08:「この状況で、妹と戯れて悦んでいるとはね」
ラウラはきびきびとした動作でしゃがみこむ。兄の体をさすり、じっくり検分していた。
「あ、あのっ! 兄、兄はどうなっちゃうんです!? どうにかしてください、貴方の言うとおりにしたからこうなったんですよっ!」
妹は、涙ながらに訴える。
「……任務そのものは成功させたようね。もっとも、百点満点とはいかなかったようだけど」
「そんなこと言われたって! 私たちはいきなり休日出勤させられたんですよ!? ちょっとくらい、上手くいかなくたって当然です! 良い仕事を期待するなら、サポートくらいちゃんとしてくれないとっ」
すると、ラウラはまばたきした。
自信ありげな印象が、少しだけ和らぐ。
「へぇ。まだティーンエイジャーなのに、良いこと言うわね。まぁ、私もそうなんだけど」
「……えっ?」
ラウラは大人びているため、妹の目には「大人の女性」としか映っていなかった。
「今回は、事態が急だったから、仕方がなかったのよ。……あぁ、貴方のお兄さん、まだ息があるわ」
「本当ですかっ!?」
妹は、血相を変えた。ラウラにキスしそうなくらいに顔を近づける。
「ええ。貴方ほどではないにしろ、
ラウラは兄の体に手を当てた。
ラウラの体内にあるチャクラは訓練によって開発されていた。
生殖器付近にある
ラウラの頭頂部・
そして、
第四チャクラは、心臓に備わっているだけあって、「愛」を司る器官。
そこを経由して、
半分死んだようになった兄の体に、
兄の自然治癒力が活性化。体の完全性を取り戻そうと、急速に全身の修復が始まる。
そして――
「う、うぅん……」
五分ほど、ラウラが手をかざしていると、ついに兄がうなり声を発する。
紅くただれていた皮膚もいつの間にか回復し、もとの滑らかな状態に戻っていた。
「兄さん、兄さん! 目が覚めたんですか!? 痛いところとかないですかっ」
兄は、驚いたように目を開ける。
妹の顔が目の前にあり、少々気後れしたのだった。
「お、いっ、妹ちゃんか。……あぁ、ないよ。ぜんぜん元気だ」
和也はあっさりと体を起こし、妹の頭をなでる。すると彼女は感極まって泣き出し、兄の胸に顔をうずめた。
「うぇ、うっ、うぅぅぅ……にいざぁぁぁんっ!」
兄は、困ったような顔で首をひねった。
「それにしても俺、いったいどうしたんだっけ。よく覚えてないや……」
「どうやら、爆撃機には、まだ投下されていない核爆弾が搭載されていたようね。それが点火してしまい、ちょうど貴方たちのすぐ近くで爆発した――というところでしょう」
ラウラは、肩をすくめて首を横に振った。
「一応、任務を果たしたかと思えば。妙なところで爪が甘いのよ、貴方たちは。呆れるわね」
「その声は……! あんた、ラウラか?!」
「そうよ。愚鈍な
ラウラは、バカにするように鼻を鳴らす。
サポートはしてくれたとはいえ……。
身を粉にして働いたのに、つれない態度をとられて、兄は少々カチンと来た。
「おい、なんだよ。何か文句あるか?」
「なぜ、貴方なのかしら?」
「……はっ?」
兄は、何を言われたのか分からなかった。
「私なら、こんなヘマはせず、もっと上手くやれるのに……はっきり言うわ。気に食わないのよ」
ラウラは腕を組み、兄妹をキツい視線でにらみつける。和也でさえ、その視線にまったく平常心ではいられないほどの、強烈な瞳だった。
「おいおい、こっちは休日返上でやってんだ。もうすこしねぎらいの言葉とかは――」
「まぁ、いいわ。先に少し話がある。着なさい」
ラウラは、持っていたバッグから服を取り出して、兄と妹に渡す。
「これは……」
「そんな格好では、どこにもいけないでしょう」
妹の服は、銃弾のせいで穴だらけだ。兄のものも、核爆発の直撃を受けてほとんど燃え尽きている。
要は、兄妹ともにはだかである。
が、妹はイヤイヤと、わがままな幼児のように強く首を振る。
「こんなとこで着替えられませんっ! 私が裸を見せられるのは、兄さんだけですっ」
「だからって、そんな格好で外を出歩くって言うの? 良いから着なさいよ」
「うっ……」
幸い、兄妹が着地したのは人気のない東京の郊外だったらしい。屋外だが、いそいそとボロボロの服を脱ぎだす兄妹。
「あぁ、そういえば妹ちゃんは水着着てきたんだったな。ちょっと煤けているけど……似合ってるぞ」
和也は、さりげなく褒める。
「やだっ、もぉっ♡ 兄さんのエッチぃっ♡」
と言いつつ、妹は嬉しそうに白いビキニと肌をさらしていた。胸の下に腕を回すようにして強調し、兄に見せ付ける。
「……っ!?」
妹相手とはいえ、そこまで露骨なポーズをされて平静で居られるほど、和也は枯れていなかった。むしろ、そういう面ではごく普通の高校生と変わりはない。あわてて、目をそらしてしまう。
「は、恥ずかしいだろ、そんな格好して。早く着るんだ」
「兄さんに見られるんでしたら、私ぜんぜん恥ずかしくないですよっ。むしろ、いっぱい見てくださいねっ♡」
「俺が恥ずかしいんだっ!」
「ちぇ~っ、兄さんは奥手さんですね。まぁ、そういう所も私は好きですけど」
「血のつながった妹に、積極的になる兄貴がいてたまるか!」
妹は、ぶーたれながらも服を着る。
ついで兄も着るが、二人とも、与えられたのはジーンズにTシャツという簡素なものだった。何であろうと半裸よりはマシなので、兄はとくに文句もない。
が、
「ふ~んっ、ずいぶんとオシャレっ気のない服ですねぇ」
「私が、貴方たちくらいのときから着ているものよ。サイズが合うのだから、何だって良いでしょう」
「サイズ? ……う~ん、丈はあってますけど」
「何が不満なの」
「なんだか、胸のところがすごくキツいんですよねぇ。こう、しめつけられるというか……」
「ッ……!」
ラウラがぎりぎり歯軋りするのが、兄の耳にも届いた。
(妹ちゃん、それ言っちゃいけないやつだろ……?)
確かに、妹に着られたラウラのTシャツは、はちきれそうになっている。
とはいえ、ラウラの胸が平坦すぎるというわけではない。むしろ、原因は妹がグラマー過ぎるということにあるらしかった。
ちらっ、ちらっ、と瞳を左右に動かして見比べながら、和也は
「い、妹ちゃん……。年上の外人さんに体型で勝つとかすごいな」
「ふふんっ、そうでしょう? もっと褒めてくれてもいいんですよ、兄さん。そしたら、こうして触らせてあげてもいいんですけど……♡」
「うわっ……!?」
妹は、不可視のハートマークを飛ばしながら、兄の背中に抱きついた。当然、薄いTシャツごしに柔らかな感触が伝わる。
「……ちょっ、妹ちゃんはしゃぎすぎだ! 他人が見てるだろ」
「休みももらえない私たちに、人目を気にする余裕なんてありませんよ♡ ほらっほらぁ♡」
「うおぉぁっ!?」
兄と妹は、そんな大人びた触れ合いを続ける。蚊帳の外に置かれたラウラは、いやそうな目線を向けていた。
「……この状況で、妹と戯れて悦んでいるとはね。ずいぶん余裕があるじゃないの。
「ちっ、違う! 戯れてなんかっ――」
「貴方の性的嗜好なんてどちらでもいいわ。それより、話を進めさせてもらいたいんだけど」
「性的嗜好」という言葉にツッコミを入れたくなる和也だったが、ひとまずその衝動を抑える。妹も、兄にまとわりついたままラウラのほうを見た。
「結論から言う。貴方たちは以後、私たち『
「……あの、質問いいかな?」
兄は、おずおずと手を上げた。ラウラは、人を殺しそうな目線を投げながら、返答する。
「どうぞ」
なぜ彼女がいらだっているのかは、和也には分からなかった。
怒らせる原因が、いくつも思い当たって……。
ともかく和也は質問する。
「えす、じー、ぴー? って何だ?」
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます