6ページ目 暴力乙女は戦闘能力500万越え
今日は登校日だった。コンクリートも根を上げるような暑さの中の登校だ。パジャマ姿、まぁ一人は布団の中だったけど、そんなゆるゆるとした格好で「いってらっしゃい」と言っていた姉が羨ましい。羨ましい。大事なことだから二回言ってみた。
「ささのん、おっはよー」
「ぐぉほっっ」
「どーしたの? ダンプカーで踏みつぶされたカエルみたいな声出して」
僕の背中を思いっきり平手でたたいてきたのは隣の席に座る暴力、いや乙女の君乃瞳だ。名前に似つかわしくないほどの怪力を持ち合わせる戦闘能力500万越えのスーパー○○ヤ人だ。あの白い強者よりも、野菜みたいな名前の人よりも、緑の触覚よりも、あの主人公の通常時よりも強いんじゃないか。
はいはい、今日もツインテールが可愛いですね。そんなに振り乱さなくても可愛いですよ。わかってますよ。妹キャラ、とか声が萌え、とか妹にしたい学生ランキング1位だとか、先輩に可愛がられていた。最上級生となった今では、小さいのに先輩ぶるところが萌えとかとにかく人気のあるやつだ。馬鹿だけど。理系科目平均30点くらいの馬鹿だけど。
「ささのん、あのね、私、推薦受けることにしたのー」
「あーはいはい」
「それでね、それでね、白峰からスカウトがあってね、白峰にしよーって」
「……」
「ささのんのおねーさん達とおんなじ、そしてささのんとも一緒!」
この暴力乙女は、空手県下№1 全国大会4位。それ以外の大会に出たことはないらしいが、テコンドーやらチャンバラやらよくわからないものまで幅広くやっている。
春先、ちょうど変質者が出回る時期。毎日下半身を春風にさらしてこの学校の生徒を追い回していた変質者は、君乃と一緒にいるのを見られた日を最後に姿を消した。学校では、警察につかまったともっぱらの噂であったが、僕はそうは思わない。君乃に消されたんだと思う。
で、だ。白峰に推薦で行くだって? 紗代ちゃんと同じ白峰に? 姉と同じ白峰に? そしてなぜか僕の進路がこいつの中で白峰になっている。
「いかないよ。白峰には」
「えええええー!? どうしてよー。おねーさんいるから? わかった。比べられるの嫌なんでしょ? すごかったもんねぇ。おねーさん」
君乃の声が耳につく。煩いのは蝉だけにせてくれ。
「うるさいなぁ。白峰は受かるかわからないんだよ。ギリギリだから! 失敗して私立になったら困るだろ。お金かかるし」
「ふぅーん。ささのんってばそんなこと考えてるんだ。意外」
君乃はぷっくりとした唇に人差し指を当てて、なにか考えるようにすると、突然僕の前に出てきた。
「さーさのん! 白峰受かったら、私、ささのんにキスしてあげるよ」
「……」
こいつは自分が可愛いってしってる娘だった。
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