最終話 僕の涙と君の涙

たくさんの寂しい時間を超えようやく君の結婚式の日。場所を知らされていない僕は訪れた場所を見て涙を流した。

「ここって…。」

「私たちの思い出の教会。めちゃくちゃ無理を通してもらったんだからね。…今日でお別れならさ、真琴と思い出が詰まった場所がいいよ。真琴がずっと味方でいてくれて嬉しかった。側にいてくれて嬉しかった。なんども真琴の優しさに甘えた。ありがとう。ずっと言おうと思ってて言えなかったんだ。味方でいてくれて、側にいてくれてありがとう。大好きだよ!」

今まで見た中で一番の笑顔。本当に輝ちゃんはステキな女性になった。それが嬉しくて、隣にいるのが僕じゃない事が苦しい。


「大好きとか…そういうことは旦那さんに言ってあげなさいよ。」

「そうだね。じゃあ後でね。真琴の席は1番前、いつもの特等席だよ。あの長椅子だけは開けてもらったんだ。じゃあね!」

輝ちゃんの気遣いに感謝していつもの特等席に座る。この教会は外の塗装は何回もぬりなおしていたけれど内装は全くと言っていいほど変わっていなくて僕を懐かしい気持ちにさせた。天使様はこっちをみて微笑んでいる。今見返すと本当に『ありがとう』と言っているように見えた。





式が始まった。君が海原さんと腕を組んで入場してくる。ボロボロ泣いている海原さんを見ていると意外だと思うと同時に、輝ちゃんに似てるなと思った。泰一くんは僕の遺影と海原さんに一礼して輝ちゃんを迎えた。最後まで僕を気遣ってくれてありがとう。



…結婚式も佳境に差し掛かる。新郎新婦が待機している間に招待客はゾロゾロと外の海に続く道に並び始めた。僕ももうほとんど残っていない力を振り絞って立ち上がった。足はもう透けて見えなくなっていた。


招待客の一番奥君に見えるか見えないかの位置で君を待った。君は泰一くんと出てくると多くの人に祝福され幸せそうに泣き笑った。…もう僕は必要ないね。

「好きだったよ。輝ちゃん。」

ようやく言えた言葉はとても声とは言い難い音で君には届かなかったかもしれない。でも君が涙を浮かべて微笑んで「ありがとう」と言った気がしたからもう僕はそれで満足だよ。


僕の方こそありがとう、ずっと味方でいてくれて。僕の方こそありがとう、ずっと守ってくれて。僕の方こそありがとう、大切に思っててくれて。


数え切れないほどの愛をありがとう。

僕は沈みゆく夕日に涙を流した。未練が完全に消えた僕はもう誰の目にも止まることはない。あの頃の天使が悲しそうに微笑みながら僕の手を取った。


…さようなら。僕の愛した人。

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ひき潮 夏目瑠唯 @natsume-rui

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