第8話 魔王

「あれ? お気に召さない様でしたか。 それは残念です」

 ヤクドは笑みを浮かべながらウェルに問いかける。

 ウェルは魔王に全力で力を込めながら斬り込んでいるが、魔王の防壁魔法は簡単には破れない。

「ふざけているんじゃねぇぞ!」

 ウェルは怒りを込めて叫んだ。

「私はね、あなた達とこの魔王が出会うことは運命の様に感じるんですよ。 勇者であるあなたとここにいる魔王、この二人を引き合わせないと戦争は出来ないのですよ。 だから引き合わせたのですよ。 この私が! 戦争を永遠に続けるために!!」

 ヤクドはその言葉を吐いて、笑い始めた。

 不気味な笑い。 三人にとってはその笑いには悪意しか感じられなかった。

 その笑いを掻き消すかの様に一発の銃声が鳴り響く。

 デイグがヤクドに向けて銃弾を放ったのだ。

 しかし、銃弾はヤクドの手前で止まり、弾は光になって消えていった。

 ヤクドも防壁魔法を放っていたのだ。

 ただ、ヤクドの方は右手で何かを持っている。

 右手で掲げる様に持っていたそれは光を放ち、右手を中心に魔法陣が出ている。

「いや〜。 自分で作った物とはいえ、惚れ惚れしちゃいますね〜。 魔法を擬似的に出すことが出来る装置。 擬似魔法はあなた達の攻撃も綺麗に受け流すことが出来るのですから」

 ヤクドの自慢話にデイグは舌打ちをする。

「ミナ! あのいかれた野郎から六角形の物を奪え! 俺も全力でいく!」

 デイグはミナの返事を待たず、ヤクドに向かって走り出す。

 ヤクドは右手をデイグに向け、六角形の物から魔法陣が出る。

 すると、魔法陣から火球が飛び出す。

 火球が二発、三発と次から次へとデイグに襲いかかる。

 デイグは必要最低限の動きで走りながら回避をする。

 二発、三発目の火球を避け、ヤクドとの距離を詰める。

 ヤクドは距離を詰められたことで火球から防壁魔法へと瞬時に切り替えをした。

 デイグはヤクドの行動に舌打ちをし、近距離で銃を構え、魔力を込めて銃弾を放った。

 銃弾は光の矢に変わり、防壁魔法の前で高速回転をする。

 しかし、回転は防壁魔法を削ることが出来ず、光の矢はそのまま消え去っていった。

 デイグがそれを見て駄目かと呟く。

 すると、後ろからミナが剣を炎に纏いながら防壁魔法を斬り込んだ。

 ここぞがチャンスだと言わんばかりにデイグは魔力を込め、防壁魔法に向けて二発の発砲をする。

 ヤクドの防壁魔法は斬撃と銃撃を与えたにもかかわらず、まだ耐えている。

 これでも破れない……二人がそう思っていた時、変化が訪れる。

 ヤクドの防壁魔法にヒビが入ったのだ。

 ヤクドは驚きの顔を見せる。

 デイグはそのチャンスを逃すまいと再び銃に魔力を込める。

 ヤクドはマズイというのを顔に出していたが、ミナが目の前で斬り込んでいるので防壁魔法を解くことは出来ない。

 デイグは魔力を込めた弾丸を放とうとした時、銃が火花の音をたてたのだ。

 デイグは瞬時に火花の音を聞き、銃を放り投げる。

 すると、銃は爆発して破片となって飛び散った。

「くそっ! 魔力の暴発か!」

 デイグが苛立ちと共に言う。

 ヤクドは銃の爆発を見てこの好機を逃すまいと防壁魔法の中から氷柱を飛ばしたのだ。

「マズイ!」 

ミナは叫ぶと、ヤクドから距離をとり、氷柱を剣で防ぐ。

 ヤクドは安堵し、距離を離す。

「結果は残念だったが収穫はありましたね。 まだまだ擬似魔法の改良をしませんと。 魔王、帰りますよ」

 魔王はウェルと互角の戦いを繰り広げている間にも関わらずヤクドの声を聞き、返事を返す。

「はい。 分かりました」

「逃さねえぞ!」

 ウェルの怒りが込もった言葉。

 怒りを込めて剣を振り下ろす。

 魔王は手から黒く、禍々しい剣を魔力で作り出し、ウェルの振り下ろした剣を剣で防ぐ。

 鍔競合いになり、お互いが顔を見合わせる。

 ウェルは怒りを込めた顔を、魔王はまるで機械の様な無表情で顔を見合わせていた。

 しかし、鍔競合いは長くは続かなかった。

 ウェルの剣にヒビが入り始めたのだ。

 そして、剣は耐え切れず、刀身が折れてしまう。

 ウェルは刀身が折れると同時に魔王から距離を離した。

 ウェルが柄だけの剣を握りしめ、再び魔王へ突撃しようとする。

 ヤクドが魔王とウェルの間に何かを放り投げた。

 その何かは辺り一面を光で包め、ウェル達の視界を遮る。

 光に包まれ、三人は手で光を隠す。

 光が無くなった時、三人は辺りを見回したが、魔王とヤクドの姿は見えなかった。

「くそっ! 逃げられた!」

「ウェル、落ち着け。 今はこうするしかないだろ」

「まだ、近くにいるかも知れない! 今ならまだ——」

「武器も壊れたのにどうやって戦うのだ?」

 デイグの言葉にウェルは口をつぐむしか出来なかった。

 ウェルの剣は折れ、デイグの銃は爆発し、無事なのはミナの剣だけだが、ミナの剣も刀身がボロボロになっている。

 対抗出来る武器が無くなったのだ。

「とりあえずキーストン王国へ戻りましょう。 今は報告するしないし」

 ミナの言葉に二人は頷き、重い足取りでキーストン王国に向かった。

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