第5話 俺、自己紹介を促す ②
「え?」
『え?』じゃないよ。
急になんだこいつって目をするんじゃないよ。
こいつ、人に夢とか希望とかを与えるような魔法少女のくせに俺の心にダメージ負わせすぎじゃないかな。
「なんですか? どうして止めるんですか? 私はやれと言われたからやっているのにそういう扱いはどうかと思うんですが……」
元チビは怒りを目に宿しながら抗議しはじめたが、今回は重要なことなので流します。
ただ、扱いに関しては確実に俺のほうがひどい扱いを受けていると思うんだよ……。
「俺が止めたのはお前がヒーローとしての口上を言おうとしたからだ」
俺は今までにないぐらい真剣な口調で言った。
「……?」
……分からないって顔をされた。
まぁそりゃそうか。
「これからの話は本当に重要だからよく聞けよ?」
俺は一応、釘を刺しておく。
「今この世界には何度もヒーローが来ているにもかかわらずヒーローがいない。まあ理由はわかるだろ?」
「それは……はい」
元、チビは怪物に囲まれたときのことを思い出したのか顔が少し青ざめた。
「んで、ヒーローは施設にはたどり着けないから地下に住んでいるやつらはヒーローがやってきていることなんて知らないし、負け続けているなんて全然知らない」
まぁ俺以外で地上に出た上で生き延びたやつなんてそうそういないだろうしな。
「だから、人間にとってヒーローは今だに希望なんだよ。この世界をどうにかしてくれるかもしれないからな」
他力本願この上ないが、普通の人間にはどうすることもできないからなぁ。
「もし、そんなやつらにお前の存在がバレたらどうなると思う? 崇められ敬われ神のような扱いを受けるかもしれない。施設から追い出されて怪物たちを殺してこいと言われるかもしれない。まぁ、どちらにせよ普通に生きることはできなくなるな」
施設にいる人間だって必至だ。
この生活も長く続かないかもしれないと思っているやつだって多いし、生きる気力がもうないやつだっている。
そんな極限状態だから、ヒーローの事情なんて考えないし、ヒーローは自分たちの絶対の味方であると思っているし、もう、ヒーローが負けることなんてないという幻想に捕らわれている。
ヒーローが負けることがあるってことはわかっているはずなのになぁ。
「……」
「……」
俺たちは少しの間、無言になった。
元チビは何を考えていることだろうか?
軽率な自分のことか、これからの自分のことか、正体がバレたときの自分のことか、それともそのすべてか。
「……俺が何で止めたかわかったか?」
「……はい」
「今はここに俺しかいないからいいが、他のときは口上なんて言うんじゃないぞ?」
「……はい」
なんか、こう素直にされると調子狂うな。
さっきみたいに突っかかってくるか、突っ込んでくるかしてくれるといいんだが……。
そんなことを考えながら右手で頭を掻く。
「まあ難しく考えずに普通に生活してれば大丈夫だよ。さて、じゃあわかってもらえたってことで、口上なしで名前を言ってもらおうか!」
俺はこの場を明るくしようと言葉尻を少し上げた。
それに合わせて、元チビも口を開く。
「私の……私の名前は……」
そういってすぐ、元チビは黙ってしまった。
どうしたんだ?
すごく汗をかいているみたいだが……。
「どうした?」
「私の名前は……魔法少女マジカルチェリーブロッサム、です」
元チビは顔を背けてそう名乗った。
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