第10話 ワクワク初夜探索

 夕ご飯を食べて、風呂にも入った。

浴室では、いつも見ている風景との変化を感じられ、少々、新鮮だった。

見慣れない、ボディーソープ、シャンプーやリンス、コンディショナーの数々。

それらは、ノゾミが持ち込んできた物である。

彼女のボディーソープなどのの香りが充満していて、落ち着かなかった。

そんな気持ちの高ぶりを、なんとか湯船につかることで落ち着かせて、風呂を出る。




 引き戸を開ける。

部屋には、脚を伸ばして座り込み、スマホを見つめているノゾミが居る。

いつの間にか、長い髪は後ろにまとめて三つ編みにしている。

これもまた、先程までと雰囲気が変わっていた。

昨日までは、なかった光景。

小さくて華奢な、黒髪、後ろは三つ編みの女の子。薄い水色の寝間着が映える。

それに引き換え、俺の方はTシャツにトランクス。

初日くらいは、何かズボンでも履こうかと思ったのだが、気にしないことにした。


 俺が部屋に入ってきたことに気づいたのか、ノゾミが顔をこちらに向ける。

俺の姿を見て、顔をしかめる。


「どうした?」

「……ユウ兄って、服、気にしないひと、なの?」

「……あまり服を買いに行かないな……」


 彼女は、顔をしかめた状態で、動作が止まっている。

何かを思いついたのか、急に笑顔になり、こんなことを提案してくる。


「今度、一緒に服、買いに行きましょう……ね」

目が真剣だ。

「うら若き乙女の前で、その格好は有り得ない!反論は聞かない!」


言葉の勢いに、俺は辟易する。


「今度の日曜日に、買い物行きましょう。決定!」


 有無を言わず、来週日曜の予定が決まってしまった。

生活費の管理を決めたときもそうだったが、ノゾミって押しが強いな。


……これから先、俺の主張は、通るのだろうか……。


 そんな将来への不安が、頭をもたげてきたが、今は気にしないことにする。

彼女の方に目を向けると、「デート、デート」……と、ご満悦である。

そうか、デートの約束とも取れるのか。

彼女が笑顔になった理由に納得しつつ、苦笑する。


……トランクスだけなのは、さすがにアウトだったか……。

自分自身の見通しの甘さに反省しつつ、寝間着のズボンを出してきて、履いてきた。

ノゾミはチラッとこちらを見て、何も言わずに微笑んでいる。

今はこの格好で良いらしい。


「……私の前で、格好悪いユウ兄は、許されない」


そんな、言葉が聞こえたような気がしたが、聞かなかったことにしよう。

うん、聞いてないぞ……。



★★★



 しばらくの間、お互い、思い思いの時間を過ごしていた。

俺はパソコンの前でネットサーフィン、ノゾミはスマホを弄っている。


夜も更けてきた。


「そういえば、ノゾミ」

「なあに、ユウ兄」



……呼ぶと答えてくれるこの関係、いいなぁ……。

初日にして、そんなことを思っている自分に、少し呆れてくる。

ひとのぬくもり、ひととのつながり、ひととの生活……。

自分で思ってた以上に、焦がれていたようだ。



「そろそろ、寝ようか」

そう言って、収納から布団を出す。


 俺の家には、たまに趣味関係の友達が泊まりにくるということもあり、布団は3セットある。

今日みたいに、急遽1人泊まるということになっても、対応可能。

布団を2セット、収納から下ろす。


「俺はキッチンで寝るよ」


 さすがに、同じ部屋で寝るのは危険だと思う。

俺の精神耐久値が持たない可能性がある。

それに、ノゾミが、1人じゃないと眠れないということもあるかもしれない。

睡眠については、ひとそれぞれ、他人のわからない、変なこだわりがあるものだ。


 そう思って、俺が使う布団を担いで、キッチンに移動しようとする。

後ろからTシャツの端をつかまれて、引っ張られる。

引っ張られた方向に振り向く。


「一緒に寝ようよー」

「……いいのかい?」

思わず、そんな言葉が口をついて出る。


 この時期のキッチンは若干肌寒いし、慣れてないので、無事に眠れるのかどうか、不透明だ。

そんな潜在的な意識がそうさせたのかもしれない。

どうやら、ノゾミが絡むと、決意したことが簡単に覆ってしまうらしい。

そんな俺ってどうなんだろう、と、内心呆れながら、ため息をついた。



キッチン側を頭にして、敷布団を2枚、隣り合うように敷いた。

少し肌寒いので、掛布団と毛布も一緒だ。ノゾミは、脇で立って様子を見ている。


 敷き終わると、布団に入る。

左肩を下にして、横向きに寝転がる。

スイッチが入ったように、目がトロンとしてくる。

明日からは、平日。いつも通り、仕事だ。

早く寝ないと、身体が持たないぞ……。

自分自身に言い聞かせて目を閉じた。




睡眠開始……、のはずだった。




 掛布団が動く。

布団の中に少々の冷気が入ってきているように感じる。

それもすぐに遮断されたようで、元のぬくもりに戻ったようだ。

俺は、再びまどろみに入ろうとする。


しかし、それは許されなかった。


 右腕を何者かに捕まれ、右脚を2本の何かに挟まれる。

そして、背中には、2つの存在感のある、柔らかなものを感じている。

俺は、自分自身がどのような状態になっているかを、一瞬で理解した。

これは、かわいい許嫁が、布団に入ってきて、絡んできている……と。

右腕をつかんでいた彼女の腕をつかみ、目を瞑ったまま、身体を反転させる。

右側を下にした状態で、彼女と向き合った形になったはずだ。

抱き寄せたなら、さぞ、驚くだろう。

そんなことを思いながら実行に移す。

ノゾミの肩をつかみ、背中に腕を回した。


……が、驚いたのは俺の方だった。


 俺の手のひらが触れたのは、布の感触ではなく、つるつるした肌の感触。

寝間着どころか、ブラジャーの紐の存在すら、見つけることができない。

肩のぬくもり、肩甲骨と思われる凸凹が、直接左手のひらに伝わってくる。

首筋から肩口、そして背中まで、手のひらを誘導するも、布地の存在を見つけることができなかった。

1つにまとめてあった三つ編みは、前に回しているようだ。

俺は、思わず、唾を飲み込む。


……裸?彼女は今、裸なのか……?


 これは第2の挑発なのだろうか。

それならば、冷静に「楽しく」迎え撃たないとな。

しかし、挿入活動はしない、そう堅く誓う。

目を瞑って、あえて視界を確保していない。

想像力を精一杯働かす。眠気は、一気に吹き飛んだ。


いたずら、開始である。


 今の状況確認から入る。冷静に。しかし身体の1部は熱く……。

敵は俺の正面にいる。

肩と背中に布地の存在が確認できなかったため、おそらく上半身は、裸であろう。

と、いうことは、目の前に小ぶりな突起物が存在していることになるが……。


そこには、触れずに行く。


 抱き寄せた辺りから、お互いの右頬が触れあっている状態になっていた。

鼻先にいい香りが届けられている。彼女の髪の匂いであろうか。

耳には、彼女の息づかいを感じることができる。言葉は発していないようだ。

しかし、緊張している気配を感じる。


彼女の意図は、よくわかっていない。


美味しく、今度こそ頂いて欲しい、そんな意味なのか。

はたまた、勝手に寝てしまった俺に対する、抗議のつもりなのか。


今となっては、どちらでも構わなかった。

ただ、面白そうな「おもちゃ」が目の前にある、それだけである。



 彼女の背中に当てた、左手のひらを、下半身方向へ動かし、探索を開始する。

五指を滑らすように、乙女の柔肌を移動させていく。

それに合わせて、彼女が身体を震わせるのがわかる。もぞもぞと動いているようだ。

空いている右手を、彼女の腰と敷布団の隙間から通し、背中に回す。


彼女が逃げないように。


 そして、右手のひらも背中から下半身方向へ、探索に回すが、布地を発見することができなかった。

まさかの全裸なのか。右手の五指を滑らせていく。

腰から臀部へ。

恥ずかしさからなのか、彼女の身体に力が入っていく様子が腕を通して伝わってくる。

そんなことにもかまわず、臀部を撫でまわす。

一方、左手の五指は、内腿へ移動させて、感触を楽しむ。


 傍から見ると、30の男が16の少女の肢体を弄んでいるという、最低な光景である。

が、同じ布団内で繰り広げられている、どこから見ても「夫婦の営み」。

まだ「夫婦」ではないが、誰も文句は言えないだろう。





 10分近く経ったか、俺は一心不乱にノゾミの身体の探索に勤しんでいた。

首筋、肩口、背中から腰、臀部、腿、内腿、そして足先まで。

軽ろやかに、触れるか触れないかを調整しながら、乙女の柔肌というリンクで、十指を躍動させる。

まるで、ピアノを弾くかの如く、優しく、弾むように。


 それでも、あえて、胸と股の付け根には触れなかった。

誰にでも解る、在り来たりに素晴らしいものは、いつでも探索できる。

それよりも、自分にしか見つけることのできない、より素晴らしいものを見つけ出した方が楽しい。

一般的には「焦らし」という手法ではあるのだが、挿入活動をしない今回には、あまり関係がなかった。




 長く身体を触られているからだろうか。

俺の耳には、ノゾミの、尋常ではない息づかいが届けられている。

16歳という、少女の域から脱し切れていないその肢体からも、女性おんなを奏でることができるということを、証明しているようにみえた。


 荒い息をして、恐らく赤く染まっているであろう彼女の表情を確認したい。

そんな欲望に負けそうになる、が、こちらも我慢。

尚も、左手は彼女の両内腿を、右手は背中から腰を移動させる。

すでにその肌は、湿っぽいものが浮かんでいる。布団の中は、高温多湿になっていた。

彼女がもぞもぞ動く。くすぐったいのだろう。

まだまだ「青い果実」。開発はされてないらしい。





 ふと、左手を彼女の頭付近に持ってくる。

頭を撫でる。そこで俺は目を開けた。

目の前には、いきなりの行動変化に、どう反応していいのかわからない、そんな表情の彼女がいた。


「……ノゾミお嬢様」

「ハァ、ハァ、ハァ……」

彼女が息を整えるまで待つ。


「ハァ、ハァ……何…………?」

そう返事した後も、呼吸は少し早いようだ。


「なんで、俺の布団に潜り込んでるの?」

「ハァ、ハァ……えっ?一緒に寝たかったから……」


「……で、なんで何も着ていないのかな……?」

「私、いつも裸で寝るの……ん……」


そう答えた後、身体をよじらせる。

俺の左手が彼女の耳を触ったからだ。



ほほう。ポイント発見。

彼女の耳に軽く息を吹きかける。


彼女がビクンとなった。


よし、今日はこれで良しとするか……。満足満足。



★★★



「ノゾミー」

「なあに、ユウ兄」

すでに呼吸を整えたノゾミは、俺の胸の中に抱かれている。


「入ってくるのはいけどさ、全裸は勘弁して」

「なんでー?」


「さっきみたいに無駄な探求心が起こってしまうから」

「私……、大歓迎なんだけど」

笑顔で答えてくる。

「……まるで、ユウ兄に全身で抱いてもらっているようで……気持ちいいし……」

そこまで言うと、赤くなって俺の胸に顔を埋める。


「明日、平日。明日、仕事。OK?」

「……」


「俺、寝たいの。寝不足で仕事する、これ命にかかわるから」

「……ごめんなさい」

彼女の声が沈んでいる。理解して反省したらしい。

話し合いの結果、明日からは、寝間着の上部分とショーツを着るということになった。



「……明日からは、布団1枚しかいらないな……」

「へへへ……」

俺の言葉を聞いて、嬉しそうにしている。

こうして抱きしめていることについては、嫌いではない。

ぬくもりと幸せを感じる。


「なあ、ノゾミ」

「ん?」


「耳、弱いんだな……フッ!」

彼女の耳に息を吹きかける。

ついでに、耳の内側をペロッと舐める。

「……ヒャッ!」

ビクンと反応した。何度もする。楽しい。


「……もう、ユウ兄、きらーい……」


そう言ってそっぽを向く。それでも俺の傍から離れるつもりはないようだ。


 俺は苦笑する。

どれだけ俺のこと、好きなんだ。そして信用しているんだ……と。

その信用が、今の俺にはまだ重い。悪くはないんだけど、慣れるまで時間かかりそうだ。




 いつの間にか、ノゾミは、俺の胸の中で寝息を立てていた。

よくもまあ、布団に潜り込んだ、顔を出さない状態で眠れるなぁ……。感心する。

男としては、突起物や付け根部分も普通に気になるが……、それは、またの機会に。

彼女の頭を撫でて、今度こそ眠るために目を瞑る。




2人の静かな寝息が空間を支配する。





★★★




……業務完了。私も家に戻りますか……

希様のアノ声、聞けませんでしたが、弱点はわかりました。耳ですか……

私も、試してみますか……



影も帰途に着く。

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