第24話 少女から女性へ

「ユウ兄、一緒に入ろ!」


そこには、何も身に着けていないノゾミの姿があった。

しっかりと両胸の突起部分は、右腕でガードしている。

が、下半身は、何も隠されていない。


 俺は、視線を元に戻す。浴室入口と反対方向の壁を見つめた。

自分自身を落ち着かせるためだ。


 なぜ、彼女は、風呂に入ってきたのだろうか。

昨日、風呂で鉢合わせしたときは、あんなに恥ずかしがっていたはずなのだが。

何かの冗談なのか……?


 しかし、ノゾミは待ってくれない。

ヒタヒタヒタと音が近づいてくる。彼女の足音だろう。


そして、俺の入る湯船の隣で、足音が止まった。


 あえてその方向に顔を向けないが、気配を感じ取ることは、できる。

シャワーの蛇口に、彼女の細くて白い手が、伸びていく様子が見えた。

少しでも首を右に向ければ、彼女の肢体が見えるはずなのだが、なんとか我慢する。

それでも、緊張感と想像力のせいなのか、俺の身体のある部分が熱くなっていく。


彼女は、蛇口をひねり、お湯を浴びているようだ。


浴室には、シャワーの音だけが響く。

俺もノゾミも無言だった。


「ノゾミ」


沈黙が怖くて、なんとか声を出す。

しかし、返答がない。


 聞こえなかったのか、あえて無視したのか。

シャワーの音だけが、ただ、続く。

彼女はそこにいるはずなのだが、動きがない。

そばにいるはずなのに、お互い無音……。

その状態に、空間に、耐えることができなくなったからだろうか。

それとも、横にいる至福ノゾミに、手を出したくなったからだろうか。


自分でも、理由はよくわからない。

俺は不意に、右方向に首を動かしてしまった。


そこには、芸術作品があった。


 シャワーから出た水滴たちは、まず、綺麗な黒髪に到達する。

そこから、端正な顔立ちの瞼、鼻から頬、首筋まで流れ下りる。

華奢な肩や鎖骨を通り、細くて白い両腕を巡り、慎まやかだが美しい双丘で遊ぶ。

お腹やへその辺りを横に見ながら、小ぶりなお尻の曲線を滑っていく。

最後に引き締まった脚を通り、細い足首を伝って、床に到達する。


さらに全身は、ワックスをかけたばかりの車のボンネットのように、水滴が弾いているのだ。


俺は息を飲んだ。口の中が乾いたように思えた。

そんな俺に気づいたのか、ノゾミはゆっくりと目を開けてこちらを覗いた。


「やっと、こっちを見てくれた……」


 そして、ニコッと微笑んだ。

それは、まるで聖母のように。

少女こどものはずなのに、大人の女性のように見えた。


俺は、視線を逸らすことなく、彼女を見つめ続ける。

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女はシャワーを止めた。

そして、湯船の淵に足を掛けた。

さすがに気づき、阻もうとするが、間に合わない。

白く透き通った芸術作品が、俺の両脚の間に沈んできた。


「お、おい、2人入るには、狭いんだけど……」


 ウチの湯船は、大人が1人で体育座りで座って、ようやくゆっくりできるくらいの大きさである。

両足を開いて、間の部分に空間ができ、もう1人、入れなくもないが、狭い。

身体と身体が触れ合い、男女が2人で入ると、なかなか体勢が危険なのだ。

顔を向けるのは、恥ずかしかったからなのか、俺には背中を預けて座っている。


「……足が、伸ばせない……」

「そりゃ、そうだ」


「うーん」


 彼女は、無理矢理足を伸ばそうとした。

そのため、彼女の身体を押し付けられる形になる。

主に前半身で、彼女の身体の柔らかさを体感した。

それと共に、反動で彼女のお尻が、俺のお腹部分を駆け上がる。

当然、その途中には、大事な部分もあり、しっかりおこぼれを頂戴していた。


そして、反動でお尻が来た道を戻ってくる。


 再度、大事な部分を通る。

彼女の両脚は、全体の力を抜いているため、俺の両脚に当たって開き気味だ。

開口部も開いているだろう。

おこぼれを頂戴し、女体の柔らかさも体感している。

硬度OK、侵入角度OK、反動速度OK……。

準備万端。獲物を捕らえられないわけがない。

狙いを定めて、向かってくる獲物にズブッと……。


「……あっ!」


……反動速度が足りなかったらしい。

一瞬、刺さった感じはした。が、勢いが足りなかったため、入口に突入せず、跳ねた。

速度以外にも、潤滑油が無いこと、開口部が若干閉じたことも、敗因になるのかもしれない。


「おっと」

「……えっ?」


慌てて俺は、彼女の両脇を抱えて持ち上げる。


なんとか、俺の理性が勝ったようだ。


……というのは、ここで、彼女の腰を両手で支える選択をしていたら、どうなっていただろうか。

彼女の重みで、その腰は、ゆっくりと下に下りていくはず。

そのまま、彼らの任務は、遂行できていたはずだ。


彼女の悲鳴とともに。


とっさの出来事でノゾミは、驚いて声を上げ、こちらに振り向き、固まっていた。

しかし、一瞬で何があったか理解したのだろう。


「……惜しかったなぁ……」


そんなことを呟く。当然、俺の耳にも届いていた。


「なあ、ノゾミお嬢様」

「……?なんでございましょう、ユウ兄様にいさま


わざと「お嬢様」とつけて呼ぶと、彼女も「兄様」と返してくる。


「こんな形で、初体験してしまうのは、良くないだろう?」

「いいえ、ユウ兄が相手だから、問題ないよ」


先っぽは入ったのでは……それについては、思考の片隅に置いておく。

それを指摘すると、なし崩し的に、男女の営みが始まりかねない。


「そうか……問題ない……か」


そう呟くと、俺のいたずら心がムクッと起き上がってくる。


 風呂に乱入してくるという事案、湯船の中で密着、さらにその相手は、愛しい女性ひと

その女性ひとは若い少女かじつで、男を知らない、何も描かれていないキャンパス……。


しかし、俺の心の中だけの事情で、その果実からだを頂くことは避けたい……。


「ならば、ノゾミお嬢様に、素晴らしい時間を授けよう……」

「わーい」


 俺のいわば「宣言」を、彼女は軽く返す。

多分、彼女は、俺が今から、何を実行しようとしているか、予想だにしていないだろう。

俺は左手を、彼女の身体の左脇方面に伸ばす。目標は、左側にある丘だ。

一方、右手は、彼女の両脚の付け根に向かっている。


……挿入は我慢した。しかし、俺の一部分は、まだ元気で熱を持っている。

仕方ない、彼女には、彼らの慰み物になってもらおう……


俺は、勝手に自己解決して、彼女の城を攻めていった……。



★★★



1時間後、俺たちはキッチンにいた……。


2人とも裸である。

そして周囲は、水が飛び散ったかのように、濡れている。


ノゾミは、壁にすがり、座り込んでいる。目が虚ろだ。

何をするのも、力が入らないのか、動いてくれない。

仕方ないので、湯船からお姫様だっこをして、ここまで連れて来た。

彼女は決して、湯に当たったわけではない。


原因は、俺のイタズラにある。


俺は、丁寧に、バスタオルで、ノゾミの身体につく水滴を拭き取る。


イジメすぎた……


少し後悔した。

まあ、女性の喜びを、立て続けに3回味わわせたら、そうなるか……。

先程までは、少し痙攣していた。今は、少し落ち着いているようだ。

それでも、呼吸が少し早い。肩で息をしている。


しかし、まあ……


俺は、この1時間のノゾミの様子を思い出していた。


最初の30分間は、余裕があったようだ。

にこやかに会話ができるくらいには。

じゃれ合いのような感じだったように思う。


最近は、雑誌や友人からそれとなく情報が入る。

頭でわかっているうちは、軽く考えていたのかもしれない。


しかし、それ以降は、余裕がなくなり、次第に顔を歪めてくる。


 彼女の身体に何かスイッチが入ってしまったようだ。

……確かに、「自分が」どんなことになってしまうのかまでは、雑誌や他人では、表現できないからな。

情報がないから、若干、不安にも、なったのではないだろうか。


 雑誌の体験談でよく目にする「自分が自分ではないような感覚」。

そんな感覚は、普段の生活で味わうことは、ほぼない。

かくゆう俺も、そのようなことは、経験したことがない。

男の場合、熱くなるのは、ごく一部分。

身体の制御が効かなくなることは、ほぼないに等しいのだ。

専用の道具を使えば、女性と同じように、身体全体で感じることはできると、聞いたことがある。

が、それを利用したことはない。利用する予定もない。


 この辺りから、ノゾミの息が荒くなり、微かな声を発し始めた。

浴室だから、小さくてもよく響く。

さらに続けていくと……。




……彼女の身体は、間違いなく、少女こどもから女性おとなになっていった……




 その時の様子を、思い浮かべながら、自分自身についた水滴も、落としていく。

落とし終わって、彼女の方に視線を向けても、状況の変化が乏しい。

相変わらず、肩で息をして、裸で座り込んだまま。

両腕は、小ぶりな胸を隠さず、ダランと下げたままである。

しかし、虚ろだった目は、瞼が下がり、通常状態に戻りつつあることを示していた。


 俺は、トランクスを履くと、そのまま洋室に向かい、布団を敷いた。

キッチンに戻ると、彼女の姿がない。

その代わり、浴室のトビラが閉まり、中からシャワーの音がする。

風呂に入り直すようだ。


とりあえず、平常に戻った彼女を見て安心しつつ、俺は寝間着に着替える。

青と白のストライプのものだが、これしかないので仕方がない。




★★★





 再度、風呂から上がったノゾミは、俺の目の前で水滴を拭き取っている。

白く透き通った肌を、余すことなく目に焼き付けることができた。

彼女の中では、恥ずかしさが消えてしまったのかもしれない。

あ、目が合った。

彼女は一瞬動きを止め、浴室内に去っていく。

思わず苦笑してしまった。



 昨日と同じように、髪にドライヤーをかけている。

上半身には、大きいサイズのTシャツを着ている。

胸の突起物らしき角が見えるので、Tシャツの下には、何もつけていないようだ。

Tシャツから、白くて細い両脚が伸びているが、下着を履いているかどうかまでは、確認できていない。

ドライヤーを済ませ、髪をひとまとめにした後、3つに分ける。

緩く三つ編みをするようだ。


 俺は座り込んで、そんな彼女を見つめていた。

暇ではあったが、スマホを弄る気にもなれなかった。

一番興味をそそるものが、目の前に存在する。

それ以外の理由は見つからなかった。


「……ユウ兄」


 三つ編みを編み終わり、近づいてきたノゾミに声を掛けられる。

いったい最初にどんな言葉にを発してくるのか。

あんなことをした俺に。

息を飲んだ。


「……」


 彼女は、黙り込む。

何とも言えない表情をしていた。

言葉にするのも、ためらっているのかもしれない。

俺自身も、何とも言えない表情をしているのかもしれない。

勢いでイタズラを敢行したが、やり過ぎたことに関しては、反省しなければなるまい。


「……あれって、何?」

「……何って……えっ?」


予想外の言葉に、思わず聞き返してしまう。


「ユウ兄、あの動作や行動とか、どうするのか、説明して」

「……えっ?」


どうするのか説明してって言われても……なぁ。

参った、これ、説明しなくてはダメなのか?


「どうしても説明して欲しい?」

「うん」


「ノゾミ、お前の恥ずかしい表情とか行動とかも再現することになるけど、いいのか?」

「うん、私、自分がどうなったのか、あまり覚えてないから」


「覚えてないのか?」

「うん。だから、どんな様子だったのか、教えて」


覚えてないのか……。

しかも、その様子を教えて、そんなリクエストをするなんて、驚きだわ。


「ねえ、ユウ兄、お願い」


仕方ないか。教えてしんぜよう。



 俺による、大巨編が始まった。しかし、それは約30分で終了することになる。

ノゾミが身体を使って説明してくれっていうものだから……。


結果、彼女が4回目の喜びを感じ、痙攣を起こすことになった。


 身体が、冷めてるだろうと思っていたら、そんなことはなく、到達点まで異様に早かった。

同じような行動を示したため、彼女の潜在意識が、勝手に盛り上がってしまったらしい。

そこで続行不可能となり、全体の説明があやふやになった。


よせばいいのに……。

動けなくなった彼女を、布団の中に押し込み、その隣に俺も入る。


……そういえば、ショートケーキとモンブラン…。

冷蔵庫に入れていることを、完全に忘れていた。

仕方がない、明日の朝に食べるか……。




そんな感じで、夜が更けていくのであった……。

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