第4話 私、ピンチ!
施設に入るとまず目に飛び込んできたのは女子トイレのような赤い壁だった。
「……え?」
だけど私には壁の色なんて気にしている余裕はなかった。
施設に入った瞬間、私の前を歩いていたゆっきーさんが消えてしまったのだ。
どうしてこうなってしまったのかを考えても答えは出ない。
ゆっきーさんが施設に入ったことは間違いないので、もしかしたらこの施設の機能なのかもしれない。
私が一緒にいないことをゆっきーさんが気付いたなら一回外に出て確認するだろうが、私にそれは出来ない。
なぜなら私には施設に出入りするやり方がわからないのだ。
ゆっきーさんがやっているのを見たことはあるが、いつも扉に数分ほど手を当てているだけで正直何をやっているのかわからない。
一応私も扉に手を当ててみる。
……。
…………。
………………。
しかし何も起こらなかった。
そうなると私はこの施設でどうにか生活しないといけないことになる。
いままで私が入った施設での立ち回りはゆっきーさんいわく、イレギュラーだそうだ。
基本的には堂々としていれば侵入者だとはばれないらしい。
なので私も堂々と施設の中を歩いていく。
ゆっきーさんいわく、まずは空き部屋を見つけることが先決だそうだ。
施設の出入り口に近いほど開いている確率が上がるとも言っていた。
となると目の前にある部屋がもっとも開いている確率が高いということになるはずだ。
まずノックをして中に誰かいないか確認する。
トントントン
……反応なし。
扉を開けて生活の跡を確認する。
……ほとんどの家具にほこりがかぶっているところを見ると、誰も使っていないどころか長い間誰も部屋に入ってないようだ。
うん。ここを私の部屋としよう。
「となるとまずは……」
掃除をしよう!
掃除も終わり、ベットに寝ころがる。
そろそろお腹が空いてきた。
だがそもそも食堂はどこにあるのだろうか?
確認のためにうろうろしていたら怪しまれそうである。
が、背に腹は代えられない。
私は部屋を出て食堂を探し始める。
すり足差し足忍び足で探索していたが、私の部屋がある地下一階はどうやら誰も使っていないようだ。
話し声どころか何の音もしない。
しかし、地下二階、地下三階と下がって行くと話は変わってきた。
下がるごとにどんどん人が増えるのだ。
部屋での話し声もさることながら廊下で井戸端会議をする人たちも多数いる。
いままで行った施設でこんな光景見たことがない。
捕まった施設ではなぜか廊下には誰もおらず、目に入った人たちもなぜか暗い表情をしていることが多かった。
正司さんがいた施設には正司さんが説得してくれたおかげで誰もいなかった。
いままでの経験から施設にいる人間は暗く鬱屈とした生活をしていると思っていたが、この施設にいる人たちを見るとそうではないらしい。
この施設のみんなは明るく楽しそうにおしゃべりをしている。
私は井戸端会議をしている人を避け、食堂を探す。
それにしてもこの施設で男性をまだ見ていないような気がする。
井戸端会議をしていた人も部屋で話をしていた人も全員女性だ。
男性はどこかで仕事でもしているのだろうか?
そんなことを考えていると食堂を見つけた。
中を確認するとやはりそこにも男性はいなかった。
でもそんなことより食事だ食事。
前の施設では激辛カレーを食べたが、あれはおいしかった。
私は発券機を確認する。
寿司やカレーにオムライス、そばにラーメンスパゲッティなどの定番から名前を見てもよくわからないものまでいろいろある。
私の目に留まったのは『激辛麻婆豆腐』だ。
悶絶するほど辛うまいと書いてある。
これは頼む以外の選択肢はない。
食券を手にし、カウンターに進む。
「はーい。食券はこっちね」
前の施設とは異なり、カウンターの中には数人の女性がいた。
この施設では住人が作っているようだ。
「お願いします」
私はそういって食券を渡す。
「……え!?」
それを見たお姉さんがすごい表情で私を見た。
何かしてしまったのだろうか?
冷汗が流れる。
「お嬢ちゃん。本当にいいのかい?」
なんでそんなに険しい顔をするのだろうか?
「は、はい」
お姉さんの気迫に気圧されて少しどもってしまったが、私は肯定した。
「わかったよ」
そういうとお姉さんは奥に消え、違うお姉さんが次の人の食券を確認しだした。
なぜ人が変わってしまったのだろうか?
少しすると私の食券を受け取ったお姉さんが『激辛麻婆豆腐』を持って現れた。
「へい、お待ち」
なぜかお姉さんは歴戦の戦いを終えた戦士のような表情になっていた。
いったい何があったのだろうか?
「あ、ありがとうございます」
私はお姉さんにお礼を言い、席についた。
なんと真っ黒な麻婆豆腐であろうか。
見ているとよだれが出てくる。
「いただきます」
おそるおそる一口食べる。
「!!?!」
からい……辛い……辛い辛い辛い!
なんていう辛さだろうか!?
強烈なほど痺れる辛さの麻味に激烈なほどひりつく辛さの辣味。
しかしそれ等は反発することなく凶悪なほどのうまさを引き出していた。
舌が、いや口の中すべてが辛くなり、体の中から熱くなる。
なんと、なんと素晴らしい麻婆豆腐か!
私は何度も何度も麻婆豆腐を口に放り込む。
そして気付いた頃にはすべて食べ終わってしまっていた。
「……はあ」
体が熱い。
この施設にいる間は毎日あれを食べるのはどうだろうか?
いやでもこれほどの腕を持っていることを考えると他の料理も気になってしまう。
「お嬢ちゃん。いい食いっぷりだったねぇ」
満足している私に声をかけてきたのは先ほどのお姉さんだった。
「本当においしかったです!」
私は少し興奮気味に答えた。
お姉さんは私の隣に座り、
「そうかいそうかい。あれ、私が作ったんだよ」
私にとって衝撃な事実を口に出した。
「そうなんですか!? 握手! 握手してください!」
あんな素晴らしいものを作れるとは何と素晴らしい人だ!
「お、おう……いいよ」
亜姉さんは少し戸惑っていたが、握手をしてくれた。
私にとってはアイドルとか芸能人とかよりも貴重な握手だ。
「それより、お嬢ちゃん」
「はい、何ですか!?」
私はなお興奮気味に笑顔で答えた。
「お嬢ちゃんさ、この施設の人間じゃないよね?」
「……え?」
私の笑顔は固まった。
なんでバレてしまったのだろうか?
ゆっきーさん! この場合どうすればいいんですか!?
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