第9話 俺、空回る
俺の精一杯の笑顔からだいたい一時間後。
俺たちは食糧庫で食糧をかっぱらっていた。
「……」
「……」
沈黙。
そう沈黙だ。
桜は俺に黙々と食糧を渡し、俺は黙々とそれを受け取り、自分が盗ったものと一緒にしまう。
なんでこんなことになった?
いや、まあ、食糧を渡してくれるのはいい。想定通りだ。何を言われても最終的にはやらせるつもりだった。
でもなんでだ?
なんでこんなに静かなんだ!?
いや、別に静かなのはいい。
どちらかというと静かにしてもらいたいぐらいだ。
でも、俺はてっきり 『なんで私が泥棒まがいのことをやらなくちゃいけないんですか!』とか『いやいや! それどうなってるんですか!? どうやって食糧入れてるんですか!?』とか言ってくると思ってたのに何も言ってこない。
そういえば情報管理室からいままで『うん』『はい』『そうですね』しか言ってなかった気がする……
さっき捕まっているときにも静かになってしまう場面があったが、それは俺の失言とか俺が滑ったときとか桜の心の整理がついていないとかぐらいでなんとなく理由はわかった。
でも、今は分からない……なんでこうなっているんだ!?
……もしかして……いや、もしかしてじゃないな……やっぱり俺のせいか?
あの情報室でなんか気に障ることでもしたか?
いや、いやいやいやいや何もやってないだろ……何もやってないよな……?
あっ……怖がらせた?
え? あれ? あれが悪かったのか?
マジで?
とりあえず桜の様子を見る。
「…………」
ぼーっとした顔で黙々と食糧を渡してくる。
ダメだ。何もわからない。
まるで何も考えてないような顔をしている……。
どうする?
どうすればいいんだ!?
……あっ俺から話せばいいのか。
……何を?
……。
…………。
………………。
「……何が知りたい? 何が聞きたい!? 突然始まる質問コーナー! わー!」
といった後、パチパチパチと手を叩く。
手法は自己紹介の時と同じだ。
無理やりテンションあげて、盛大に滑る! これなら大丈夫だろ! さっき成功したし!
「……急にどうしたんですか?」
冷ややかな目で見られた。
どうやら予想通り滑ったようだ……。
「いや……さっきからなんかあまりしゃべらないし、こう、何かしたほうがいいのかと……」
……別に冷ややかな目に委縮したわけじゃないぞ? 本当、本当だよ?
「そんなにしゃべってなかったですっけ?」
桜は首をかしげる。
気づいてなかったのか?
じゃあ俺のせいってわけじゃなかった……?
もしかして俺が空回りしてただけ?
…………やっべーはずかしい。
「いや、別に気のせいならいいんだ。でも、沈黙って結構つらいじゃん? だから俺は 『何が知りたい? 何が聞きたい!? 突然始まる質問コーナー!』で一気に場を盛り上げようと……」
しょうがないだろ!?
俺はこの五年間、女と話す機会なんてそうそうなかったんだ! そのせいか何を話せばいいかわからないんだよ! だから滑るとわかっていてもやるしかないんだ! だってこれしか思いつかないし!
……あれ? いま思うとそもそもあまり人としゃべってない……? そういえば一時間以上誰かと一緒にいるのも久しぶりか……? もしかしてクソじじい以来……? あれ? あれれ? あれー?
……いや、拷問の時とか捕まっているときとかにしゃべってるからセーフだろ……うん。
「場を盛り上げるってお笑い芸人じゃないんですから」
お前のツッコミは芸人みたいなものではないだろうか。最近そういうの見てないから詳しくわからないけどな。
「いや、まあそうだけど。でも、知りたいことはあるだろ?」
「そうですけど……その前に一ついいですか?」
「何?」
は! もしかして怒られる!?
「ごめんなさい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます