第12話 私、家具を手に入れる


 目が覚めるとゆっきーさんが部屋にあった箪笥をあさっていた。


「……」


 私は見間違いかと思い、目をこすり、もう一度見た。


 ……うん、私の目は正常だ。


 えーと、うん、どんな状況?


 目が覚めると知り合いの男性が箪笥をあさっている……どう考えてもヤバい状況でしょ。


 まぁ私物があるわけじゃないけど……こう、ね?


「……何をやってるんですか?」


 私はたまらずゆっきーさんに声をかけた。


「ん? おお、起きたのか。おはよう」


 ゆっきーさんは手を止めずにそう答えた。


 いや、おはようじゃなくて何してるんだという話なんだけど……。


「何を、やってるんですか?」


 私はさっきよりも強めにもう一度聞いた。


「ん……ちょっと待ってな……よし」


 ゆっきーさんは箪笥を閉め、私のほうに向く。


 手に何も持っていないことから中にあるものを盗んでいたわけではないようだ。


 まあ腕輪の中に入れているのかもしれないけど。


「で、ゆっきーさん何やってるんですか?」


「洋服を入れていた」


 なんで?


「いや、腕輪の中って家具ないじゃん? だからこの箪笥もっていこうと思ってさ。腕輪の中で服入れるのでもよかったけど、いま暇だし、この施設にいる間も使えるし、やっといたんだよ。暇だし」


「ああ」


 なるほど。


 確かに着替えるたびにゆっきーさんに頼むのは面倒ですしね。


 というかいろいろ言ってるけどつまり暇だったってことですよね。


 ……あれ?


 そういえば私、盗むことに対して抵抗がなくなっている……?


「本当なら自分のは自分でやらせるつもりだったんだけどな。でもお前寝ててさ、起こすのも忍びないからしょうがないから俺がやってたんだ。暇だし」


 何度も言うってことはよほど暇だったのだろう。


「ありがとうございます」


 ゆっきーさんの暇つぶしに使われてたとしても一応、感謝はしておく。


 それからふと気が付いた。


 ゆっきーさんは自分のは自分でといっていた。


 じゃあ、いま入れてたのは……


「……もしかしてゆっきーさん。そこに入ってるのって私の服ですか?」


「もちろん」


 殴った。


 それはもう本気で。


「な……なにすんだよ!」


「何するじゃないですよ! うら若き乙女の服を勝手にしまうとか何やってるんですか!」


「はあ!? そんなの今更だろうが! 今まで腕輪から出すときに服だろうがパンツだろうが俺の手に出るんだぞ!? 今まで触ってたんだから変わらな」


 殴った。


 本気すら超えて。


「関係ないんですよそんなこと!」


 この人は本当にもう!


 デリカシーってものがないんですかね!?


「……落ち着こう。俺はもう、殴られたくない」


 ゆっきーさんは頬(二回殴られた場所)を押さえながらそう言った。


「じゃあ謝ってください」


 私の言葉を聞いたゆっきーさんは


「すいませんでした」


 土下座した。


 それはそれは綺麗な土下座だった。

 

 なんで土下座……?


「はぁ……もういいですから顔を上げてください」


「よし、じゃあ暇だし、家具かっぱらいに行くか!」


 顔を上げたと思ったらそんなことを言いだした。


 まぁ必要ですもんね。


 しょうがないですもんね。


「さて、家具なにほしい?」


「少なくとも机や椅子……箪笥はあれもっていくから……」


「棚とか?」


「ほしいですね」


 まるで買い物をするようなノリだが、いまから私たちがやろうとしているのは窃盗である。


 正直、やりたくはないが致し方ない。


「まぁとりあえずあの部屋と俺が使った部屋にあった箪笥、椅子、机、ベットはもっていくとして、棚とかは管理室とかにあるか?」


「料理に使えるものとかも欲しいですよね」


「あの中だと換気もできないし、火を使う料理は無理じゃないか?」


「少し換気用の穴をあけるとか?」


「煙とか出たらヤバいだろ……いや、でも待て、そもそも換気してないのに俺たちは酸欠にならなかったってことはそこらへん大丈夫なのか?」


「んー、時間があったら調べてみますか」


「ああそうだな」


 そんな雑談をしながら廊下をすすむ。


「そういえば正司さん以外の人っていませんね」


「……ああ、なんかここも怪物に襲われたみたいでな。奥のほうに避難しているらしい。正司はもう大丈夫か確認しに来たんだってさ」


 ゆっきーさんはすこし歯切れが悪そうに言った。


 どうしたんだろうか?


「へーそうなんですか」


「ああ。正司も奥に戻ってもう少し奥の部屋にいるように言ってくれているらしいし、今回は盗り放題だぜ?」


「盗り放題って……」


 なんかいやだなぁ。


「そういえばあれから正司さんに会ったんですね」


 あのあと二人で大丈夫だったんだろうか?


 二人とも変な感じだったしなぁ。


 でもまあ兄弟だし大丈夫か。


「ああ、まあな。正司が言うにはそんな長く止められる気がしないからなるべく早く用事を済ませてだってさ」


 ん? なんかまた歯切れが悪かったような? 気のせいかな?


「ってことは」


「明日にはもうこの施設をでる」


「えー」


 明日には出るのになんで箪笥に服を入れたんですか……ああ暇だからか。

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