第7話 据え膳食わぬは
「お金を頂戴。生活費の管理、私がする」
ノゾミの何の脈略のない提案に、俺は驚いていた。
確か、料理をする、したくないとか、そんな話だったような気がする。
その話がなぜ、「生活費の管理」の話になるのだろうか。
「えっ?いきなり、何の話?」
「あー、はい。私に毎日、料理してほしいってことだよね?」
「まあ、俺の希望はそうだな」
「だったら、私。買い物に行くことになるよね?」
「ああ」
「買い物でお金が必要。だから、お金ちょーだい!」
ああ、そういうことか。しかし、生活費の管理をしてもらうのはちょっと悩む。
「買い物のお金を、渡すだけでいいのでは?」
「えー、でも、私、学生だから、銀行とか行くことができるよ?」
うーん、確かに仕事していると、定時に終わらない限りは、銀行や役所とかに行けないことは、多い。
ただ、16歳の学生に何十万かの管理を任せるのも……。
そして、彼女に生活費を管理するということは、俺自身が自由に使えるお金が無くなることを意味する。
「俺の自由に使えるお金が無くなるから、やはり無理」
「えーっ!結婚したら、どうせ私が管理することになるんだから!いいじゃん!」
いいじゃん、だと……?
ちょっとまて。
「おい、お嬢様、語尾が変わっているぞ」
気になったので、話を
「あー。気づいちゃった?」
言葉を無くしている俺に、衝撃の事実を告げる。
「お嬢様言葉って、難しいよねー、ムズムズして、もう、無理」
えーっ!今までの言葉遣いは、演技だったのか。
「やっぱり、この普段通りの言葉がいいよね、ね、ユウ
うわー、この豹変ぶりにびっくり。どうするんだ、これ。
ついでに年上に使うはずの丁寧語まで、何処かに行っている。
「そうか…、これが
「うん。友達の前ではこんな感じ。親とか親戚の前では、『お嬢様』してるかなー」
「そうデスカ」
「ユウ兄は、『お嬢様』の方が、よかった?」
うーん、お嬢様よりも、今の言葉使いの方が違和感はない。
本人がこちらを「素」と言うなら、断る理由はない。
「正直、今の方がいいかな」
「ありがとう」
ノゾミはそう言って、俺の後ろから腕を回してくる。
背中に2つの膨らみをわずかに感じることができる。わずかに、だが。
「いや、その、密着は困るのだが」
「私は、気にしないよー。ユウ兄、大好きー!」
そう言って、なおも密着してくる。
「なんだったら、今日、エッチしてもいいよ?」
肩口から顔を出し、頬を寄せてくる。
なんてことを言ってくるのか、この
「本当か?じゃあ、頂こうかな」
彼女の片腕をつかんで彼女の方へ向く。そして、彼女の背中に両腕を回した。
彼女の両腕も俺の背中に回っているようだ。
俺と彼女、至近距離で顔を合わせることになった。
「え?……えっ……?」
驚いている。でもまだ笑顔だ。この顔は、俺を信じ切っている。
さらに俺は、彼女を押し倒した。
俺の身体を彼女の両脚の間に存在させて、起き上がれないようにする。
彼女のスカートがめくれて、中身が見えているが、今は気にしない。
背中に回っていた、彼女の両腕を強引に外し、床に押し付ける。
カーディガンがはだけて、白いブラウス越しに、小さな2つの膨らみが、存在を主張している。
俺は、躊躇なく、膨らみの間にあるボタンを2つ、外す。
その隙間から、肌色と薄い桃色の下着が見えていた。
ブラウスと桃色の隙間から、彼女の小さな膨らみに右手の平を這わす。
じっとりとした、体温と湿り気を感じた。
「男と2人きりのときに、そんなこと言うと、我慢できなくなる。襲うぞ!」
俺はそう叫びながら、右手の平を動かす。
柔らかい部分と、その突起部分を弄ぶ。
「襲うぞ」と言いながら、すでに襲っている自分に狼狽してしまう。
ここまですれば、さすがに恐怖を覚えるだろう。
独身男の部屋で、2人きり。
そんなときに「エッチしてもいいよ」なんて、言わなくなるはず……。
そう思ったのだが……。
彼女の顔を見る。頬が赤く染まっている。
心なしか、息が荒くなっているように見えてきた。
「ユウ兄になら、……私、……襲われてもいいよ……」
声が震えている。
それは、恐怖からだろうか。
彼女の表情を見ると、そうではないとすぐにわかってしまう。
微笑んで俺を見つめてくる。
彼女は、1番上のブラウスのボタンを自分で外す。
さらに身体を浮かして、左手を背中に回す。
俺の右手の甲への拘束が緩んだ。動かしやすくなる。
「……私、……初めてだから……」
俺は、唾を飲み込んだ。
照れて恥ずかしそうにしている彼女は、次第に呼吸が乱れきた。
表情、動作、息づかい。全てにおいて、色っぽい。
「……優しくしてね……」
彼女は、力強く目を瞑った。
緊張からか、身体全体に力が入っているように見える。
いいよ、と言いながら、頑張って自分を、奮い立たせているようだ。
目の前にいる彼女は、16歳の
それでも、俺を迎え入れるため、微笑んで、そして緊張しながら、自分を保とうとしている。
俺は、そんな
そんな俺の気持ちに構うことなく、ノゾミは、右手で、仕事をしていない俺の左手を持つ。
彼女のもう片方の胸をさするよう、誘導してくる。
俺の両手の指さきに、柔らかい感触に混じり、豆つぶみたいなものが、容赦なくぶつかってくることになった。
あーダメだ。俺を信用しきっている。緊張はしているが、嫌がってはいない。
目を瞑った彼女の顔は、綺麗だった。そして、
このまま流されるように、
お互いのことをよく知った上で、納得した状態で……。
そう、自分の中で結論を出したばかりではないか。
自分自身に言い聞かせる。この状態で身体の関係になったらダメだ、と。
右手の感触は名残惜しいが、そっと離す。
彼女の拘束を解く。目を見開いて、驚いている。
「あーあ、してくれないんだー意気地なし」
そういう意味ではないのだが。いろいろ早すぎるんだよ。
仰向けで、ブラウスから下着や肌色の膨らみが見え、脚を開いたままの彼女を見つめていると、変な気分になりそうなので、背中を向ける。
「……エッチを体験したかったんだよね……」
俺の背中に向けて、彼女は呟いてくる。
「私は、ユウ兄としか、エッチしたくないから……」
起き上がったようだ。
様々な音がする。ブラウスを脱ぎ、外したブラジャーを付け直しているのだろうか。
「ユウ兄が相手してくれないと、私……体験できないんだよね……」
音が止んだ後、俺の背中を指で突っついてくる。
「みんな、エッチはいいものだって言うから、したかったのに。ユウ兄の意地悪、意気地なし!」
そう言って、俺の背中をポカポカ叩いてくる。
この生き物、かわいいんだけど。どうしよう、これ。
「なあ、ノゾミお嬢様よ」
「何よ!」
「……エッチは、ゴム買ってからな」
そう、エッチをするときは、コンドームを用意しないと。
とりあえず、これを理由にすることにする。
「えーっ!私、ユウ兄と結婚するから、デキても問題ないよ……」
「そういう問題じゃあ、ないから」
俺は大きく息を吐いた。あ、そうだ。
「じゃあ、そうだな……。……もう少し大きくなったら、相手してやるよ」
「大きくなったらって、何のこと?」
「……柔らかかった、けどな……」
うん。小さいけど、良いものだった。惜しいことをした。
それを聞いたノゾミは、胸を隠すように腕を組む。
「おバカー!ユウ兄なんて、だいキライ!」
真っ赤になってそう叫んでくる。
睨んでくるが、その表情は俺にとって、ご褒美だ。
「はいはい。わかってますよー」
宥めながら、食べ終わった皿や箸、スプーンをキッチンに持っていく。
水道の蛇口をひねり、スポンジに洗剤を含ませ、洗い始める。
「ねえ」
作業をしている俺に、声をかけてくる。
「生活費の管理、私がしてもいいでしょう?」
結局、この話に戻ってきたか。さっきの出来事で忘れてなかったか……。畜生。
「……いいでしょう?ダメな理由、無いよね?」
「俺の自由に使えるお金がなくなる」
「言ってくれれば、出すよー、もちろん」
本当か?疑わしい。世のお父様方は、奥様に財布を握られて、苦労していると聞く。
ここは、絶対に折れるわけにいかぬ。
「私の方法が気に入らなかったら、止めるなり、襲うなり、追い出すなりしてくれれば、いいから。ねーえ!」
そこまで言われると、なあ。
襲ったり、追い出したりするつもりは無いが。
仕方ないな。
「任せるよ。大金だから、しっかり管理してくれよ」
「ありがとう、ユウ兄!」
俺は、皿洗いを終わらせて、彼女の前に通帳を差し出す。
彼女は通帳を見る。一瞬驚いたようだが、にやけている。
「家計簿、つけないと、ね」
「つけたこと、あるんだな」
「うん。任せなさい。完璧につけるよ」
……心配だ。主に俺の小遣いが。判断を誤ったかもしれない。
生活費の管理を任せるということで、様々なことを話し合った。
家賃や駐車場代、光熱費そして食費や衣料費など。
その中で、携帯電話代の話になった。
ノゾミによると、彼女の携帯電話代を含む通信費は、俺が負担することになるらしい。
学費は、というと、こっちは彼女の実家が払っていくという話。
学校にはすでに、結婚した新居から通う、ということになっているという。
子供ができて妊娠したときのフォローもバッチリ。前例があるらしい。
すごいな、お嬢様学校。それとも徹叔父さんがおかしいのかもしれない。
ん?ということは……。
少し嫌な予感がしたので、聞いてみた。
「……ノゾミ。もしかして、学校では『佐々木
ここまで「結婚」に対していろいろ手を回してくれている学校である。
可能性として、考えられる。そもそも「新居」から通学という形ならば……。
そして、彼女は笑顔を浮かべて、予想通りの言葉を告げるのであった。
「うん。私、この春から『佐々木 希』だよー」
そうかー。
俺は、すでに所帯持ち、そして、配偶者付きらしい。
本日何回目かわからない、ため息をつくのであった。
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