第8話 俺、情報を手に入れる


「いやーあんたがお偉いさんでよかったよ。おかげでここまで楽に来れた」


 俺たちは今、この施設の情報管理室にいた。


 情報管理室はその名のとおりこの施設の情報を集めてあるところだ。


 普段なら何人かはここでまるで仕事をしているふりをしているのだろうが、今いるのは三人。


 俺と、


「……私、ヒーローなのに……」


 ヒーローのくせに悪役のような俺に加担したことで落ち込んでいる桜と、


「ここまで案内した! パスワード教えた! 私を解放してくれ!」


 銃を頭に突き付けられてここまで案内させられた挙句、手足を椅子に縛り付けられてご立腹のおっさんがいる。


 あのおっさんこの状況でよくあんなに騒げるよな……おっ! ここの施設の住民のデータ見っけ。


「どうせ解放したらお仲間引き連れてくるんだろ?」


 さっき部屋に来たやつとか俺たちを捕まえたやつとかこの部屋から追い出したやつとか。


 あっでもさっきボコったやつは部屋に閉じ込めといたから来れないか。


 ……おお! ここの施設はいいな! 近くの施設についての情報が残ってる! 一番近いのは……ここか! 次はここに行こうかな?


「そんなことはしない! 約束する!」


 おっさんは必死に叫ぶ。


 まあ必死になってるけど信用できないしなぁ……それに……。


「解放してあげましょう?」


 さっきまで落ち込んでいた桜が話に入ってきた。


 解放したからといって今お前の中にある罪悪感はぬぐえないぞ?


 というかこれからも俺と行くなら慣れてほしいんだけどな。


 ……あっ監視カメラの映像だ。


「お前には関係ないからあっちで正座してなさい」


 俺は部屋の隅のほうを指さす。


 できればそこで俺の邪魔をしないように静かに瞑想でもしてくれると助かる。

 

 ……あーあー俺たちのことバッチリ撮られてるじゃん。


「関係ないってことはないでしょう!? ゆっきーさんが暴力振るったり、監禁したり、人質に取ったりしたせいで私も共犯者みたいになってるじゃないですか!」


 そうだね。


 でも、あの三人監禁するときに手伝ったよね?


 みたいじゃなくて立派な共犯者だよ?


「でも、俺らも監禁されたからおあいこってことで……」


「犯罪におあいこも何もないじゃないですか!」


 うん、その通り。どっちも悪い。


 つまり君も犯罪者。それだけは棚に上げちゃいけないぞ?


「でも、人殺しに性犯罪、その他もろもろしてる施設の幹部を解放するってのもなあ……」


 俺は桜に聞こえるようにわざとらしく言った。


 ……他に必要なものは……ああそうだ、カギとかってどこにあるんだ?


 施設によって保管場所違うからな……いや、そもそも電子ロックかもしれないし……


「え? 人殺しに……性犯罪?」


「な! なななな何のことだ! じ、じじちゅ無根だ! そ、そんなことしているはずないだろ!」


 おっさん大慌て。


 いや、慌てすぎでしょ、わかりやすいなぁ。


 ……うわぁ電子ロックの暗証番号あった……基本的に誰も来ないからって雑すぎるだろ……


「そんなに慌てなくてもいいよ。別に俺は攻めるつもりもないし。このご時世、法律も何もあったもんじゃないし、よくあることだよ」


 俺はおっさんの肩に手を置いて言う。


 まあ胸糞悪いのは変わらないし、そんなことやってるやつの約束なんて信用できないけど。


「それよりさ、ここでコピーってできる?」


 結構なデータ量があるからな。


 できればコピーしてもっていきたいんだよな。


 まぁなかったらなかったで覚えればいいんだけど。


「それよりじゃないですよ! 人殺しとか性犯罪とかどういうことですか!? 私、ここがそんなところだなんて聞いてないですよ!」


 言ってないからね。俺も来るつもりなかったし。


「だからそんなことはしていないといっているだろ!」


 おっさんは桜に向かって怒鳴る。


「それより、コピ……」


 という言葉は


「というかなんでそんなこと知っているんですか!?」


 桜と


「そうだ証拠だ! 証拠を出せ!」


 おっさんに遮られる。


「コピー……」


 この言葉も


「何とか言ってくださいよ! ゆっきーさん!」


 桜と


「そうだそうだ! 何とか言ったらどうなんだ!」


 おっさんにまた遮られ、


「コ……」


 この言葉も(以下略)


「正行さん!」


「ん? 正行……?」


「うるせぇぞ! てめぇら! 少しぐらい黙りやがれ!」


 そして俺は耐えきれなくなり、怒鳴った。


 二人ははっと息をのみ、黙った。


「ギャーギャーギャーギャーうるさいんだよ! そんなに知りたいなら教えてやる! いいか! 証拠一! この施設から逃げてくる人が女性、かつ! 裸、かつ! 暴行の跡があったこと! 証拠二! 俺たちがいた部屋に掃除はされていたがところどころ血の跡があったこと! 証拠三! 手錠についていた傷跡と摩耗の跡から使ったのが一度や二度じゃないこと! 証拠四!  俺たちへの……」


「もういい!」


 おっさんに遮られた。

 

 聞きたいっていうから言ったのに……。


「わかった。認めよう……だが、思い出した……思い出したぞ! お前、義元正行だろ! お前のような奴に説教なんてされてたまるか! 俺たちが犯罪者? 極悪人? はっ! お前に比べたらまだまだだよ! すべての元凶が! お前のせいで……お前のせいでこの世界は……!」


 ああ、はいはい。聞き飽きた聞き飽きた。


「むぐっ!」


 俺は取りだした布をおっさんの口に突っ込む。


「説教なんてするつもりなんてないし、あんたが犯罪者でも最低最悪の極悪人でもどうでもいい。でも、そろそろ静かにしろよ」


 その上から取り出したタオルで口を覆う。


「で、コピーはできるの?」


 おっさんは恐怖に染まった顔で、首がちぎれるんじゃないかという勢いで縦に振った。


「そうか」  


それにしてもそんなに恐れられるなんて俺はいったいどんな顔をしているんだろうか? 


 正直、頭に血が上ったわけじゃないし、『元凶』とか『お前のせい』とか言われるのはよくあることだから何ともないと思っていたけど……そんなにひどい顔をしているのか?


ふと桜に視線を向ける。


「ひっ」


 俺の顔を見た桜が俺から一歩、距離をとる。


 どうやら相当ひどい顔をしていたらしい。


 俺は一つ息を吐き、力を抜いて、


「……少し待っててくれ。すぐに終わらせる」


 今できる精一杯の笑顔でそう言った。

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