二話 私、スゴいわよ?
次の日の昼休み。俺は二年A組まで行った。華子がいる教室だ。
空気を読まない俺は、一年生のくせに何も考えずに中まで入っていく。
華子は一人で弁当を食べていた。背筋をピンと伸ばした、実に堂々としたぼっち飯だ。
髪は昨日と違ってアップにしていた。三つ編みが大きく頭を一回りしている。
俺が前に立つと輝いた目を向けてきた。
「なにか分かった?」
「いや……あんまりうまく行かなかったかな」
華子が舌打ちをする。そして役立たずを見る目で俺を見た。
「スマホのデータも取れなかったの?」
「隙がなかったんだよ」
風呂に入っている間も、風呂に面した洗面所に置いていたのだ。漁ればすぐにバレてしまう。
というよりも、兄貴を出し抜くのは無理だ。俺は簡単に諦めていた。
華子が玉子焼きを口に入れる。ちゃんと飲み下してから俺に言う。
「あなたには失望したわ」
言うほど信頼してたわけじゃないくせに。
それより俺の見解を述べないと。
「兄貴は多分、潔白だよ」
「証拠は?」
「証拠? うーん……」
疑いを晴らす証拠を出すのは難しいのでは?
兄貴が本気で実加子さんと付き合っている証拠? 頭をひねった末にあり得そうなのを言ってみる。
「結婚届があったりすると証拠になるのかな?」
「駄目よ。用紙だけをちらつかせてその気にさせるのが詐欺の手口なんだから」
「……婚約指輪は?」
「それもただのエサね。何十倍ものお金をゲットすれば安い投資だわ」
「むぅ……」
やっぱり証拠なんて出せない。
「あなたも浜口行道に丸め込まれたのね?」
華子がぎろりとにらんでくる。俺の息子が起き上がった。
今、この極上の女に見捨てられるわけにはいかない。なんとしてでも童貞を捧げないと。
「いちおう、話をして探りを入れてみたんだよ」
「で、丸め込まれた」
「いや、あいつの言葉は信頼できると思うよ? 結婚するなら実加子さんだって言ってた」
「口先だけならいくらでも言えるわ。私も……」
「ん、華子も?」
もしかして童貞をおいしくいただいてくれるって話はウソ?
「……私のことは置いておきましょう」
「いやいや、極めて重要だよ。俺にウソついてるの?」
「……まさか」
華子が細く薄めた目で俺を見てきた。少しだけ横向きになって色っぽい流し目を送ってくる。
「全部が終われば、あなたと甘いセックスを楽しむ。その言葉に偽りなんてないわ」
キスするみたいに俺に向かって口をすぼめる。俺の一物は激しく隆起する。
とたんに教室のそこここからひそこそ声がした。
「セックスするってさ」
「あんな童貞くさい下級生と?」
「やっぱりヤリまくってるんだよ」
「生物の真田ともヤッてるらしいぞ」
「だったら俺も……」
普段あけすけな発言ばかりしてる俺だが、さすがに居心地が悪くなってくる。
しかし華子は平気な顔をしていた。この学校には体裁を気にする相手なんていない。確かにそう言ってたけど……。
「ま、まぁ、童貞を捧げさせてくれるならいいけど……」
「ええ、童貞はたっぷりと味わうわ。それより浜口行道よ」
俺に厳しい視線を向けてきた。これはこれで興奮する。
華子は続けた。
「本気で結婚する気なんてウソもいいとこよ。そうやっていい加減なウソで女を不幸にするのが男って生き物なの」
「そうかなぁ、兄貴は女にだらしない奴だけど、下手なウソはつかないよ? そのせいでよけいに話がこじれるくらいだもん」
「あなた、どっちの味方なの? 私? 浜口行道?」
「当然、華子だよ」
俺は即答する。
「だったら私の言うことを聞きなさい? なんとしてでも浜口行道が詐欺を働こうとしている証拠を掴むのよ」
「うーん……」
どうやったら俺の言うことを分からせられる? 素朴な童貞たる俺は口下手だった。
「どうもやる気が見られないわね。ねえ……快人……」
華子が身を乗り出してくる。その視線は……とんでもなく色気があった。
艶やかな唇から熱い息を吐く。
「私と、セックスしたくないの?」
「いや、したいけど。極上の女に童貞を捧げるのは俺の夢なんだ」
「よく分かってないみたいね、快人は……」
「え、なにが?」
華子の視線がどんどん熱いものになる。
ヤバい、トイレ、トイレ!
「あなた、挿れるだけで満足なの……?」
「えっ!」
なにそれ? 俺は挿れることしか考えないんだけど。
「私、スゴいわよ?」
「な、なにが?」
華子が右手の人差し指を目の高さで立てた。
それをゆっくりと自分の方へ引き寄せる。
そして先端を口に含んだ。
指先でゆっくりと口の中をこね回す。
ぬらりとした質感の唇が妖しい動きを見せる。
くちゅくちゅと湿った音をかすかにこぼす。
蕩けた視線で俺を見つめてくる。
指を口から出す。
唾液が糸を引いて口と指先の間に橋を成す。
「はぁ……」と甘いため息。
首を傾げて濡れた指先を見つめる。
「ホント、スゴいんだから……」
「はあああっっっ!」
俺は我慢できずに叫んでしまう。
頬を朱に染めた華子が俺に目を向ける。
「私の言うこと、聞いてくれるわよね?」
「もちろんでっす!」
俺はびしっと敬礼した。この極上の女のためなら火の中にだって飛び込む覚悟だ。
すぐに華子の視線はいつもの覚めたものに変わる。
「じゃあ、今晩も頑張るように」
それだけ言うと、自分の弁当を食べ始めた。もう俺の存在なんてないもの扱いだ。
仕方なしに俺は自分の教室に戻ることにする。
二年生の男子トイレでは、股間を押さえた童貞が列を作っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます