第4節 俺たちは生き続ける
第1話 俺の言葉は届かない
「逃げろ!」
俺はとっさにそう叫んだが、逃げられないことはわかっていた。
やつは速い。
足が速いとか動きが速いとかそういうことではなく、いつの間にか近くにいる。
まるでじじいと同じように空間を移動しているかのように。
「逃げなくてもいいじゃねぇか。それに、そこにいるやつは動けるのかい?」
そう言われて、桜を見る。
「……あ……ぁぁ」
桜は顔面蒼白となり、腰を抜かしていた。
その状態には覚えがある。
俺が、いや、初めてやつに出会ったときは皆、やつの『絶望』にあてられ、恐怖で体が動かなくなるのだ。
俺が知る限り、この状態にならなかったのは世界最高峰といわれたヒーロー、グレートと世界最高齢と言われた銀狼ぐらいだ。
こうなることはわかっていたはずなのに、俺はそのことが頭から抜けていた。
それほど俺も焦っているのだろう。
どうする?
俺にこの状況を打開するすべはない。
桜にもないだろう。
このままいけば俺たちは確実に殺されてしまう。
「そんなに警戒するなよ。俺は強いやつと癇に障ったやつしか殺さねぇんだ。つまり、お前みたいな一般人なんて眼中にねぇんだよ」
怪物は少しおどけたように言った。
怪物が言ったことは本当だろう。
実際に今まで何度も目の前に現れた俺のことをあいつは攻撃したことがなかった。
でも、そんなことは関係ない。
あいつの目は桜に向いている。
あいつの目的は桜と戦うことだろう。
どうする?
ここから逃げようにもやつは桜とやるまで俺たちを追ってくるだろう。
戦ったらおしまいだ。
俺が知る桜の力では勝てる見込みが一つもない。
「はぁ……そっちのやつはまだ俺に慣れねぇのか? そのままじゃあ話にもなんねぇんだが」
扉を開けるか?
「俺はよ? そいつとやるためにここら一帯の同族を全部つぶしてきたんだぜ? まぁ数日もすれば新しいやつがわいてくるだろうがな」
ダメだ。時間がかかりすぎる。
「まぁいい……俺は結構しゃべるのが好きでな? 雑談でもするか?」
どうすれば……どうすれば俺たちは逃げられる……!?
「……ちっ、どっちも話しなんて聞いてないな。片方は逃げることばかり考えてる腰抜けだし、もう片方は……へぇ」
「お前、心が……読めるのか?」
「あ? 読めねぇよそんなもん。てめぇら人間がわかりやすすぎるだけだ。っと、しゃべりだしたのが遅かったな。雑談タイムはおしまいだ。先行はやる好きにやりな」
やつがそう言ったかと思うと、後ろから光が発生した。
「やめろ! バカ!」
俺はとっさに後ろで変身している桜に叫んだ。
「すいません、ゆっきーさん」
そう言う言葉が聞こえたとともに俺は後ろに引っ張られ、桜が前に出た。
「さようならです」
その言葉を最後に桜が張った結界により俺の言葉は届かなくなった。
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