第5話 ゴリマッチョに祝福あれ
外を確認しても桜はいなかった。
「……本当にどこにいっちまったんだ?」
俺は頭を掻きながらぽつりとつぶやき、施設に戻った。
外のあった俺たちの足跡を見る限り桜は確かに施設の中に入っている。
そうなると入り口から施設に入るまでの間にどこかに飛ばされたと考えるのが妥当だ。
問題はどこになぜ飛ばされたかだ。
飛ばされたのがこの施設の中だったらいいが、それだとなぜ飛ばされたのかがわからない。
飛ばされたのがこことは違うどこか、それこそ外だった場合、空間移動とかいう力を持っているあの黒い怪物が関わっているのではないかと勘ぐってしまう。
だが、桜の言葉通りなら黒い怪物はまだしばらくはこの世界に戻ってこられないはずだ。
それにもしやつだとしたら桜一人をどこかにやるなんてことはしないはずだ。
『強いやつと戦いたい』とのたまっていたあの怪物のことだ、飛ばすとしたら俺たち二人を誰も邪魔できないところに飛ばして、最期まで戦うように仕向けるだろう。
やつのほかに『能力』を持つ怪物を見たことはないし、持っていたとしても同じ能力を持つ怪物がそう簡単に現れるとも思えない。
……うん、無理だな。
桜には悪いが今日は休むとしよう。
俺は寄りかかっていた入り口近くの壁から離れ、歩き出す。
まずは部屋の確保だ。
まあこれは難しいことではない。
入り口近くの部屋を探せば必ず一つは空いている。
俺は入り口から一番近い部屋をノックし、中に誰もいないことを確認してから侵入する。
中にはベットやタンス、机などがあったが、すべてほこりまみれで掃除しなければ使えそうもない。
まあよくあることだ。
入り口付近の部屋なんて怪物が侵入して来たら真っ先に狙われる部屋だ。
基本的には使われてないし、使われてるとしてもこの施設の人間にとって死んでも問題ないやつしかいない。
俺は簡単に掃除を終わらせ、シャワーを浴び、お腹が空いたので部屋を出る。
施設は基本的に入り口のある階を地下一階と仮定すると住居スペースが地下五階まで、食堂や情報管理室、管理者の部屋などが地下六階、重要施設が地下七階にある。
もしエレベーターがなかったら俺は部屋から極力出ない生活をしていただろう。
そんなことを考えながら地下一階を歩いているとエレベーターがなかった。
なんだこのクソ施設。
地下六階まで階段を使えというのか。
あー食糧があれば部屋にこもるのに……。
俺は渋々階段を下り始めた。
長い階段を下り、やっとのことで食堂にたどり着いた。
やっぱエレベーターがないのはおかしいってこの施設。
おかしいといえばこの施設にはエレベーター以外にもおかしなところが多々あった。
まずこの施設には男しかいない。
女がすべて死んでしまった施設は見たことあるが、その施設はもうすでに人がほとんどいなくなっており、精神的にも肉体的にも限界だった。
だがこの施設の人間はかなりの数生き残っている上にみんな生き生きとしている。
次になぜかこの施設の人間はマッチョなやつが多い。
別に他の施設にそういうやつがいなかったわけではないが、さすがに目に入る男たちみんなマッチョは異常だ。
そのせいなのかはわからないが、タンクトップのやつや上半身裸のやつが多かった。
廊下や食堂が暑苦しくてしょうがない。
そしていつくかの部屋で聞こえた男たちの声。
どう考えても…………いや、うん、察してくれ。
男だけ、ベット、プロレス。
これだけ単語を並べればわかってもらえると思う。
俺としてはもうあの声を思い出したくもない。
「なあ、あんた。見ない顔だな?」
食券を買うために並んでいると後ろのやつが声をかけてきた。
耳元でささやくのやめてもらえません?
「この施設のやつはすべて知っていると思っていたが、まだこんなにかわいらしいやつがいたとはな。知らなかったぜ」
身長が二メートルを超えたゴリマッチョにかわいいと言われてもうれしくはない。
あと尻を触ろうとするな。
「おい、またあの人……」
「毎日毎日よくもまあ……」
「あー俺も狙ってたんだけどなぁ……」
「あの人は私のものなのに……きぃぃいい!」
気付けば周りの人間が俺たちに注目していた。
どうやらこいつは毎日のように同じことをしているらしい。
うわぁ……めんどくさいやつに目を付けられたみたいだなぁ……。
「ほう……見た目と違っていい筋肉を持っているじゃないか。どうだ? このあと俺の部屋にでも……」
言葉の途中で男は静かに倒れた。
まあ耐えられなくなった俺が他の人間が目をそらした瞬間に音もたてずに気絶させたんだが。
だって明らかに俺のものを触ろうとしてきたんだもん。
「大丈夫ですか!? 誰か! 誰か担架を!」
俺は『後ろの人が急に倒れたんですよ。わぁびっくり。心配だなぁ』という感じで助けを呼んだ。
どう考えても俺が怪しいが、身長二メートルを超えたゴリマッチョを俺のような身長が平均よりも低い人間がやれるとは誰も思わない。
みんな腑に落ちない顔をしながら助けるために寄ってきた。
が、そんな人たちを押しのけ、
「私、救護室に連れていくわね」
先ほど『あの人は私のもの』宣言をしていたゴリマッチョより体格がいいゴリマッチョ、そうだなマウンテンゴリマッチョとでも呼ぼうか、がゴリマッチョを背負い、食堂を勢いよく飛び出していった。
救護室とは反対の方向に。
……どう考えても自分の部屋に連れ込むつもりです。
まあなんというか、ゴリマッチョに祝福あれ。
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