第2話 泣き虫とヒーロー

“小さい頃の僕は泣き虫で、いつも幼馴染みのアキラちゃんが僕のヒーローだった。女の子にヒーローはおかしいかなって今でも思うけれど、それくらい君はカッコよくて、僕はまるで魔法にかかったみたいに君の側を離れなかったという。


小学校に上がると同時に海鳴るこの町に引っ越して来た僕は、当時背が小さく名前も『真琴』なんて女の子みたいだからか、あっという間にいじめっ子たちの標的ターゲットになった。さらになんの因果か隣に住む君はとってもカッコイイ名前で、たいして話したこともない癖に君のことが大嫌いだった。…男の子だと勘違いしてるとも知らずに。


君を女の子だと知ったのはいつだったかな?・・・ああ、君に助けてもらったときだ。真っ赤なランドセルを僕に投げつけていじめっ子たちの前に立ちふさがる君は勇ましい戦士のようで、ランドセルを渡されなければきっと女の子だとは気がつかなかっただろう。

あのときの僕は女の子に守られてしまったという羞恥と君への憧憬が重なって涙目だった。僕が見上げた君はサラリと切りそろえられた髪を揺らして綺麗な笑顔で笑う。いつだって昨日のことのように覚えてる。


「おーい!真琴ー!!!あそぼーぜー!」

輝ちゃんは口調が荒く、邪魔だからと切りそろえた髪と必ずどこかについている絆創膏が特徴だ。

「輝ちゃん…危ないから木登りはやめたほうが…」

「うるさいなあ。真琴は私の親ですかー?」

「あ、輝ちゃんしっかり捕まらないと!!」

「は?え、うわぁぁあ!」

輝ちゃんは元気いっぱいで活発でよく男の子に混ざって遊んでいたせいか危険な遊びばかりだ。でも不器用で大雑把な性格のせいかよく失敗して、怪我したり怒られたりする事が多かった。


怒られると輝ちゃんは決まって膨れっ面で目をそらす。今日もまた輝ちゃんのお父さん『海原さん』に怒られている。理由はもちろん輝ちゃんの木登り。口元だけの反省は海原さんの怒りを買う一方で今日も正座でお説教長時間コースだ。

「だいたい輝は女の子だという自覚はあるのか?真琴くんにも迷惑をかけて・・・云々云々・・・」

こうなると海原さんは長い。隣を見れば、うとうとしている輝ちゃんが目に入る。と

ほぼ同時に海原さんの怒号が聞こえる。

「輝ーーーーーー!!!!!」



・・・

お説教が終わると輝ちゃんは反省のかけらもなくまた走り出す。いつも今を全力で遊ぶ輝ちゃんは輝いて見える。

「真琴ー!走るぞー!!」

「待ってよ!輝ちゃん!!」

「どこまで行くの?」

「んー。いつもの教会!!」

僕をひっぱって走る輝ちゃんはやっぱりカッコよくて、でもやっぱり笑顔は可愛くて、ドキドキする胸の高鳴りが恋だというのをこの時の僕はまだ知らない。



・・・

僕たちのお気に入りは夕方に来るといつも輝いている天使のステンドグラスだ。赤、青、黄色と様々な色で飾られた天使が空へ飛びだつ姿。一番前の長椅子は僕らの特等席でそこから眺める天使は微笑んでいるようで、泣いているようだった。

「真琴ー。もうすぐ日も暮れるし帰ろうぜ。いつまで天使様見てるんだよ。」

「・・・ねえ、輝ちゃん。輝ちゃんはあの天使様はなんて言ってると思う?」

「えー?まあ無難に『おめでとう』じゃない?」

「そうかな。僕はね、『さようなら』に見えるよ。」

「・・・ふーん。」

「さてと、帰ろうか輝ちゃん!」

ドアを開けると沈みかける夕日。オレンジに染まる天使様はどこかへ消えてしまいそうな儚さを含みながらこちらに微笑んでいた。

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