第8話 水の滴る食べ頃果実
シャーーーーー
浴室から、シャワーの音がする。
今、ノゾミが入っているのだ。
初めての共同作業「未遂」で、汗をかいたらしい。
入りたいと、彼女に言われて、湯船にお湯を張った。
20時すぎ。彼女が出た後に、俺も入ろう。そんな時間である。
俺は、洋室で座り込んでいた。
洋室とキッチンの間の引き戸は閉められている。
浴室が狭いため、キッチンが必然的に更衣場所になるからだ。
暇なので、テレビを見ている。
……が、テレビの内容は目にも耳にも入っていない。
ノゾミとの「これから」について、いろいろ考えていた。
そのくせ、シャワーの音に耳をすましているという矛盾。
どれだけ、彼女のことを気にしているのか。
そんな自分に呆れてしまう。
★★★
……俺は、ノゾミを、襲ってしまった……。
小さな膨らみを、直に触ってしまった。
揉んで、擦って、
16歳の、高校生の、未成年の少女のそれを。
脅すだけ、怖がらすだけのつもりが、勢い余って……。
ノゾミは、襲っていいと、言っていた。
エッチをしてもいい、そう思っているようだ。
誰彼構わずということではなく、俺限定だというところには、胸を撫で下ろしているが。
しかし、彼女は、まだ
興味本位にエッチを体験したい、そんな感じに見える。
それは、俺が相手であっても、違う気がする。
もう少し、お互いのことを理解した上で、そんな関係になるべきだ、そう思っている。
未遂とはいえ、手を出してしまった後では、説得力なるものは欠如しているのだが。
そして、身体の関係を持ってしまうと、妊娠の可能性を直視する必要がある。
学校のバックアップが完璧であっても、万が一、妊娠してしまった場合、苦労するのは、ノゾミである。
16歳という若さで、お腹を大きくしたときの世間の目は、必ずしも歓迎するものばかりではないはずだ。
コンドームを使えば大丈夫だろう。だが、完璧に防げるというわけではない。
ならば、子供ができなければ、問題ないのか。
違うな。
問題のすげ替えだ。
俺が覚悟を持てるかどうかの問題だろう。
ノゾミと2人で暮らしていく。彼女は学生だ。稼ぎはない。
生活に掛かるお金は全て、俺が稼いでくることになる。
今の会社での仕事の稼ぎであれば、全く問題はない。
彼女がどれだけ、彼女自身のために浪費するのかは、未知数だが、後で考えればいいこと。
ある程度ならば、何とかなる。貯金もある。
この際、彼女と結婚すると、アイダコーポレイションの次期社長候補になる、ということは考えない。
直接言われたわけではないからな。
ノゾミと家族になる。それについては、何の問題はない。
子供が生まれた場合。
それについても、同僚のことを考えれば、多少の節約は必要だろうが、大丈夫だろう。
……意外とネックとなる事柄がないな……。
彼女が俺のことを「
どちらの両親も、俺たちの結婚には賛成。
彼女の学校には、報告済で、ココから通うことも許可が下り、苗字も「佐々木」になっている……。
これは、結婚してもいいのか……?
俺は、封筒から婚姻届を取り出す。
俺の書くところだけが白紙。ボールペンを取り出す。
自分の名前と生年月日、住所、新居と本籍地を埋める。
……しかし、そこまで埋めた後、封筒に納めた。
婚姻届の提出。
書いたものの、踏ん切りがつかない。
既知の仲とは言っても、久しぶりに会った女性との結婚。
それを、今日、たった1日だけで判断してしまうのは、非常に危うい。
出会って1日で結婚。
お見合いや、電撃婚でも、ここまで早い結婚は聞いたことが無い。
……会社の上司や同僚に相談してみるか……。
今は、ノゾミの「色気」に、どう対応するか。これが問題だ。
先程の「共同作業未遂」。
自分の理性が、抗うことなく簡単に崩壊してしまうことがよくわかった。
とはいえ、子供が生まれないようにすればいいのか。
その行為に及ばなければ、問題ない。
彼女が卒業するまでは、子供がデキてしまうのは、いろいろ良くないだろう。
大学に行きたいなら、さらに延長するか。
彼女が学生を卒業するまで、身体の関係を持たない。
文句を言われるだろうが、後々の面倒ごとを考えると、止むを得ない。
「その行為に及ばない」ということを考えれば、さっきのことは、問題にすらならない。
1人で勝手に納得する。
そうか、絡んで来たら、迎え撃とう。そして、イジメつくそう。
俺は、自分勝手にそんな決意を固めた。
ノソミ、ごめんな、迫って来ても、鋼の心で無になるよ。
★★★
浴室で鳴っていた、シャワーの音が止む。
「ユウ
ノゾミが呼んでいる。
「バスタオル、あるー?」
持って行ってなかったのか?
バスタオルを手に、引き戸を開ける。
そして、キッチンに入る瞬間に、俺はフリーズしそうになった。
「ありがとー」
ノゾミは右手を伸ばして、バスタオルを受け取ろうとしている。
浴室の入口前で、生まれたままの姿を晒して。
透き通るような白い肌が、一部温まって赤身を帯びている体躯が、俺の瞳を容赦なく、射貫いてくる。
長い黒髪からは、水滴が下に、肌を伝っていくところも見える。
彼女は、バスタオルを受け取ると、その場で身体の水滴を拭き始めた。
簡単に体の水滴を拭き終わると、髪の毛に取り掛かる。
その作業中は、小さな膨らみやその突起、細い両脚も、その付け根部分も、かわいいヘソ、長い髪の間から見え隠れしている鎖骨すらも……。
余すことなく、隠すことなく。目に飛び込んでくる。
彼女は、俺の目線など、気にしていないように見える。
身体中の水滴を取るため、手を上げて脇を拭いたり、脚を広げて膝内にタオルを移動させたり。
その行動の1つ1つが、俺の決意に呼びかける。
この「青い果実」を余すことなく食しないのか、と。
いいじゃないか、誰も困らない、お前の特権じゃないか、未来の嫁だぞ、とも訴えてくる。
落ちつけ、俺。これは試練なのだ。
試練と感じながら、眼福だと思っている自分もいる。
落ち着かせるため、大きく息を吐く。
「ノゾミお嬢様よ……」
「なにー?」
「俺は、余すことなく、見つめてもいいということなんだな?」
そんな許可を、確認を取るような言葉を、彼女に投げつけてみる。
開き直ることにした。楽しもう、この幸福を。
彼女の体躯に対して、嘗め回すように、目線をぶつけていくことにする。
じっとりとねっとりと。
観察を開始する。
足元。
足拭きのために置いていたタオルが敷いてある。
その上に存在している、細い足。可愛い足の指が並ぶ。
かかとは揃っている。体育で使う、「気をつけ」の体制である。
足の甲。血管が浮いて見えるかまでは、ここからは確認することは不可能である。
くるぶしを観察。足首は細いな。
脛の裏の筋肉。無駄な脂肪は無さそう。運動は苦手そうに見える。
膝。風呂上りということで、少々赤みを帯びている。
太腿は……。
「……」
ノゾミは、静止していた。
それに気づいた俺は、彼女と目線を合わせる。
風呂で温まって、血色の良くなっていた顔が、さらに赤くなっていく。
バスタオルで、口元を隠している。
バタン
浴室の引き戸の音がした。浴室に戻ったようだ。
俺に、余すことなく肌を晒しているという、そんな事実に、ようやく気が付いたらしい。
これが本来の反応だよな。
エッチに対して積極的な行動を取る彼女ならば、第2戦目も考えられたので、心の底からホッとする。
俺は、静かに背中を向けて、洋室に戻る。
ゆっくり引き戸を閉めた。
座り込んで、時間を過ごすことにする。
テレビでは、おしゃべりの司会者が、番組を盛り上げていた。
★★★
しばらくして、引き戸が開く。
ゆったりとした上下の寝間着に身を包んだノゾミが洋室に入ってきた。
薄い水色無地、薄手の長袖、長ズボンスタイルである。、
肩にはタオルを掛け、髪の毛で寝間着が濡れないようにしているようだ。
彼女は、テーブルの前に座り込む。
卓上鏡をセットして、ドライヤーを取り出した。
ゴーーーーーーー
ドライヤーの音が部屋中に鳴り響く。
俺自身は、髪の渇きを自然に任せることにしているので、音に新鮮さを覚える。
しばらく、長い髪を乾かす。量が多いと時間がかかるものなのか。
当たり前のことに感心している自分に気づき、苦笑する。
自分以外の個が同じ生活圏を活動している。
しかも、自分を好いてくれている、害を成さない存在。
心の仲に温かいものを感じる。
彼女の方に目を向ける。
すでに髪を乾かし終えたのか、片付けに入っていた。
片付け終了後、俺の隣にチョコンと座り込む。
足を抱え込んでいる。いわゆる「体育座り」。
顔は膝上に伏せていた。
「……見た?」
顔を伏せたまま、聞いてくる。
「……ああ、綺麗だった……」
正直な感想を添えて、肯定する。
「……」
体育座りをした状態のまま、両足をバタバタ動かし始める。
「……うーーーーー」
小さく、叫んでいるそんなノゾミを、心からかわいいと思う。
ついつい、右腕を伸ばし、彼女の肩を抱いてしまった。
「ななななななな……何するのよ!」
彼女は抗議の声を上げる。しかし、逃げようとしない。
にやけてしまう。
今の俺は、どんな顔をしているのだろうか。
決していい顔はしていないだろう。
寝間着の高校生の肩を抱く、どこにでもいる中年。
その中年の表情はにやけている。犯罪だな。
外でこんなことをすると、警察にしょっ引かれるか、独り者に刺されるか。
そんなことを考えながら、洋室で2人過ごす。
2人の生活初日。次第に夜が更けていく……。
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