第11話 俺はヒーローじゃない


「んー、んーん、んー!」


「暴れないでください! すぐに外しますから!」


 警報を聞き急いで情報管理室まで戻った俺たちの目に入ったのは、縛られたおっさんを二十代後半ぐらいの細身のイケメンが抱きしめている場面だった。


 声が聞こえないので何とも言えないが、戻ってきて最初に見た光景がこんなのなんて吐き気がする。


 その光景に耐えられず、俺と桜は目をそらした。


「おい、どうする? 出てったほうがいいかな?」


「いえ、でも、あの警報が何なのか確認しないと……」


 俺たちはつい小声で話してしまった。


 でも、そうだよな。


 遠慮してる場合じゃないよな。


 俺は二人のほうをちゃんと見て……


「おい! お前ら! お前らのアブノーマルな趣味なんかに興味はない!  目の毒だからホントにやめて!」


 ダメだ!


 長いこと見れない!


 なんでおっさん少し顔を赤らめてるんだよ!


「ゆっきーさん、ゆっきーさん、本題本題」


「あ、ああそうだった」


 気を取り直して。


「この施設に一体何が起こってる!? なんで今ここにお前らしかいないんだ!?」

 

 よし、ちゃんと言えた。


「怪物が扉を殴っているらしい。破られるのも時間の問題だろう。他のものは荷物をまとめに行った。私は見て分かる通り、縄をほどいてるところだ!」


 やっぱり怪物が来たのか!


 でもそれよりもなんで前からほどいてるんだよ! 後ろに回れ! そのほうが楽だし、男に抱きつかなくてすむんだぞ!?


「君たちも逃げろ! 侵入者だとしても生きる権利ぐらいある! あっやっととれた」


 なんで最初に執るのが猿轡なんだよ!? 口より先に体を解放してやれよ! そっちのほうが効率もいいし、すぐに逃げられるだろ!?


「お前ら! こんなことしてただですむと思うなよ!? 縛られて放置されるなんて何のプレイかと思たわ!」


 即そういう思考に走るのはダメすぎるだろう……。


「あんたらもよくやってるでしょってそんな話はどうでもいい!」


 俺は近づいてまだ縛り付けられているところをほどいた。


「早く逃げろ」


「言われなくても逃げるわ!」


 おっさんは立ち上がり、全速力で部屋から出て行った。


 ……五十メートル十一秒ぐらいかな。


「さて、あんたに聞きたいことがあるんだけど?」


 おっさんが部屋から出て行ったのを見届けた後、俺はまだ部屋に残っている男に話しかけた。


「何だ?」


「逃げるったってどこに逃げるんだ? 外ではないよな?」


「当たり前だ。外に出るなんてありえない」


 そりゃそうだ。


 外逃げるのは俺ぐらいだからな。


「じゃあどこに?」


 俺の質問に男は黙り、俺から目をそらした。


 その顔からは焦りと、不安、それに絶望が見て取れる。


 どうやら俺の予想通り、まだどこに逃げるかが決まっていないようだ。


 外に逃げるのは論外として、中で隠れたってどこに隠れればいいかもわからない。


 圧倒的な情報不足。


 といってもこの施設の中にずっといたんじゃ仕方のないことだ。


 だから、情報を持っている俺がどうにかするしかない。


「なあ。隠し部屋って知ってるか?」

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