『―—』が―—て―る
あれから数時間後の隠し部屋。
この部屋は百数人いる住人が足をのばして寝ても余裕があるほどに広く、その中で人々は思い思いの方法でくつろいでいた。
「いつまでここにいればいいんだ?」
その中で苛立たしそうな声を発したのは、数時間前まで椅子に縛り付けられていた管理者だった。
どんなに余裕があろうともこの小太りの管理者にはこの場所が耐えられないらしい。
「少なくとも一週間は……」
それに答えたのは正行と話し、正行を信用した二十代後半の管理者、武だった。
「ちっ……まあ仕方がない。怪物に殺されるよりはましだ。だが、あれはどういうことだ?」
小太りの管理者は奥にいる集団を顎で指す。
彼らはこの施設で犯罪者としてもっとも地上に近い部屋で監禁されていた上に、この施設には犯罪者には何をしてもいいと言うルールがあるため、毎日のように暴行を加えられている。
そのためその集団にいるものたちは服も体もボロボロで、見るも無残な姿をしているものたちばかりだ。
「どうやら彼らが解放したようで」
「ふん! 犯罪者同士、見過ごせなかったというわけか」
「犯罪者、ですか」
犯罪者といってもこの施設の犯罪者はただのこじつけで犯罪者にされたものばかりだ。
この施設で生きる為に彼らを助けられず、歯がゆさを感じていた武としては少なくともあの地獄のような部屋から彼らを解放してくれたことに関し、正行たちに心の中で感謝した。
「すべてあの男、義元正行のせいだ! 私があんな目にあったのも犯罪者がここにいるのも怪物がやってきたのも! 全部、全部だ! そもそもすべてあいつから始まったことだ! あいつが死ねばこんなことにはならなかったんだ! あいつこそが元凶! あいつこそが害悪! あいつこそが……!」
この施設にいた人間を助けてくれた人間に対してひどいいいようだ。
それに対して武は快く思わなかったし、少し話しただけだったが義元正行が当時の週刊誌や新聞、インターネットで言われたような人間だとはとうてい思えなかった。
「少し落ち着いて……」
武が小太りの管理者をなだめようとした瞬間、背筋が、いや、この場空気すべてが凍った。
「あの一般人が元凶? はっ! 笑わせるなよ」
そいつはさっきまで誰もいなかったはずの小太りの管理者の後ろにいた。
そいつは黒かった。
まるで影のようで、闇のようで、夜のようなそんな真っ黒な『人』。
そう、『人』だ。
見た目はヒーローのコスプレをしているようなただの『人』。
ただし、
「……っ、…………っ!」
そこにいる誰もが恐怖で体が動かなかった。
声が出なかった。
息ができなかった。
冷汗が止まらなかった。
「そんなお前らに一つ、教えてやろう」
そいつの言葉一つ一つが体を侵食し、
『絶望』
それがすべてを埋め尽くす。
「俺こそが元凶だぁあ!」
一瞬だった。
管理者や犯罪者、一般人などすべてがすべて関係なしに住人の体は二つに分かれ、部屋が真っ赤に染め上げられる。
そこに残った生き物は、
黒い怪物、
ただ一体。
「はっはは、ひゃぁぁああぁぁああぁぁああははははははははは!!!!!」
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