第6話 私にさらにピンチ!


「お嬢ちゃんさ、この施設の人間じゃないよね?」


「……え?」


 笑顔のお姉さん、固まる私、この状況をどう打開すればいいのだろうか?


 ごまかす?


 どうやって?


 肯定する?


 そのあとどうするの?


 ああ、ああああ……ああああああああ!


「わ、わわわわたしにはぁ……なぁんのことかぁ……わかりませんねぇぇ」


 頑張ったけどつい目そらしてしまった……。


 でもそれ以外は……!


「……ここまで嘘が下手な子初めて見たなぁ」


 楽しそうに笑いながらそういわれてしまった……。


 そんなに分かりやすかったですか!?


「別にとって食おうってわけじゃないよ。ほら落ち着いて」


 私が少し落ち込んでいるとお姉さんが背中をさすって慰めてくれた。


 ……もしかしてこの人はいい人なのかもしれない。


「……なんで分かったんですか?」


「ん? ああ、だって今のこの施設であの激辛麻婆豆腐を食べられる子はいないからね」


 そんな!


 あんなにおいしいのに!?


 この施設の人の舌はバカなんですか!?


「いやー前は食べるやつがいたんだよ? そいつに頼まれたからメニューに入れたわけだしね。でも、もういないからさ……」


 お姉さんは少し遠い目になりながら語った。


 もしかしたらその人はお姉さんにとって大切な人だったのかもしれない。


 その人がどうなったかはわからないけど、たぶん……。


「……」


 私はなんて言っていいのかわからず、ただお姉さんを見る。


 こういうときはなんて声をかけたらいいのか、私にはまだわからなかった。


 だって私は大切な人を失った経験なんてないのだから……。


「まあ会おうと思えば会えるけどね?」


 お姉さんはいたずらが成功した子供のように笑いながらそういった。


 どうやら私はからかわれたらしい。


 私はさっきまで考えたていたことを思い出し、恥ずかしくなってきた。


「ん? なになに? 私が大切な人が死んじゃって悲しんでると思ったの? 優しいねぇ。でも見当はずれのこと考えてたって知って恥ずかしくなっちゃったの? 想像力豊かだねぇ。耳まで真っ赤にしちゃってかわいいねぇ」


 お姉さんはそんな私を抱き寄せて頭を撫でた。


 なんでそこまでわかるんですか!?


 わかってるなら何も言わずにほっといてください!


 それと胸が! 大きくてたわわな胸が! か、顔に!


「は、はな、して……離してください!」


 私は無理やりお姉さんを引き離した。


 ……あのままだと危なかった……離さなければ私は窒息していたかもしれない……完全に口元を覆う大きくたわわな胸……お母さんに包まれるような気持ちよさ……あれはもう脅威的な武器である……。


「なに? 胸が気になるの? 大丈夫大丈夫、もう少ししたら大きくなるって!」


 お姉さんは笑いながらそういったが、もう二十歳の私にそんな望みなどない。


 別に巨乳になりたいとかは考えていない。


 ただたまにゆっきーさんから貧乳と罵られるせいで巨乳に対しヘイトがたまっているだけだ。


 つまりすべてゆっきーさんが悪い。


 それよりふと思ったんだけど、このお姉さんは私のことをいくつぐらいだと思っているのだろうか?


 なんというか私に対して育ち盛りの子供と同じように接している気がする。


「あの、私のこといくつに見えます?」


「二十歳」


 ビンゴ!


 でもわかっててその扱いなんですか!?


 なんというかスキンシップの取り方間違ってません!?


「……はぁ」


 ついため息が出てしまった。


 なんというか、この人疲れる……。


「さて、緊張もほぐれてきたことだし、本題に入ろうかな」


 そんなまさか今までのは私の緊張をほぐすための演技!?


「うーん、いい顔してるねぇ」


 ……たぶん違う。

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