第2話 私は立ち上がる
私の体は恐怖で動けなくなっていたけれど、ゆっきーさんの心は読み続けていた。
ゆっきーさんがあの怪物見た瞬間、あの怪物が最初の事件の怪物だってことと、あの怪物といろいろなヒーローの戦いが断片的に伝わってきた。
そして、ゆっきーさんの思い。
自分は何もできず、ただヒーローにすべてを任せないといけないという悔しさ、人の死をただ見ることしかできなかった苦しみ、あの怪物への恐怖やこの状況をどうすることもできないという絶望が伝わってきた。
(どうする? ここから逃げようにもやつは桜とやるまで俺たちを追ってくるだろう。扉を開けるか? ダメだ。時間がかかりすぎる。どうすれば……どうすれば俺たちは逃げられる……!?)
でも、それ以上にゆっきーさんの心は優しい言葉にあふれていた。
自分一人で逃げようとは考えず、あくまで私たちで逃げようとしている。
そんなゆっきーさんの言葉を読んでいると私の体が少しづつ動くようになってきた。
まだ恐怖は残っていた。
あいつを見るとまだ恐怖にのまれそうになる。
でも、ゆっきーさんの心が私に立ち向かう『勇気』をくれた。
「変身」
ゆっきーさんに聞こえないように、小さな声でつぶやく。
体が変わる。服が変わる。力があふれてくる。
それと同時に心を読む魔法を解除する。
このあとのゆっきーさんの心を読みたくなかった。
「すいません、ゆっきーさん」
ゆっきーさんの気持ちはわかっていたし、私も逃げたかった。
でも、両方死ぬか、ゆっきーさんが助かるか、その二択ならゆっきーさんを助けるほうを選ぶ。
私の命はゆっきーさんに助けられた。
もしかしたら、最初はいざとなったら囮に使えるかもしれない、とかそういう理由で助けられたのかもしれない。
でも、それでも私は感謝している。
この世界に来てすぐは、希望なんてないと思ってしまっていた。
いままでもいいことなんてなかったし、たとえここから生き延びてもいいことなんてないんだろうと思ってしまっていた。
でも、違った。
ゆっきーさんは前も、そしていまも私に『希望』をくれた。
初めて会ったときは、初対面の人に対してあんなに声を張り上げたのは初めてだった。
監禁されたときは、もっと怒ろうと思ったのに悲しくて泣いてしまった。
悪いこと加担したときは、怒りもありましたが実は少し、ワクワクしていた。
ゆっきーさん、あのときは怖がってすいませんでした。
食糧庫で説教してすいませんでした。
私、説教なんて初めてでした。
腕輪をいじるときはあんなに複雑な術式をいじれて楽しかったです。
ゆっきーさんに引かれたのは少しショックでしたが。
施設から出て初めて野宿を経験しました。
あのときはゆっきーさんが当たり前のようにとなりで寝だしたので、少し緊張しました。
ゆっきーさんは何も思わなかったのかな?
腕輪の中の片づけはゆっきーさんがテキパキとやっていたのが少し意外でした。
案外、家庭的なんだと思いました。
プレゼントありがとうございました。
今もちゃんとつけてますよ?
そういえばあのとき書いた魔法の説明。
辞典ぐらいの厚さになってしまってすいませんでした。
誰かに自分の好きなことを共有するのがあんなに楽しいって初めて知りました。
正司さんと会えてよかったですね?
仲のいい家族がいてうらやましかったです。
ゆっきーさん、あなたと会えてよかったです。
楽しかったです。
優しいくせしてぞんざいで、自分のためにと誰かを助け、悲しいくせに楽しいふりして、本音を隠して自分自身に嘘をついている、そんなどこか変なゆっきーさん。
あなたは誰も助けられないとか何もできないとか思っているかもしれません。
でも、私はあなたに助けられました。
だから……。
「先行をやったっていうのに結界を張るたぁどういうことだ?」
「私があなたを倒します」
私があなたを助けます。
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