第4話 失った可能性と見つけ出した幸せ

結局その後から君に会うことも減り、ゆっくり話す機会はあれ以降なかった。この頃にはもう、君への想いに気付いていた。

そのうち時は経ち、気付けば中学でエースとして活躍していた。でも最近感じるのは短距離でも心臓を締め付けられるような息苦しさ。明らかに前よりもタイムが落ちていた。単なる体力不足だろうと筋トレとマラソンを増やした。そして中学2年生の夏、僕は練習中まるで崩れ落ちるように倒れた。まわりの声が遠くに聞こえていた。『あれ、僕死ぬのかな。』そんなことを暢気に考えていた。


目を覚ますとそこは白い世界で、本気で死んだのかとボンヤリする頭で考えていると、そこには血相を変えた両親が居た。

「ああ・・・!!真琴!起きたのね・・・。」

「目が覚めて良かったよ。」

「あの、お父さん・・・お母さん・・・どうしたの?」

目が覚めて早々お父さんもお母さんも泣きそうな顔をしていた。その口から発せられた言葉に驚いて、でも頭は冷静だった。


「あのね、真琴、落ち着いて聞いて欲しいの。真琴の心臓に病気が見つかった。別にすぐに死に至るとかではないけど過度な運動は辞めた方がいいらしくて・・・」

「陸上部は辞めてもらうことになると思う。」

「ふーん。そうなんだ・・・。」

正直どうでもいい。これが僕が言える感想だった。陸上自体に興味があったわけではないから。努力を重ねたのは陸上が好きだった訳ではない。・・・なのにどうしてこんなに涙が止まらないのだろう。




しばらくするとドアが開き、あの頃より髪が伸びてポニーテールを揺らしながら走り寄る輝ちゃん。そしてドア付近に見覚えのある男が立っていた。

「真琴!?記憶ある!?大丈夫!?おい真琴!」

「あはは・・・輝ちゃん、口調が昔に戻ってるよ。」

「心配させるなバカ真琴。桑原さんに連絡もらってデート切り上げて走ってきちゃったよ。」

「・・・デート?」

安心している輝ちゃんとは違い僕は『デート』というワードに疑問をもった。いくら僕でもそんなにバカじゃない。その意味くらい分かる。だけど理解したくなかった。

「え、ああ。紹介してなかったよね。あのドアのところで立ってるやつ。あんたも覚えてるんじゃない?陸上クラブにいたときの私の唯一の同級生。」

「た、泰一たいちくん?」

「あ、やっぱり覚えてるんだ。そうだよ、今は私の彼氏。」

覚えてるに決まってる。僕が努力しても届かない部分に軽々と手を伸ばす彼が羨ましくて悔しくて憎らしかったのだから。かといって彼のことが嫌いなわけではない。僕にも一生懸命になってくれる本当に優しい人だから。



・・・

「おいおい真琴ー、遅いなあ。もっと足をシャカシャカ動かせよー。」

「・・・おい、海原。それじゃあ桑木がわからないだろう。そうだな・・・桑木はもうちょっと体制を低くスタートしたほうがいいかな。そう、もう少し体制は前に傾ける感じで。そうそう。上手い上手い。で、ゴールに向かうにつれて少しずつ体制を起こしていく。そう、それを練習するだけでも速くなるんじゃないか?」

「泰一・・・おまえ教えるの上手いなー。」

「ありがとう・・・えっと・・・た、たいち・・・くん?」

「山崎泰一。泰一でいいよ。俺も真琴でいいかな?」

「うん!泰一くん!」

「ああー、男子いいなー!その友情に私も混ざりたいぞー」

「お前、ほぼ男子に溶け込んでるじゃないか。今更だぞ。」

「なんか、それ泰一に言われるの腹立つなー。」

・・・




これが、のちに輝ちゃんの旦那様となる山崎泰一くんとの出会いである。


こうして僕の想いは伝える前に儚く散り、僕が知らぬ間に君は幸せを見つけ出した。でもそれでいいんだ。君が笑顔でいられるなら、僕は何度だって涙を飲み込もう。この日から僕は君の幸せを守るために生きると決めた。

君があの教会じゃなくても、僕じゃなくても、涙を流せるような、本物の幸せを掴むまで見守るって決めたのだ。

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