ひき潮

夏目瑠唯

第1話 別離の時と祝福の鐘

リンゴーン・・・リンゴーン・・・・・・・・・


祝福の鐘の音が鳴る。純白に身を包んだ君は幸せそうに泣き笑うから、痛む胸を抑えて僕は笑うしかない。口からこぼれた「おめでとう」の言葉は偽善でしかなくて、心の片隅ですら思えていなかった。

僕の目の前に広がる景色はあの頃と同じように、どこまでも続くような碧い海と天使が降り出しそうな光のシャワー。今の君にはどんな風にみえているのだろうか。


君は僕らの思い出の教会で、ふわりとベールを揺らしながら僕を見た。「ありがとう」その声は海風にさらわれて耳には届かなかった。なのにどうして僕は泣いているのだろう。


・・・僕の役目は終わったようだ。ありがとう。さよなら。



・・・

4つ年上の幼馴染みに恋をして13年。それが報われないと知って10年。それでも君に恋してた。だから僕は君がその手に幸せを掴むまで、一番近くで見守っているって決めたのだ。


君に恋をしたのはまだ小学生の頃。ずっと一緒に過ごしてきた君が大人になっていくのが無性に寂しいと思った。君の隣を歩く友達なんかにも嫉妬して、隣を歩くのは僕だけだなんてワガママ言った日もあったかな。それが恋だと気付くには時間はかからなかった。「いつか伝えよう。伝えよう。」そう考えているうちに君は恋する乙女へと変化していった。


時が経つほど想いは募っていくばかりで何度悲しみに飲み込まれそうになっただろう。それでも君が大切で、愛しくて、それが虚しくて、苦しかった。


どんなに僕が走っても僕の前を行く君の手を僕が掴むことは叶わないまま、僕らをこんなにも近くて遠い存在に造り上げた神を何度憎んだだろう。


これは、僕が愛した君が幸せを掴むまでのおはなし・・・。

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