第2話 俺、腕輪の中に入る


 変身アイテムの魔法的アップデートの開始から数分。


 腕輪から出した文字列とにらめっこしていた桜が


「出来ました!」


 と声をあげた。


「もうできたのか? 始めて数分しかたってないけど……」


 俺にはよくわからないが、早すぎではないだろうか?


「術式の一部をいじるだけそんなに難しいことじゃないですしね。入り口と出口の設定いじったり、生き物が入れないようになっていたところをいじったり……って説明してもわからないですよね。とにかくあとはゆっきーさんが間取りをイメージしてくれればオッケーです。では、お願いします」


「え? 今?」


 急に言われても困るんだが……。


 というか説明されても桜の言う通りよくわからなかったし、早口すぎて何言ってるかもよくわからなかったし、総じてよくわからなかったんだが……これは俺の理解力がないせいか?


 それともこいつのテンションが寝ても下がらなかったせいか?


「はい! あとはゆっきーさんのイメージを内部に固定するだけなので、早く終わらせて安全なところに避難しましょう! 早く! 早くしてください!」


 桜がテンション高めに催促してきた。


 なんかおもちゃを買ってもらったはいいが家に帰るまで待てない子供みたいだな。


「いや、あの……」


 ちょっと待ってくれよ……出来るだけいい感じにしたいんだから……という前に、


「早く!」


「はい!」


 つい返事をしてしまった……。


 早く……早くって言ったって間取りなんて……。


 そのとき俺の頭の中ににパッと浮かんでいたのは昔、こんな世界になる前に俺が住んでいた一軒家だった。


「はい、固定しました」


 どうやら俺が自分の家を想像したことがわかったのか、すぐにそれで固定されてしまったようだ。


「……マジか」


 そんなに広いわけでもないし、特別何かあるわけでもない普通の家になってしまった。


 悪いわけじゃないんだけどさ……なんというか……。


「じゃあ、中に入りましょうか!」


「もう?」


 桜はよほど自分の成果が気になるのか俺をまた急かす。


「ここにいる必要もないじゃないですしね。私、野宿はもう嫌ですよ? それにここら辺で必要な情報はあまりないって言ってたじゃないですか」


 まあ近くの施設の情報は手に入ってるしな。


 あとは怪物の動きだけなんだが、まあある程度集まってるし大丈夫っちゃ大丈夫だけど……。


「早く次の施設に行こうとは思わないのか?」


 そっちのほうがいい気がするんだが。


「ヒーローの状態じゃないのに術式いじるぐらいの魔法使うと疲れるんですよ」


 そんなもっともらしい理由作るぐらいならその『中見たい! 超見たい!』って顔やめてくれる?


 そう考えてもそっちメインなのわかりやすいんだよ。


「……そういえばほかに何の魔法使えるんだ?」


 俺はふと思った疑問を桜にぶつけた。


 別に中に入るなら中に入るでいいのだが、ここが安全なことと腕輪の中に不安があるため、話を変える。


 魔法関係に食いつきよかったからたぶん乗ってくると思う。


「マッチの炎ぐらいの炎とか飲み水を冷やすのに便利ぐらいの氷とか使えないのばっかりです。あとは……」


 そう言って桜は少し力みだした。


 何だ? 何だ? 何が始まるんだ?


「ゆっきーさんは今、『何だ? 何だ? 何が始まるんだ?』と思いましたね?」


 すっごいドヤ顔で言われた。


 なんかイラつくな……なので……。


「……」


 俺は無言になり、『やーい貧乳貧乳』と強く思った。


「『やーい貧乳ひん、にゅ、う……?』……」


 ぶん殴られた。腰の入ったいいパンチだ。


 まあそんなことより桜がやったのは超能力で言うところのテレパシー(読むだけ)と同じようなことだろう。


 こんな便利なものあるんだったら最初から教えてほしかったな。


「ゆっきーさん! 遊んでないで早く入りますよ!」


 魔方陣の上に乗った桜は


 どうやら貧乳といったことへの怒りはそうそう冷めないらしい。


「はい」


 なので俺はおとなしく従った。これ以上、あいつを刺激する必要はない。


 話はそらせなかったし、刺激したくないし、不安はあるが、俺は先に桜が入っている魔方陣に入る。


 さて、中はどうなっているのやら。

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