第11話 俺はヒーローじゃない ②


「……なんでお前が知っている」


 男は驚きの表情で俺を見る。


「そんなことは今はいいだろ? そこに何があるかは俺も知らないが、怪物が施設に入ってくる前にその部屋に入れれば確実に怪物の感知範囲から逃げられる」


 隠し部屋。


 または食糧庫などがある重要施設の一番奥にあることから一番奥の部屋。


 そこには何があるかよくわからないが、いわく、施設の中で最も重要な部屋で、すべての施設にあるそうだ。


 俺がその部屋について知っていることはその部屋にはカギがないこと、

 管理者の中でも一部の人間しか存在を知らないこと、

 管理者の中でも最もえらいやつしか入る方法を知らないこと、

 その管理者ですら入ることはないということ、

 施設の中で唯一、怪物の感知範囲から外れているということだけだ。


「なぜ、確実といえる?」


 まあ当たり前の疑問だな。


「これを見ればわかるよ」


 俺はとあるノートを取り出して渡した。


「これに対する疑問はあるが、それよりその腕についているやつから出さなかったか?」


「そうだけど、それについて詳しく話す時間はない」


 この腕輪には収納機能がある。


 どれぐらいの量が入るかわからないが、『入れ』と思えば入れられるし、『出ろ』と思えば出せる。


 正直、自分でもなんで使えるのかよくわかっていないが、便利だから使っている。


「……何だこれは……?」


 男は食い入るようにノートを読み、少ししてから驚きの表情で俺を見た。


「俺が見たことある怪物のデータだ」


 その中でも今まで見つけた怪物たちの感知範囲の情報が書いてあるノートの一つだ。


 他に攻撃の仕方や、防御の仕方、弱点やクセなどが書かれたノートがある。


「こんな……お前、どうやって……?」


「生きる為に必要だっただけだよ」


 これ以上ない理由だろ?


「で、俺の言葉を信用する気にはなった?」


「……ああ。信じよう」


 そういって男は俺にノートを返し、出口に向かったが、俺の横を通り過ぎると足を止めた。


「……最後にいいか?」


「なんだ?」


 俺は振り向かず、質問を促す。


「お前は義元正行なんだろ? あの義元正行なんだろ? なんで……」


 そういった後、男は口を閉ざし、


「……いや、何でもない。いろいろとありがとう」


 感謝の言葉を述べて去っていった。


「……なんで、か」


 俺はぽつりとつぶやいた。


 その疑問に対して俺はただできることをやっているだけだと答えても、男は理解してくれないだろう。


 なんとなく、そう思った。

 

「話終わりました?」


 ずっと扉の近くにいた桜がやってきた。


 そういえばこいつ話に入ってこなかったな。


「お前なんで入り口付近でぼーっと突っ立ってたんだ?」


「いえ、一緒に行ったら話の邪魔になるかも知れないなと」


 ああ、なるほど。


 一応、自分が足手まといになるってわかってはいるのか。


「で、私たちはどうするんですか?」


「ここから出る」


 この言葉に桜は少し驚いた顔をした。


「え? 怪物が来てるんですよね?」


「ここの住人がこのまま範囲外に行ったとしても怪物に一番奥の部屋に行ったことがバレたら終わりだからな。そんな賭けに出るぐらいならすぐ逃げたほうがいいだろ?」


 俺は自分が生きる確率が高いほうを選ぶ。


「囮ってことですか?」


「違う。逃げるほうが俺たちの生き残る確率が高いってだけだ。俺たちが逃げてきてから時間もたってるし、怪物もいつもの配置についてるはずだから来てる怪物は一体か二体ぐらいだろう。それなら余裕で逃げ切れる」


 いつもの配置から外れていたらアウトだが、まあ大丈夫だろ。

 

 そんな俺を見て、桜はニヤニヤ笑っていた。


「……なんだ?」


「何でもありません」


 何でもないことはないだろう。まあいいけど。


「そういえばあの光の柱は使わないんですか?」


「あれはヒーローの力に一回しか耐えられないんだよ」


 予備で何個か作っとけばよかったか? いや、あんなもの使ったら怪物が釣れすぎてまた大変なことになる。


「そもそもあれは何なんですか?」


「そういうのは後で、怪物から逃げてからだ」


「はい」


 うし、


「じゃあ行くか」


 俺たちは情報室から出て出口に向かう。


「……ゆっきーさんってヒーローみたいですよね」


「は?」


 唐突に何言ってるんだ? どう考えてもただの卑怯者だろ。


「だって、私を助けたり、ここの人を助けたり、私よりヒーローらしいですよ」


 ちょっとうれしそうな笑顔でそう言われた。


「……」


 そんな顔をされると、それはただ俺が逃げるためにやってるだけで、お前とかあいつらのためじゃねぇよ、なんてそんなことは言えなかった。


 それにしても、俺がヒーロー、か。


「俺はヒーローじゃねぇよ」

















「ヒーローになんて、なれねーよ」

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