第4話 俺は逃げるためにここにいる


 避ける。


 避ける、避ける! 避ける!!


 右にいる怪物が口から出した消化液をバックステップで避け、後ろにいる騎士型の突きをしゃがんで避け、殴ろうとしている一つ目の大型怪人の顔面に向かってフラッシュバンを投げつつ左に逃げる。


 目がちゃんと見えない大型怪人が火を噴こうとしていた頭が三つある怪獣に殴りかかったころには俺は別のところに移動している。


 攻撃はしない。


 俺みたいなヒーローでもない一般人が怪物に攻撃したってのけぞりもしないどころかそらすことすらできないのはわかっている。


 だから避ける。


 防御はしない。


 どんなに鍛えてもただの人間である俺が怪物の攻撃を受けたら一巻の終わり、かすっただけでもどうなるかわかったもんじゃない。


 だから避ける。


 観察し、利用し、見て、感じて、聞いて、考えて考えて考えながら避け続ける。


 そんな危機的状況でも頭の中は後悔ばかりだ。


 なんで数十分前の俺は光の柱を見た瞬間に近くの施設に逃げなかったんだ、と。


 なんで俺はヒーローと一緒に逃げるという考えに至ってしまっていたんだ、と。


 逃げていれば魔法少女のような格好をした少女をお姫様抱っこしながら怪物の攻撃を避けることはなかったんだ、と。


 逃げていれば結界が壊れた瞬間、怪物が一斉に襲いかかるところなんかに飛び込むこともなかったんだ、と。


 まあ、何度後悔しても自業自得としか言えないのだけれども。








 そう、俺、義元よしもと正行まさゆきは逃げなかった。


 いや、正確に言うと逃げるために光の柱まで行ったのだ。


 なぜならここから逃げるにはヒーローに手伝ってもらうのが一番安全だと思った、いや、思ってしまったからだ。


 最初はヒーローが出現すると同時に怪物がヒーローを感知する範囲からでて、ほとぼりが冷めるまで近くの施設に逃げようと思った。


 前に言った通り、怪物はヒーローが現れると人間を襲って来ることはなくなるので、近くの施設まで逃げやすくなっているから楽なのだ。


 だが、今回は範囲が広すぎてここから逃げきれるかどうかわからなかった。


 怪物がヒーローを感知する範囲はヒーローの強さによって変わる。


 強ければ強いほど範囲が広くなり、怪物が集まる。


 だから俺は、光の柱が出現したとともに周りを確認した。

  

 そして俺は驚いた。


 パッと見るだけでは範囲がわからないぐらい広かったのだ。


 これだと範囲から抜ける前にヒーローが負けて、怪物が俺に狙いを定めるかもしれない。


 範囲を抜けたとして施設の場所がよくわからない。


 範囲の中の施設に入ろうにも入るにはある程度時間がかかるし、怪物が襲ってくるとはないが見てはいるので、その施設の場所が怪物にバレるかもしれない。


 つまり逃げたからといって生き残れるかどうか確証が得られなかったのだ。


 だから今回はヒーローを助けることにしたわけだ。


 今回やってきたヒーローは俺が知る中で一番強いはずのヒーローである。


 そんなヒーローとなら俺の情報とあの方法をもってすれば逃げることが可能かもしれない。


 それにヒーローを助けることができればこれから生き残りやすくなるし、もし逃げられそうになければ囮にもできるだろう。


 これなら大丈夫だ、と思った。


 逃げるだけではなく、ヒーローという大きな戦力も手に入るし万々歳、と思ってしまった。


 だが結果は、このざまだ。


 怪物に囲まれている中で魔法少女をお姫様抱っこして避け続けなければいけない状態になってしまった。


 いつ体力がなくなるか、いつ集中力が切れるか、いつ恐怖で体が動かなくなるか、そんなギリギリの状態になってしまった……!


 なんでこうなった?


 怪物たちの間を縫って進み、戦っているであろうヒーローの近くまでは案外簡単に来ることができた。


 うん、ここまではよかった。


 しかし、ヒーローと怪物の戦いなど起こっていなかった。


 光の柱があったであろう場所にはピンクの髪にツインテール、ひらひらの服にステッキといったまさに魔法少女という格好をした小学校高学年ぐらいの女の子が自分で張ったであろう結界に引きこもって震えていた。


 当初の予定では戦っているヒーローと合流。


 その後、俺の腕についているこれを使ってもらい、ここから脱出。


 近くにある施設に逃げ込むはずだった。


 しかし、現実ではヒーローが結界を張っているせいで話をするどころか近づくこともできず、怪物の結界への攻撃が俺にも当たりそうになった。


 結界が壊れたと思ったら結界のかけらが飛んでくるし、使うつもりがなかったフラッシュバンを使うことになった。


 そして今、魔法少女を抱えながら怪物の猛攻を避け続けることになってしまっている。


 つまり……うん、俺の見積もりが甘かったわけだ。


 さっきも言ったが自業自得だ。


 ヒーローが強く、諦めることなく戦うものだと信じすぎた俺のミスだ。


 ミスといえば最初に魔法少女を助けるときフラッシュバンを近くで使いすぎたな。


 何度か声をかけてはいるが反応がない。


 未だに目と耳がうまく機能してないようだ。


 だが、まだ生き残れる可能性はある。


 とにかく耳が聞こえるようになればを使わせることができる。


 早く回復してくれ魔法少女!

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