第1話 俺、腕輪の説明をする ②


 あの施設から出て四日。


 俺たちはやっとの思いで境目までたどり着き、体を休めていた。


 そのときに休んでいるだけなのもなんなんで、俺の手首についている腕輪状の変身アイテムについて話しをしたのだ。


「へぇ、これにいろいろ入れてるんですね」


 そういって桜は俺の手首についている変身アイテムに触りまくる。


「ああ。まあなんで俺が使えるのか、とかどういう原理で動いてるのか、とかはよくわからないけどな」


 変身アイテムが腕についている都合上、たまに桜の手が俺の腕に触れるので少しドキッ、としてしまう。


 桜は目元が前髪で隠れているが見た目は美少女だ。


 男としてドキッ、としても仕方がないのではないだろうか?


 まあ桜はそんなことには一切気付かず、変身アイテムにご執心だが。


「へぇ……ちょっと私に貸してくれません?」


 桜は変身アイテムから一切目を離さず俺に聞いてきた。


「無理だ」


 それに対し、俺は簡潔に答えた。


「何でですか?」


 桜はよほど不服だったのか腕輪から目を離し、俺に抗議の目を向ける。


 ……近いんだが。


「これ、取れないんだよ」


 そう言って変身アイテムを引っ張って見せる。


 この変身アイテムは見た目も感覚もぶかぶかなのに絶対に取れない。


 何度か試してみたが取れたことがなかった。


 無くす心配がないと考えれば結構便利だが。


「まぁいいです。そういえば光の柱もこれで出してましたよね?」


 桜はそんな疑問を投げかけてくる。


「ああ、あれは前に教わったんだよ」


「誰にですか?」


「魔法使い、とまではいかないけど魔法を少しかじったクソじじいに」


 まぁじじいというよりかくたびれたおっさんのが近いかもな。


「そいつもヒーローだよ。逃げてばっかりので怪物とは戦わないし、襲われてる人間見ても助けに行かない。自分の命最優先でヒーローらしくないヒーローだったなぁ」


 たしか初めて会ったのも怪物から空間魔法使って逃げ回ってるところだったなあ。


「怪物を呼び寄せる範囲は狭いし、魔法も空間魔法しか使えない。でも、恐ろしく強かった」


 空間魔法と二丁拳銃。


 ヒーローとしての装備や能力はそれだけだった。


 たぶんだから範囲も狭かったんだろう。


 でも、逃げられない場面では鍛錬によって手に入れた未来予知にも迫るほどの先読みですべてを見通し、一瞬で複数の怪物に手傷を負わせてた。


 強いはずなのに弱い桜とは反対に弱いはずなのに異常に強いヒーローだった。


「でも……いや、何でもない」


 俺はそんなヒーローでも負けてしまったという事実を伏せ、話を続ける。


「とにかく、この腕輪にヒーローの力を流し込むとあらかじめ設置しておいた魔方陣からヒーローの力が流れ出して、光の柱が出現するんだよ」


 正直、俺は光の柱が何かはよくわかってなし、どういう原理で出現しているのかもわかっていない。


 ただ、ヒーローの力に反応しているということだけはわかっている。


 この疑似光の柱をやってみたのは何となく言ったじじいのジョークが始まりだった。


 ちょっとした遊びで実際にやってみたら本当にできてしまったのだ。


 あのときは怪物が集まってきて本当に大変だった。


「んー光の柱ってどういう原理で出現しているんでしょうかね? まあ、それとは関係ないんですけどその変身アイテム、見た目は科学の力で生まれたものですけど、魔法も使ってできてますね」


「へぇ」


 そこら辺はよくわからない。


 俺、魔法使いじゃないし、魔方陣も見よう見まねで描いてるだけで理解できてるわけじゃないし。


 でも、専門家がそういうならそうなんだろうな。


「んーその魔方陣とその腕輪の術式、見せてもらっていいですか?」


「いいけど……どうやって?」


 魔方陣は描けばいいけど腕輪の術式? はどうすればいいんだ?


「こうやって、です!」


 桜の腕が光りだし、そのまま腕輪に触れる。


 そして桜は腕輪の中から黄金に光る文字列を引っ張り出した。


 ……何が起こったの?


「じゃあゆっきーさんは魔方陣描いてください。私はこれ見てるんで」


 桜は俺のほうを見ないで楽しそうに術式を見てそう言った。


 術式は俺が見ても意味わからなかったが、なんか、数式みたいだった。


 ただ黄金に光ることに意味はあるのだろうか?


 ってそんなことより……。


「お前、変身しないでも魔法使えるのか!?」


 術式はすごいと思うし、それを解読している桜もすごいと思うが、それより魔法を使ったことに俺は驚いた。


「少しだけなら……入れる……出す……吸収? なんでこんなものが? ……へぇ……でも……これなら……」


 ダメだ。


 術式に集中しすぎてこっちの話をちゃんと聞いてない。


 俺は少し寂しくなり、ただ黙々と魔方陣描いた。

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