第7話 戦闘終了


 俺の体に力が流れ込む。


「うおっ! お、お前……バカか……!? 俺らと、同類になるんだぞ!?」


「なんどもなんども言わせんな! そんなことどうでもいいんだよ! 怪物になるならないなんて関係ない! どうせここで死んだら終わりなんだ! だったらいま! 生き残るために! 俺ができることをするだけだぁぁあああ!」


 体が燃えるように熱い。


 自分の中のが変化していく。


 でも、ここでやめるわけにはいかない!


「やめ、ろ! やめやがれ! 俺の……俺の力がぁぁああああああ!」


 怪物は苦しみ、もがく。


 しかし、力が吸われているせいで逃げられない。


「やめると思ってんのか!?」


 俺の答えに対し、


「そうか……そうだよな……」


 怪物はニヤァと笑って、


「でも、残念だったなぁあ!」


 俺の目の前から姿を消した。


「俺は空間移動ができるってあいつから聞かなかったのか?」


 怪物は俺の背後に現れ、


「お前の敗因は弱かったことだ。じゃあな」


 そういって腕を振り下ろした。 


「ああ、聞いていたさ」


 俺は達成感から思わず笑みがこぼれる。



 ――ゆっきーさん! 解析&乗っ取り完了しました!



 ――よくやった!


「だから待っていたんだよ。お前がそれを使うのを」


 振り下ろそうとした手を怪物は止めた。


「……なんだ?」


 いや、怪物の意志とは関係なく、手が止まった。


 俺は後ろを振り返る。


「お前の失敗はいろいろあるが、一つ、桜に空間移動について教えたこと、二つ、桜を再起不能にしなかったこと」


 動きの止まった怪物の後ろには、いまさっき怪物が作った空間移動の際の通り道、ワームホールが残っていた。


 ――さすが私! 世紀の大魔法少女!


「なんで……こいつが残ってやがる」


 怪物はこの戦いで初めて心の底から困惑した。


「三つ、桜が空間魔法についての知識を持っていたこと」


 ワームホールは怪物だけを吸い込み、動きを止めている。


「どうなってやがる……どうなってやがる!」


 怪物は吸い込む力から逃れようとするが、俺に力を吸われたせいで、じわりじわりと吸い込まれていく。


 俺たちの作戦はこうだ。


 怪物に空間移動を使わせて、それを乗っ取って、逆にその力を利用する。


 俺たちの力で倒せないなら相手を利用しようというシンプルな作戦だ。


 そのために俺は時間稼ぎとあいつに空間移動を使わせるために動いた。


 そして、桜はこの空間に残る空間移動の残滓を調べ、それを魔法的に解釈し、術式を作成。


 怪物が空間移動した瞬間、術式を使ってその能力を解析し、そのまま乗っ取る。


 俺が時間を稼げないか空間移動を使わせられなかったら終わっていたし、桜が残滓を見つけられずに術式を作れなかったり、怪物が空間移動を完了してワームホールが消える前に解析と乗っ取りができなければ終わっていた。


 俺と桜のどちらがかけてもできなかった。


 シンプルながら俺も桜も命を懸けた作戦だ。


 怪物を倒せないことを前提とした逃げるための作戦。


 なんとも俺たちらしい。


「四つ、桜が使える空間魔法が俺の腕輪とか魔方陣とかもともとあったものを改変することに特化していること」


「くそ! くそくそくそ! 認めない! 認めないぞ! に負けるなんて認めない!」


 怪物はワームホールの端を掴みながら喚き散らす。


 このまま待っていてもいつか吸い込まれていくだろうが、それじゃあ俺の気が済まない。


 少なくとももう一発。

 

 それこそ重い一撃を。


「あとはそうだな。作戦にもなかったことだけどお前が俺に力を吸われたことも追加しておこうか?」

 

 右手にいま加えられる力すべてを注ぎ込む。


 そのときにふと、考える。


 この腕輪の機能的に吸収、つまり『入れる』ことができるなら放出、つまり『出す』こともできるのではないかと。


「つまり、総じてお前の考えが足りなかったってわけだ……さて、最後になにか言い残すことは?」


 俺は嫌見たらしくそう聞いた。


「俺はまだ負けていない! 俺はすぐに戻ってくる! それまでに力を手に入れろ! それときは……!」


「ああ! そうですか!」


『出ろ!』


 俺は渾身の力といま持っているすべてのエネルギーを込めて怪物を殴り飛ばした!


「俺がもう一度、絶望に叩きこんでやる」







「お疲れさん」


「あ……ゆっきーさん……」


 俺地は怪物をなぐり、ワームホールに押し戻した後、強力な魔法を使った反動で倒れている桜のところに向かった。


「なぁあれで大丈夫なのか?」


 いちおう作戦は成功したが、やつは空間移動の使い手だ。


 やつが言っていた通り、すぐに出てくるかもしれない。


 そうなった場合、すべての力を出してしまったいまの俺と桜ではもう殺されるだけだ。


「大丈夫ですよ」


 桜はヘロヘロな状態で答えた。


「その根拠は?」


 俺はそんな桜をおぶる。


「あっ……ありがとうございます……根拠はですね。空間移動と空間魔法は厳密に言うと違うものなんです。で、それを無理やり変えちゃったものだからあのワームホールどこにつながってるのかわからないんですよねぇ。それに中もぐちゃぐちゃになってわけわかんないことになってしまいましたし……」


「うん、よくわかんない」


 俺は長くなりそうな話を切り上げさせる。


「えーと……まぁ私もよくわかりません。でもとりあえず大丈夫ってことです」


「そうか」


 そんなこんなで俺たちの戦いひとまず終わったのだった。

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