第7話 私、蚊帳の外


 偶然の再会から少しして自己紹介が始まった。


「俺の弟の正司だ。正しいことを司るで正司」


 今までにないくらいにこやかなゆっきーさんと


「どうも」


 その隣に座り、頭を下げる正司さん、


「私は桜です。訳あってゆっきーさんと一緒に行動しています」


 そして、二人の対面に座り頭を下げる私。


 この二人を同時に見れる場所にいると、ゆっきーさんと正司さんが結構にていることがわかる。


 たぶんゆっきーさんの身長を数センチのばして、目に明かりをともし、目じりを下げて、隈を消し、筋肉を減らして、髪型と服装を同じにし、病弱そうな見た目にすればだいたいおんなじ感じになるんじゃないだろうか?


 ああ、ちょっとの違いのはずなのになんでこうも差が出てしまうんだろうか?


 ゆっきーさんもパーツは悪くないはずなのに……死んだ魚のような目が原因だろうか? それとも身長が低いくせに威圧感があるからだろうか?


 そんなことを思っているとゆっきーさんに睨まれた。


 いや、ゆっきーさん、睨まないでくださいよ。


 魔法も使ってないのに心でも読んだんですか?


 どこが気に障ったんだろうか? 目か? しんちょ……。


 また睨まれた。


 どうやら弟より身長が低いことを気にしているらしい。


「桜さん……ですか。よろしくお願いします」


 正司さんは私の自己紹介に一瞬怪訝な顔をしたが笑顔で言った。


 たぶん名前しか言わなかったことに引っかかったんだと思う。


 それにしても、目のあたりが違うだけで笑顔にこんなに差が出るのか。


 ゆっきーさんが悪魔だとしたら正司さんは仏だ。


「なんでだろう……バカにされた気がする」


 さっきもだがゆっきーさんはするどすぎると思う。


「さて、正司。いろいろ聞きたいことはあるが一つ言わせてくれ」


「うん」


 二人は急に真剣な顔をしだした。


 まさか今までにこやかに話していたのは前座で、正司さんが地上に向かっていたことについて言及するのだろうか?


「よく生きてたな! 兄ちゃんうれしいぞ!」


 ゆっきーさんは心の底から嬉しそうに顔と声で言いながら、


「兄さんもよく生きてたね!」


 正司さんも同じように嬉しそうに顔をしながら二人は抱きしめ合った。


 ……さっきの真剣な表情はいったい何だったのだろうか?


 聞きたいがそんな雰囲気ではない。


「俺が死ぬわけないだろう!」


「そうだね! うちで一番頑丈だもんね!」


「はっはっは! そうだろそうだろ! それにしても大きくなったな!」


「うん!」


 二人は嬉しそうに笑い合う。


 あれ? 私、蚊帳の外だ。


 でも、元々ぼっちで人見知りな私はこのままいないように扱ってもらえるとありがたい。


 実は前の施設の時も知らない人とあまりちゃんと話せないから邪魔になると思って話に加わらなかったのだ。


 ゆっきーさんとはなぜか最初からこんな感じだった気がするけど。


「あっ兄さん、桜さんが困ってるよ?」


 そんな私を見過ごせないのか、正司さんがそういった。


 たぶんゆっきーさんはそんな気配りなんてできないことだろう。


 性格の差が如実に表れている。


「いいのいいの」


 ゆっきーさんはにこにこしながら言った。


 ゆっきーさんの言う通りだ。


 私に気にせず兄弟の感動の再会を喜んでいてほしいとは思うが、あの扱いにはイラッとする。


 なので足を勢いよく踏んでおく。


 するとゆっきーさんも私の踏んでいないほうの足を踏んできた。


 無言の攻防がいま始まる。


「そうはいかないよ。だって兄さんの彼女でしょ?」


「「……は?」」


 が、正司さんのその言葉で私たちの思考は停止した。


「女っ気なかった兄さんが彼女を連れてきたんだからしっかり話を聞かなくちゃね!」


「……いや……いやいやいやいやいやいや違う違う違う違う!」


「そうですよ! そんなことあるはずないじゃないですか!」


 何を言っているんだこの人は!


 正司さんの二言目でやっと思考が追い付き、私たちは本気で否定に入る。


「こいつが彼女!? ありえないありえない! こんなロリババア、彼女とかないっつーの!」


「誰がロリババアですか!? 私はまだ二十歳です!」


「関係ないだろ! この貧乳が!」


「はあ!? ケンカ売ってるんですか!? このチビ!」


「売ってないように思うのか!? もっとチビ!」


「いいでしょう! 表に出ましょう! この人でなし!」


「ああいいだろう! いってやるよ! 役立たず!」


「やっぱり仲良いね」


「「よくない!」」

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