第6話 ミナール

 ウェルとデイグが町に入ってから少しの時が過ぎた。

 ミナールの町の中心部ではある一人の男が椅子に座り、待っている。

 男の耳は尖っており、口からは牙がはみ出ており、とても人間とは思えない様な青白い肌をしている。

「ガーデス様! ガーデス様!!」

一人の魔族が慌て果てた姿で叫んでいる。

「どうした?」

 ガーデスと呼ばれた男は椅子から立ち上がり、慌て果てた姿の魔族に聞く。

「たった今、人間が攻めてきています! こちらに向かっている様です」

「ほう、人間が攻めて来るか。 大勢で数の暴力しかできないようなのがあいつらだからな」

 ガーデスの言葉を聞いて魔族は言葉を濁す。

「ガ、ガーデス様。 その攻めてきている人間は二人だけなのです……二人しか居ないのです」

 ガーデスは魔族の言葉を聞き、耳を傾ける。

「ほう……。 本当に二人しか居ないのか? ならば何故止めれない」

 ガーデスの言葉は威圧を発していた。

 言葉から出て来る怒りの感情。 ガーデスは魔族を睨みつけ、目を血走らせている。

「何故止められないと聞いているのだ!」

 ガーデスは大声で魔族に叫ぶ。

 魔族はヒッ!と言って体を震わせて、口がガタガタと音を立てて怯えている。

 魔族は口を震わせながらガーデスに言う。

「そ、その……その二人のに、人間があ、余りにも強くて、ですね」

「なら、お前は何故ここにいる? お前も魔族であろう? ならば私のために戦ってこい。 そして、魔族に勝利を見せよ!」

「しかし! あの二人は普通の人間ではありませんよ!」

「だから何だというのだ? 人間を倒してこい。 魔族の勝利を見せるのだ」

 ガーデスは魔族を睨みながら話をする。

 魔族は怯えながら立ち上がり、

「はっ! 今すぐに行って参ります」

 魔族はガーデスに背中を向け、立ち去ろうとした時だった。

 銃声が鳴り響いた。

 しかも音の大きさから鳴ったのはこの近くだ。

 立ち去ろうとした魔族はその場で倒れ込んでおり、代わりに二人の人影が見えた。

 一人の男が喋り出す。

「やっと着いたよ。 ここまで来るのに苦労した」

 その男、ウェルは呑気な声を出しながら歩いて来る。

 呑気な声を出してはいるものの、剣には血糊が付いており、服は赤く染まっている。

「おい、まだもう一仕事あるぞ」

「そうだったね」

 ウェルとデイグはガーデスに目を向ける。

 ガーデスは二人を見下ろす様に眺め、二人を確認する。

「よく来たな、人間よ。 私はここの支配者のガーデスだ」

「ご丁寧にどうも」

 デイグはガーデスの言葉に嫌味を込めて答える。

「初めて見たよ。 私の部下達を蹴散らし、ここまで来る人間がいるのを。 特別に私が褒めてあげよう。 おめでとう」

 ガーデスは笑いながら、二人に拍手を送る。

「褒めてもらうついでに欲しい物があるのだけどいいかな?」

 ウェルは笑顔でガーデスに聞く。

「ほう。 これだけ荒らしておいて、これ以上の物を望むと? 何が欲しいのだ?」

「あんたの命だ」

 ウェルはそう言いながら、剣を振り下ろす。 剣の放った場所は強風を呼び、衝撃波となってガーデスに襲いかかる。

 ガーデスは片手を上げ、衝撃波を受ける体制になっていた。

 衝撃波がガーデスを襲う。

 衝撃が止んだと同時にガーデスは笑みを浮かべ、二人を見る。

「それで終わりか?」

 ガーデスは衝撃波を受けているにも関わらず、傷らしい傷が見当たらない。

 当人にとってはそよ風のような存在であったのだろうと言わんばかりの笑みであった。

「全然!」

 ウェルはガーデスに向かって勢いよく走り出す。

 ガーデスは向かって来るウェルに対して、黒い矢を右腕から生成する。

 ガーデスは黒い矢をウェルに向かって投げ飛ばす。

 ウェルは黒い矢が来たことで軌道を変え、黒い矢を避ける。

 ガーデスがもう一度黒い矢を生成しようとすると、乾いた音が鳴り、肩には傷が入っていた。 とっさに肩の傷を庇うように左手で傷を確認する。

「俺もいるんだ。 忘れられるとは困ったもんだ」

 デイグはガーデスに向かって話す。

 ガーデスの肩の傷から光が出ている。

 その光を確認してガーデスは舌打ちをする。

 光が出ているということは光の魔法である。

 光魔法の弾を食らった事によってガーデスの右腕は思った以上に動かせない状況だった。

 ウェルはその間も動き続け、ガーデスとは目と鼻の先まで近付き、走りながら剣を構える。 剣を下から振り上げてガーデスに斬りつけようとする。

 ガーデスは自由に動ける左腕で魔力を込めて剣を防ぐ。

 剣はガーデスの左手の手前で止まり、左手と剣の間には魔法陣が見える。

「防壁魔法か」

 ウェルが呟く。

「私にはお前達の攻撃を防ぐ盾がある。 そう簡単には攻撃は通らんぞ!!」

 ガーデスは叫ぶ。 左手で剣を防ぎながら視線をデイグに逸らす。

 デイグは銃を構えたままガーデスに標的を向けている。

 デイグはガーデスの頭に狙いを付けて銃を発砲する。

 光の弾はガーデスの頭に向かって飛んでいるが、ガーデスの頭の手前で壁に阻まれたかの様に弾ははじかれる。

「効かない! 効かない! 効かない!! お前達の攻撃は私の防壁魔法で防げるのだ。 つまり、私には指一本触れることが出来ないのだ! ハーハッハッ!!」

 ガーデスは二人を見て、笑う。

 この二人ではガーデスを倒せないという余裕を象徴しているかの様に。

 その笑っているガーデスを見て、デイグは溜息を吐く。

「しょうがない。 

 デイグは一言呟き、再びガーデスに向かって発砲する。

「効かないのに抵抗する気か!」

 ガーデスが叫ぶが、弾はガーデスの頭に向かって弾は飛んで来る。

 防壁魔法によって弾は防げる。

 少なくともガーデスはそう思っていた。

 しかし、頭の手前で弾は止まっている。

 ガーデスは目を見張った。

 飛んで来たのは弾では無く、光の矢だったのだ。

 その矢は止まったかと思うと、その場で回転していたのだ。

 防壁魔法を削る勢いで高速回転している。

 防壁魔法と光の矢によるぶつかり合いでお互いの音が悲鳴を上げている。

 防壁魔法が耐えきれないのか、光の矢によって削られていく。

「私は魔族だぞ! こんな人間なんぞより強いはずだぞ! 何故だ! 何故、こんなに追い込まれているのだ!」

 ガーデスが言葉を放っている時も、光の矢は休まず回転し続けている。

 光の矢はガーデスの頭まで目と鼻の先まで来ていた。

 しかし、ガーデスは動けなかった。

 動いたら、ウェルの剣によって斬られる。

 止まっていたら光の矢が刺さる。

「私は! 私はーーーー!!」

 光の矢は防壁魔法を削り尽くし、ガーデスの頭に刺さる。

 ガーデスの魔法が全て解かれて、ウェルは剣を振り抜いてガーデスの胴体を二つに斬った。

「終わったか」

 デイグは銃をしまい、ウェルに近付く。

 ウェルは笑顔をデイグに向ける。

「仕事は終わったな」

 ウェルは剣を納める。

「じゃあ、後は報告だな。 証拠はどうする?」

「証拠じゃ無いけど、証人がいるから大丈夫じゃないの?」

「ああ、ミナのことか。 なら大丈夫か。 じゃあ帰るか」

 デイグの言葉にウェルは頷き、ミナールの町を後にした。

 





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