「ん? 模様?」

「えぇ、これです」


 アイリーンさんは手をかざして噴水の水を操ると、鏡みたいにピカピカな壁を作り出した。ご主人の後ろに持ってきて、背中の刺青を映す。


「なっ、なんだこれはっ?」


 ご主人は素っ頓狂な声を上げると、首を後ろに回して自分の背中をじっと見つめた。目を見開いて、凄ぇ驚いてる。


「いつの間に妾の背中に現れたのだ?」

「晩餐会の前までは、なかったですよね?」

「あぁ。ドレスに着替えた時は、確かになかった。いつも通りのまっさらな背中だった筈なのだが……可笑しいな」


 え……あ、あれ? ご主人、刺青入れてないんすか? でもそれ、前からありましたよね? 俺、てっきり次の王様の証に入れたんだとばかり思ってたんすけど、え、違うんすか? 


「あれー?」


 内心首を傾げていると、隣にいたシムさんが声を上げる。


「その模様、メータ様にもありますよー?」


 ……なぬ?


「本当ですか、シム?」

「はいー、ほらー」


 シムさんは俺に巻き付けてた上着を捲り、アイリーンさんに背中を見せた。俺も後ろを見ようと首を動かしたけど、「じっとしてて下さいねー」とシムさんに押さえられてしまった。


「……本当ですね。全く同じ、モファット国の紋章です」

「ねー。でも、これは一体どういう事なんでしょうかー?」


 アイリーンさんは、ご主人と俺の背中を見比べながら眉に力を入れた。


「……シム。申し訳ありませんが、おばば様を呼んできて貰えますか? おばば様ならば、もしかすれば何かご存じかもしれません」

「分かりましたー」


 シムさんは素早く立ち上がり、渡り廊下の方へと走っていった。アイリーンさんは、俺達の背中の模様を見ている。

 本当にあるのかと思いっきり振り返ったら、ほんのちょっとだけ何かが見えた。でも、本当にちょっとだから、全然分かんない。


「同じ位置に、同じ大きさの、同じ紋章が浮き上がる……何かの暗示? それとも、特別な何かが、二人を繋いでいる……? 共通点は……突然に……でも……」


 アイリーンさんは、背中の模様について考え込んでいるらしく、さっきからブツブツ独り言を言っている。ちょっと怖い。

 俺はさり気なく顔を背け、シムさん早く戻ってこーい、という気持ちを込めて、渡り廊下の方を振り返った。


 と、そこで気付く。


 なんか、さっきからご主人、やけに静かじゃね?


 不思議に思い、ご主人を見やる。


 ご主人は、妙に汗を掻きながら、口をもにゅもにゅ動かしていた。


「……姫様?」

「っ、な、なんだ、アイリーン?」

「先程より妙に口数が少ないですが、いかが致しましたか?」

「いやっ、何もっ、何もないぞっ。気にしないでくれっ」


 一生懸命首を振るご主人。

 それを、真顔で見つめるアイリーンさん。


「……もしや、とは思いますが、何か、心当たりでも?」

「えっ!? あ、い、いや、別に、妾は」

「あるのですね」

「い、いや……その……」


 口籠るご主人は、目を泳がせながら後ずさる。

 その『いかにも何かあります』と言った態度に、アイリーンさんの雰囲気が変わった。すっと目を細めると、ご主人を追い詰めるように一歩前へ出た。


 逃げるご主人。追うアイリーンさん。二人の追い掛けっこは、ご主人が噴水に背中をぶつけるまで続いた。

 これ以上下がれないと気付いたご主人は、すぐに横へ逃げようとする。しかし、それをアイリーンさんの足が邪魔した。噴水の縁に片足を乗せながら、ご主人に詰め寄った。


「さぁ、白状なさい」

「は、白状など、妾はそのような」

「レッディ」


 一段と低い声で、アイリーンさんがご主人を呼ぶ。


 ご主人は、さっきの王子様よりも青い顔色でアイリーンさんを見上げた。おばばみたいにプルプル震えると、凄ぇ速さで俺を見る。「助けて」って目が凄ぇ言ってる。だから俺も、『無理っす』という気持ちを込めて首を振った。そうしたら、「そこをなんとか」っていう視線が送られてきたから、『いや、無理っす』という眼差しを、必死に首を振りながら送り返す。


「お待たせしましたー」


 ご主人が胸倉を掴まれたところで、ようやくシムさんが戻ってきた。すぐ後ろには、エマさんと水で出来た椅子に乗るおばばがいる。

 おばばはエマさんに椅子を押して貰いつつ、プルプル震える手で杖と本を持っていた。


「あぁ、おばば様。ご足労をお掛けして申し訳ありません」

「んいいよぉ~ん」

「おばば様は、『気にするな』、とおっしゃっているわ。用件もシム殿から聞いているので、説明はいらないと」

「そうですか。では早速、姫様とメータ様の背中を見て頂けますか?」

「あ、いやっ、妾は結構だっ。そんな、おばばに迷惑を掛けるなどっ」

「お黙りなさい、レッディ」


 水の縄が、ご主人を襲う。いつぞやの俺みたいに縛り上げられた姿に、何となく懐かしさを覚えた。


「はーい、メータ様ー。おばば様に背中を見せましょうねー」


 前からシムさんに抱き抱えられると、誰かに背中をソワーっとなぞられた。嫌なソフトタッチに身を捩れば、シムさんが腕に力を入れて俺をあやす。


「大丈夫ですよー。今日はちょっと見て貰うだけですからねー」

『う、嘘っすっ! 見て貰うだけなら、なんで触るんすかっ。そんな必要ないじゃないっすかっ!』

「はーい、落ち着いて落ち着いてー」

『これが落ち着いてられるかって話っすよっ! 大体っ、触るならもっとしっかり触って欲しいっすっ。無駄にプルプルしてるしっ、ソフトタッチだしっ、もう痒くてしょうがないっすっ!』

「ん坊やぁ~、可愛いねぇ~」

『ほらっ、ほらっ! 今の聞きましたっ!? 坊や可愛いねって言いましたよっ!? おばば背中の模様なんか見てねぇっすよっ! ただ男子高生の肌触りたいだけっすよっ! ねぇちょっとっ、聞いてますっ!?』


 しかし、いくら俺が主張しようともシムさんは離してくれなかった。おばばはソワソワなぞってくるし、どさくさにまぎれて尻まで触ってこようとするし、もう最悪だよ。熟女のセクハラに泣いたよ。終わった後も、シムさんから離れられなかったよ。


「はいはい、もう終わりましたよー。もう怖くないですよー」

『うぅ、お、俺、なんも悪い事してないのに、ただちょっと羊になるだけなのにぃ』

「頑張りましたねー。ほらほら、泣かなくていいんですよー」

『し、尻まで、うぅ』


 シムさんの肩に顔を擦り付け、メェメェ泣いては鼻を啜った。もうおばばは嫌だ。おばばは勘弁して下さい。俺、良い子にしますから。本当お願いします。本当に。


「……んじゃじゃ馬ぁ~」


 俺が神様に向けて本気で祈りを捧げていると、不意におばばの声がした。


「んお前ぇ~、坊やと一発かましたかぁ~?」

「ミルギレッド様。おばば様が、『あなたは、メータ様と契約を交わしたのか』、と問われております」

「契約、ですか?」


 振り返れば、涙でぼやけた視界の中で、アイリーンさんが眉を顰めていた。おばばは「んだぁ~」と頷き、持ってた本を開く。

 プルプル震える指で紙を捲ると、あるページを俺達に見せた。

 ご主人の背中に入った刺青と同じ模様が二つ、ドドンと真ん中に描かれている。その周りには文字も書いてあるけど、日本語じゃないから分かんない。


「…………まさか……」


 開かれたページを見ていたアイリーンさんが、小さく呟く。徐々に目を見開いて、唇を小刻みに震わせた。


「……っ、レッディッ!」


 かと思えば、目を一気につり上がらせる。


「あなたっ、まさかとは思うけどっ、本当にやったのっ? あれは冗談ではなかったのっ!?」

「え、ど、どうされたんですかー、アイリーン様ー?」


 ご主人に掴み掛かったアイリーンさんを、シムさんは慌てて止めに入った。でもすぐに蹴り飛ばされてしまう。


「答えなさいレッディッ! あなたは呼び出したのっ!? 自分の花婿をっ、召喚したのっ!?」


 叫んだアイリーンさんの声が、中庭に響き渡る。


 ……え? 召喚?


「……え? あの、え、ア、アイリーン様ー?」


 今、俺とシムさんは、全く同じ顔をしてると思う。他の人は皆分かってるって顔でご主人を見ているのに、俺達だけ場の流れについていけてない。男二人でオロオロと視線を彷徨わせた。


 ご主人も、俺達とは違う意味で、目を泳がせている。

 無言を貫いてはいるが、その尋常ではない冷や汗が、どう見ても肯定しているとしか思えなかった。


 それは、俺以外の人も同じだったらしい。


「この……っ、馬鹿っ!」


 アイリーンさんの拳が、凄ぇ勢いでご主人の頭を引っ叩いた。

 いい音が、この場に轟く。


「痛……っ! な、何をするんだアイリーンッ!」

「何をするんだはこっちの台詞よっ! なんでこんな事するのっ! もうっ、本当に馬鹿なんだからっ! 馬鹿っ! この馬鹿っ!」

「ば、馬鹿とは失礼なっ! 妾を馬鹿呼ばわりするなどっ、不敬罪に問われても可笑しくはないのだぞっ! 口を慎むが良いっ!」

「慎ませてくれないのはそっちでしょっ! 次から次へと厄介事を持ち込んでっ、少しは補佐する私の身にもなってちょうだいっ! あなたが好き勝手やったあおりはっ、全部こっちに回ってくるんだからねっ!」

「妾とて考えなしにやっているわけではないっ! 少しでも良い方向へ進む事を願い行動しておるっ! 勿論全てが成功しているとは言えぬしっ、イリーナ達に世話を掛けている自覚はあるっ! だがっ、それでも妾は己の行いが間違っておるのは思っていないっ! 常に恥ずかしくない振る舞いをしておるっ! それを非難するとはなんだっ! 恥を知れっ!」

「恥を知るのはあなたよ馬鹿っ! 厚顔にも程があるわっ! この馬鹿っ! 馬鹿っ!」

「馬鹿馬鹿うるさいっ! 行き遅れぇっ!」


 ご主人とアイリーンさんが喧嘩を始めてしまった。二人が口喧嘩をするのはこれが初めてじゃないけど、でも今日は勢いが違う。纏うオーラも違う。ガンガンに相手を睨み付けて、今にも手が出そうだ。


 ど、どうしよう。シムさんに視線を送るも、アイリーンさんにまた蹴り飛ばされてしまって戦力にならない。だからって俺が行ったところで、どうせ同じ運命を辿るだけだし。


「ん黙れぇ~い」


 俺がメェメェ困ってると、またしてもいい音が、この場に二つ、轟いた。

 ご主人とアイリーンさんが、頭を押さえて蹲る。


「ぐぅ……っ、お、おばば、貴様……っ」

「く、うぅ……っ」

「ん馬ぁ~鹿共ぉ~」

「ミルギレッド様。姉さん。おばば様が、『双方、そこで少し頭を冷やしなさい』、とおっしゃっております」


 噴水の前で呻く二人を見下ろしつつ、エマさんは苦笑いを浮かべた。おばばは水の椅子にふんぞり返って、偉そうに鼻を鳴らす。


「えーっとー、あのー、質問をいいでしょうかー?」


 俺の傍に避難してきたシムさんが、胸の辺りで手を挙げてみせた。


「あのー、先程のアイリーン様の言葉から推測するに、なのですがー、えー、つまりー、ミルギレッド様はー、以前おっしゃっていた通り、本当に己の花婿を召喚してしまったー、という事なんですかー?」

「んだぁ~」

「『その通りだ』、とおばば様はおっしゃっております」

「でー、えー、先程の会話から推測するになんですがー、その花婿というのはー、まさかとは思うのですがー……」


 と、言いつつ、シムさんは俺を見る。おばばも、俺を見た。エマさんも、こっちを向く。


 三人の視線が集まって、なんかちょっと落ち着かない。「メ、メ」と焦る俺に、おばばはもにゅもにゅ動かしてた口を、それはもう重々しく開く。


「ん坊やだぁ~」

「『シム殿の考える通り、ミルギレッド様が召喚した花婿とは、メータ様の事だ』、とおばば様はおっしゃっております」


 ……え?

 花婿……え?


「こちらの本に詳細が載っております。これによると、召喚された相手と術者が近付くと、同じ場所に同じ印章が浮かび上がるとのことです。しかもこちらの本は、城の書庫に眠っていたもの。ミルギレッド様がご覧になっていたとしても可笑しくはありません」

「で、ですがー、そうなると、一つ疑問があるのですがー」

「なんでしょう?」

「花婿ならばー、何故メータ様は最初からこちらの姿で現れなかったのでしょうかー? わざわざオヴィスの、それも亜種の姿で現れる必要はあったのでしょうかー?」


 シムさんが、困った顔でおばばを見る。俺も、口を開けっぱなしでそっちを向いた。


 おばばは、相変わらずコントみたいにプルプル震えながら本を閉じると、それはそれは盛大に息を吐き出した。


「……んじゃじゃ馬ぁ~、初心だしねぇ~」

「『恐らく、ミルギレッド様の複雑なお心を考えての事なのではないだろうか』、とおばば様はおっしゃっております」

「ん野郎はいやぁ~ん」

「『もし初めからこちらの姿で現れても、恐らくミルギレッド様は警戒されていたでしょう。ですからあの穏やかな姿でミルギレッド様のお心を解し、また愛情を行動で示していたのではないか』、とおばば様は推測されております」

「んお前は俺のもんじゃ~い」

「『今回の騒動も、己の妻を守ろうとした結果なのだろう』、とおばば様はおっしゃっております」

「んマッパの大売り出しぃ~」

「『その為に、己の全てを曝け出してまで相手を追い詰められたのだ』。おばば様はそう確信されております」

「んおばばぁ~、滾ったねぇ~」

「おばば様は、『大変感動された』、とおっしゃっております」

「ん坊やぁ~、超好みよぉ~」

「『ミルギレッド様をよろしく頼む』、と切に願っておられます」

「んもっと脱いでみようかぁ~」

「『感動のあまり、涙で前が見えない』、と」


 本当っすか。俺の耳には、好みだからもっと脱げって聞こえたんすけど。


 そっとおばばを窺うと、おばばはプルプル震えながら俺を見た。それから、プルプル震えながら親指を立てる。いや、意味分かんないっす。


 おばばの発言とエマさんの通訳の差について深く悩んでたら、突然、鼻がムズっとした。


 あ、と思っている間に顔が歪み、そして、


「めっぷしっ」


 くしゃみを一発、盛大に噴射する。


 途端、体が一気に熱くなる。全身がムズムズして、被せられた上着が顔に掛かった。腰に巻いた布が足に絡み付く。気持ち悪くて両方蹴り飛ばしたら、地面についた俺の腕が、いつの間にかモコモコな前足に変わっていた。


「あ、元に戻ったんですねー」


 隣にいたシムさんは、ニコっと笑うと俺に掛かってた上着と布を拾い上げた。ちょっと土が付いて汚れてる。感謝と謝罪を込めてメェメェ擦り寄れば、ニコニコ笑って撫でてくれた。


 と、不意に顔に影が掛かる。


 見上げれば、噴水の傍で蹲ってたご主人が、すぐ傍に立っていた。


『ご主人』


 ご主人は俺と目が合うと、俺を凝視したまましゃがみ込んだ。目線を同じ高さにして、更にじーっと俺の顔を観察してくる。


「……おばば」

「んだぁ~?」

「『なんだ?』、とおばば様はおっしゃっております」

「こ奴が、本当に妾の夫なのか」

「んだぁ~」

「『間違いない』、とおっしゃっております」

「そうか……」


 おばばとの会話中も、俺から一切目を離さない。

 あまりの目力に、俺は思わず後ずさった。でも首に巻いた青い縄を掴まれて、逆に引き寄せられる。


『ご、ご主人? あの、は、離して欲しいっす』


 控えめにお願いしてみたけど、離してくれる気配はない。

 何がしたいんだご主人は。花婿呼び出したのに、出てきたのが俺で困ってんのか? それとも、羊と結婚するのには抵抗があんのか?

 よく分かんないけど、取り敢えず訴えてみようと思う。


『ご主人ご主人。大丈夫っす。花婿とか、そういうの気にしないでいいっすよ。俺、王族とかそういう大変そうなのやりたくないですし。ご主人はご主人が気に入った人と結婚したらいいじゃないっすか。俺に遠慮なんかしなくていいんすよ? あ、でも追い出さないでくれるとありがたいっす。俺、一生羊でいるんで、今まで通り可愛がって下さいっす。それだけは本当お願いします。でなきゃ俺、どうやって生きてきゃいいのか分かんないっす』


 心を込めてメェメェ語り掛ければ、ご主人は「むぅ」と小さく唸った後、ふと、俺の鼻の上辺りにチューをした。


 体の中が、一気に熱くなる。蹄がムズムズして、何となく尻が寒い。


 ご主人の頬が、赤くなる。多分、全裸の男が目の前にいるからだろう。叫び出したいのを堪えてるのか、口をおばば以上にもにゅもにゅと動かしている。

 でもご主人は離れない。

 首の縄を掴んだまま、人間の俺の顔を、ずっと見つめている。


『あの……ご主人? 嫌なら、無理しなくていいっすよ? ちょっと目を瞑ってて貰えれば、俺シムさんとこまで行きますし』


 ご主人の様子に困った俺は、目をあっちこっちに向けながら、どうにかメェメェ言ってみる。


 すると、ご主人の眉が、きゅっとつり上がった。

 青い縄を掴む手が、乱暴に俺を引っ張る。


 あ、暴力は勘弁っす。そんな気持ちを込めて、「メ」と目を瞑った。


 しかし、痛みは一向にやってこなかった。


 代わりに、柔らかい感触と湿った温もりが、唇に掛かる。


 辺りの空気が、何やら騒がしい。


『……ん?』


 なんだ? と思い、ソロソロと片目を開けてみる。


 ご主人の顔が、超ドアップで入り込んできた。長い睫毛が、瞼と一緒に伏せられている。


 心臓が、一気に縮まった。痛い。苦しい。爆発しそう。

 頭ん中も、なんか、もうよく分かんない。ご主人の綺麗な顔は見えているのに、それを上手く理解出来ない。


 目を丸くして固まる俺から、ゆっくりとご主人が遠ざかる。睫毛が持ち上がり、下からちょっと潤んだ目が出てきた。さっきよりももっと赤い顔で、俺の顔を見つめている。


「……ふむ。悪くないぞ」


 そう言ってご主人は舌で唇をなぞり、俺に向かって微笑み掛けた。


『…………超、エロ……』


 あまりのセクシーさに、俺は腰を抜かした。

 でも、視線はご主人から離さない。


 俺達の周りでは、アイリーンさんやシムさんが何やら言っている。

 でも、全然聞こえない。


 今は、目の前のご主人しか入ってこない。

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