第3話 俺、怒られて泣かせる


 あれからさらに二時間後。


「…………んっ! んー……あー、よく寝たなぁ」


 俺はやっと目が覚め、声を出しながら体を伸ばした。


 手足が縛られても体って伸ばせるんだよなあ。


 というか手足が縛られていたほうが伸びてる感じがするんだが、気のせいかな。


「ええ! 本当によく眠ってましたね!」


 そんな俺に対し、明らかに怒っているオーラを振りまきながら元チビは言った。


 えっ? 何? 何怒ってるの?


 いやー怖いわー若い人怖いわーこれがキレる若者ってやつか?


 おー怖い怖い。


「よっおはよう。よく眠れたか?」


 とりあえず怒りを刺激しないように無難な返しをしておく。


「眠れるわけないじゃないですか! 気づいたらこんな状態になってたんですよ!? 手足動かないし、寝返りできないし、そんな状態でぐっすり眠れるわけないじゃないですか!?」


 藪蛇だったようだ。


「何度も呼んでもあなたは起きないし……というか一回起きたのに私のこと無視してまた寝ましたよね!?」


 そんなことあったっけ?


「そもそもなんでこんな状況で当たり前のように眠れるんですか!? 手足縛られてるんですよ!? 何されるかわかったもんじゃないんですよ!?」


「それは……」


 よくあることだから、と言おうとしたらそんなことお構いなしに元チビのお説教は続いた。


「そもそもなんでこんなことになってるんですか!? どういうことがあればこんな状況になるんですか!?」


「いやね、なんていうか……」


「いいわけなんて聞きたくありません!」


 えー……。


「そもそもですよ!? 私、女の子なんですよ!? 女の子がベットに縛り付けられてる段階でアウトでしょ!? 私いまかろうじて顔をそっちに向けられるだけなんですよ!? それにこっちに来たばっかであんなことがあって、こんな状況になって! もう……わたし、こわくて……こわ、くて……」


 俺が静かに聞いていると、説教から一変、元チビは静かに泣き出してしまった。


「……」


 泣き出してしまった元チビに俺は何も言えず、ただ黙り込む。


 思えば何も知らない世界にやってきてすぐに怪物たちに殺されそうになり、やっと逃げられたと思ったらいつの間にか手足を縛られ監禁されていたのだ。


 ヒーローだとしても女の子、泣き出してしまってもおかしくはない。


 そういえば俺も初めて監禁されたときは、これから自分はどうなってしまうのかという不安とこの世の理不尽さに涙したことがあった。


 あのときの俺は今以上に無力で、何も出来なくて、どうすればいいかわからなくて、悲しみと苦しみと後悔と懺悔がすべて混ざって、泣きながらこの世界を呪った。


 元チビもそうなのだろうか?


 そうなのだとしたら、そう思わせてしまった原因は俺にもある。


 ここに来てから少なからず何かしらのフォローをすれば泣かせることもなかったはずだ。


 今まで男も女も関係なしに何人、何十人、何百人という人間を見捨て、泣き顔なんて何度も見てきたが、これは違う。


 これは俺にはどうしようもないことだったのだから「。


 でもこれはダメだ。


 今回のことは俺にできることがあったのだから。


 これは最低だ。


 俺のせいでもある。


 このままじゃ俺は最低な男と言われても何も言えなくなる。


 なら、今できることをやるしかない。 


 そういっても何をすればいいのかはよくわからない。


 でも、やるしかない。


 たとえ行き当たりばったりになったとしても、たとえ滑ったとしてもやるしかない!


 俺は固い決意のもと、意を決して重い口を開いた。


「これから自己紹介をはっじめまーす☆」

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