第1話 道具売ります。
「安いよ! 安いよ! 今ならこの薬草も安くしちゃうよ〜!」
とある村で一人の青年は声を上げて商売をしていた。
その声はよく通り、周りの人々もどれどれと商品を見ている。
「あの〜農具とかは売っとるかいのぉ〜?」
老人の言葉に青年はすぐに反応する。
「はい! ありますよ! すぐにご用意しますね!」
「おぉ〜ありがたい」
青年は農具を老人に見せ、どれが欲しいのかを選ばせる。 老人は道具を手で触り、これを買うと言って、農具を抱えて、喜んで帰っていった。
青年は客の受け答えに対応し、商売を続ける。
そして、最後の客の対応も終わり、青年は店仕舞いをする。
店仕舞いとはまるで自分の店を持っているかのような言い草だが、あいにく青年には自分の店を持っていなく、商売道具を荷車に放り込むだけの作業だ。
青年が店仕舞いを終え、一息つこうとしたら、荷車の前に一人の少女が立っていた。
その少女はしっかりした鎧を着ている。
しかし、兜を被っていないため、金髪の髪や青い瞳を見るのは容易にできた。
そして、腰には剣を備えており、この村の人間ではないことが明らかに分かるほどであった。
少女は青年を見つめ、こう聞いてきたのだ。
「まだ道具って売っていますか?」
「あ! お客さんでしたか。 欲しい物があれば用意しますよ」
青年は笑顔で答える。
「なら、あなたが腰につけている剣はお幾らかしら?」
少女は青年に問いかける。
「いや〜。 この剣は売り物じゃないんですよ。 他のなら色々ありますがね」
「いや。 私が気になっているのはその剣だけだ。 言い値で良いので売ってくれ」
「これには売れない訳があるんですよ。 これを見て下さい」
青年は剣を鞘から抜いた。
鞘から出てきたのは刃がボロボロで所々が欠けている剣だった。 とてもじゃないが売り物にするにはあまりにお粗末な物だった。
「ボロボロじゃないか。 なぜ腰に付けているのだ?」
「この剣を使っていて、色々としている内にこうなっちゃいましてね、今度、修理に出す予定なんです」
「そうか。 その剣は諦めよう。 薬草をいくつか売ってくれないか?」
「毎度!」
青年は薬草を用意し、少女の前で薬草を見せる。
「四百ゼルです」
少女は銅貨四枚を青年に手渡した。
「ありがとうございます」
青年は挨拶をし、少女は笑顔で返す。
そのとき、少女は確認をするかのように聞いてきた。
「この村に来て日は浅いのか?」
「いえ。 十日程滞在していて、ここで商売をやってます」
「なら明日、この村を案内して欲しいのだが良いかな?」
「案内ですか。 それは構いませんよ。 私も移動しながら商売をするのでそのついでで良いのであれば」
「それで良い。 では明日は案内を頼む」
少女はそう言ってその場を離れていった。
青年は黙って見送り、商売道具を片付けて、荷車を引いてその場を離れた。
そして、夜が明けて、青年は朝早くから荷車を引いて目的地へ向かう。
目的地は昨日、商売をしていた場所だ。
青年は目的地に着くと、もう少女は着いており、青年は声をかける。
「お待たせしました。 どちらへ向かいましょうか?」
「どこでもいいよ。 この村がどんな様子か見たいだけだからな」
「そうですか〜。 じゃあ村の中心部の方に向かいますね」
「ああ。 それでいい。 それと敬語はやめて欲しいのだが、できるか? おじさんに使われるとどうもな」
「あぁ、この敬語は商売上の癖みたいなものですからね。 なるべく使わないようにするね」
「ああ、頼む」
「それと俺はまだおじさんじゃないから、まだ年齢は二十八だからね。 お兄さんと呼んでくれ。 分かったね」
「あ……あぁ、分かった」
そうして二人は村で商売をしながらの散歩を行った。
青年は人気があるのか、色んな人と接点を持っている。
少女の村の案内を終わる頃には商売道具はほとんど売れていた。
「いや〜。 今日は絶好調に売れたね」
「私のおかげかな?」
「どうでしょうね。 あなたほどの魔導騎士が来られたといっても大して変わらなかったかもしれませんね」
少女は今の商人の言葉に眉が動いた。
「何故、私が魔導騎士だと分かった」
「雰囲気がね、醸し出しているんですよ、あなたにね。 それにその鎧には魔法の防御も兼ね備えており、あなたは精霊との契約も済んでおられるようだ。 そんな格好されてピリピリされてもなんとなくでも分かっちゃいますよ」
「そうか。 それなら良かった」
彼女は安堵し、剣を構える。
標的は勿論、目の前にいる青年である。
青年は目つきを変え、先程までの優しい商人の顔は全くなっていた。
「来るのか?」
青年の声に反応し、距離を目の前まで詰め、剣を振るう。
剣は甲高い音を立てて、金属音の擦り合う音が鳴り響いている。
剣は青年には届いていなかった。
あのボロボロの剣で防いでいたのだ。
「そんな折れそうな剣で私に私に挑む気?」
「今の手持ちがこれしかないのでね。 何故、攻撃されないといけないのか、その理由を説明してくれないか」
「私は強い人を探している。 ただそれだけだ」
「理由は説明してくれないか。 なら、剣を置いてもらうしかないな」
商人は剣に力を込め、少女の剣と唾迫り合いをし、金属の擦れる音と火花が散る。
少女も力を込めているが、徐々に力の差が分かるように少女の元に剣が近づいて来る。
少女は私が負けるという思いに駆られながらも必死に抵抗する。
少女は青年を睨む勢いで見ようとする。
だが、顔を見た瞬間、驚いた。
青年は片手で剣を受けると同時に、左手で魔法を放っていたのだ。
何かの魔法は少女の頭を強打し、少女のバランスが崩れ落ちる。
青年はその隙を逃さなかった。
剣に力を込め、少女の剣を振るい落とす。
そして、ボロボロの剣を少女に向ける。
「これで、話してもらえるかい?」
「分かった。 話すから剣をどかしてくれるかな」
少女の言葉に青年は頷き、剣を下ろす。
「さて、まずは自己紹介からしようか。 俺はウェルと言うんだ。 あなたの名前は?」
「ミナ。 ミナ・カーストンよ」
「では、ミナ。 どうしてこんなことをした。 答えてもらおうか」
ミナは悔しそうな顔をウェルに見せながら、唇を震わせながら言った。
「どうしても強い人を連れて行かないといけないと思ったから。 私はやらなければならないことがあるの。 その強い人と一緒に行けば願いが叶えられるから」
「うむ。 俺がボロボロの剣を見せたことで歴戦の戦士かなんかと君は勘違いしたわけなんだね。 そして、願いはどんな願いなんだ?」
ウェルは静かに問いかける。
すると、ミナは静かに、だけどもはっきりした言葉でこう言った。
「……敵討ちよ」
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