第7話 私、蚊帳の外 ②
私たち二人は叫んだあと、荒くなっていた息を整える。
このままではずっと仲の良さを否定し続けることになるだろう。
私が少し我慢すればいいのだ。
そうすれば二人は兄弟水入らずで話すことになり、いずれ私の空気は薄くなる。
落ち着けぇ私。
落ち着いて頃合いを見計らってここから逃げ出すのだ。
「はぁ……お前は変わらないな」
どうやらゆっきーさんも落ち着いてきたのか、穏やかな顔でそういった。
「そうかな?」
「ああ」
二人はにこにこしてまた話し始めた。
こういうのを見ると二人は仲のいい兄弟だったんだなぁと思う。
私には兄弟がいなかったので少しうらやましい。
「そう言えば兄さん。
感じ的にお兄さんと妹さんのことかな?
ってことは四人兄弟?
多いなぁ。
「いいや。あの二人は家にいたし、家の近くの施設にいるんじゃないか? 俺はそっちとは反対のほうから来たしな……お前は?」
「僕はほら、寮にいたから」
「ああ、そういえばそうだったな……ここがこいつの寮の近くってことは……方角は間違ってないか……」
ゆっきーさんは正司さんに対しにこやかに答えた後、私にギリギリ聞こえるレベルの小声でつぶやいた。
「ん? 兄さん何か言った?」
「ん? ああ何でもない」
正司さんの何気ない質問をさらりと流すゆっきーさん。
よほど知られたくないのか、それともどうでもいいことなのかはわからないが、あの言葉の通りならゆっきーさんには目的地があるということだろうか?
こんな世界で何を目的にしているというのだろうか?
……少し考えたが、何も思いつかなかった。
あとで聞こう。
それからも二人は楽しそうに話し続けた。
昔はどうだったとか、よくも身長ぬかしやがってとか、学校はどうだったとか、友達は出来たのかとか、それこそいろいろと話していた。
「……」
「……」
だけど、二人は急に黙りだした。
話が尽きたとかそういうことではなく、ゆっきーさんがまるで覚悟を決めたような顔をして、正司さんは少しつらそうな顔をしていた。
「……なあ、正司。お前……」
ゆっきーさんは意を決して沈黙を破った。
だけど……。
「ねぇ兄さん。兄さんはさ、今までどうしてたの?」
正司さんはゆっきーさんの言葉を遮って話し出す。
それは今までの楽しい話の時にはしなかった、こんな世界になってから何をしていたかという具体的な話。
「……」
ゆっきーさんは黙り込む。
絶対に話したくないことがあるかのように。
「あんなことがあってさ、みんなに憎まれて、みんなに罵られてさ、あることないこと報道されて……」
正司さんは悲しそうに、苦しそうに、言葉を紡ぐ。
……どうしよう……私ついていけてない……いったい何があったのというのだろうか?
「ねぇ兄さん……兄さんはなんで生きてこれたの? なんで……?」
「……俺は、生きなくちゃいけないんだよ」
ゆっきーさんは悲しそうなつらそうな複雑な感情が入り混じった表情をして、顔を伏せてから小さくつぶやいた。
私には先ほどの小声と違ってゆっきーさんが何を言ったのかよく聞こえなかった。
正司さんにも聞こえていないと思う。
「……すまん、なんか疲れたみたいだわ。隣の部屋で寝てくる。あと頼んだわ」
ゆっきーさんはどう見ても無理やり作った笑顔でそう言い残し、部屋を出ていった。
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