生の白鷹和也だ。

 白峰高校生会は、生徒会長を筆頭に、3年と2年生の副会長、書記が2人、議長が2人、会計が2人で構成されている。この男、白鷹は2年副会長、零は会計。今日休みのもう一人の2年生、梓川は書記をやっている。生徒会メンバーは学年を超えてとても仲が良かった。だからこその人任期お疲れ様でした会。


「今日は各分担に分かれての作業ですよね」

「ああ。俺と笹野は買い出しに行ってくる。後は頼んだ」

「了解ッ」


 頼まれた1年生はビシッと敬礼し、各自の作業へと散って行った。


「じゃぁ白鷹君、行こうか」


 こうして二人は灼熱の中へと放り出された。

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