第14話 魔性の女ビビ先輩の登場ですよ?

「だれー? ドナテッロにーちゃんの彼女か?」


「同じ3代目クラスのビビ先輩だよ」


「えー、あんな人今までいなかったよー?」


「先輩はいま就活で忙しいから、なかなか学校に来られないんだ」


「違うわ、ただサボってブラブラしてるだけよ」


 と、俺がせっかくフォローしても、身も蓋もない言い方をするビビ先輩。

 いくら魔法の得意なエルフでも、異種族の魔術を身に着けるためには何十年もかかる。

 50年も真面目に学生なんてやってられないので、まだ在籍中なのにもう何年も学校に来ていないエルフの学生はざらにいるのだった。


「今日は何しに来たんですか?」


「今日は戯れに魔法薬研究室に行って、得意のエルフテクノロジーで哀れな男どもを性的に興奮させる媚薬を作っていたの」


「もっと他にすることなかったんですか」


「戯れにそれを男子更衣室にまき散らしてきてやったの。……ふふふ、次の男子体育が見物ね」


「いいっすね。俺とビビ先輩でカメラ持って、ロッカーの中に潜みに行きましょうよ」


「落ち着きなさい、エルフジョークよ」


 俺がオークジョークで絡むと顔を赤くするビビ先輩マジ可愛い。

 迫られると弱いんだよ。

 やっぱエルフの女の子大好きだ。


「小さい頃は可愛いショタだったのに、大人になるとケダモノになってきたわね。聞いたわよ? ダンジョンで5人の女の子を襲って孕ませて騎士学園から謹慎処分を受けてるんでしょ?」


「そんなの事実無根ですよ。この俺がダンジョンにゴムを忘れていくようなへまをする騎士に見えますか?」


「なにこの謎の説得力、不思議」


 エルフは精霊を通じて、遠く離れた森のエルフとコミュニケーションを取ることが出来る。

 精霊ネットと呼ばれる独自の通信網を持ち、生まれた時から常にネットにつないでいる状態なのだ。


 さらにスマホのような魔工デバイスの普及によって、彼らの精霊ネットは海を越え、世界規模にまで拡大していた。

 もはや情報処理系のお仕事でエルフにかなう人間はいなかった。彼らはエルフという歩く集合知なのだ。

 魔法の使えない人間になんて、仕事はない。


「俺の方は休学して、モンスターの魔法の研究をしているんですが、そっちの方はぶっちゃけ、行き詰まっちゃってて……」


「あら意外。モンスター退治は得意だったと思うけど?」


「というか、あいつら俺が近づくと逃げるから、肝心の魔法が観察できないんですよ。それよりも、魔工機技師資格を取るほうが現実的かなって」


「魔工機技師資格を? この魔工デバイスの時代に?」


「そう」


「ふむふむ、たとえば?」


 俺は、柱の横に備え付けてある真っ赤な消火器を指さした。


「たとえば、あの消火器なんかは圧縮した空気で消火剤を噴き出す仕組みになっているんです。けれど、消火器の中には魔石が1個も入っていないんですよ」


「じゃあ魔法が使えないと使えないの?」


「そうでもないです。この塔だけで何百個も設置して、しかも何年も使わないものなのに、ぜんぶに魔石を組み込むと、魔石の無駄になるんです。だから製造工場に1個だけ魔石を使っておいて、あらかじめ圧縮した空気と消火剤を詰め込んだ缶を何百個も作るんです」


 このアイデアを発見した技師は、これだけで1億もうけたという。

 目まぐるしい産業革命期から200年、何でもかんでも魔法を使えばいいという時代は終わった。


 環境汚染を考えなくてはならないし、石油資源と同様に、魔石資源にも限りがある。

 ハイブリッド、エコロジー、魔法フリー食品、魔法世界は徐々に魔法を使わない方向にシフトしようとしている。


 飛空艇もかつては文字通り船の形をしていたのだが、後に揚力を生み出す魔法を節約するために、翼がつくようになったそうだ。


 必要なものがあったらとりあえず自分で作ってみるドワーフという種族は、子供の頃から身の回りの食器や住居を作って生活するという。

 物質精製の魔法も使えることから、まさに歩く3Dプリンターだった。もはや工業系のお仕事で彼らにかなう人間はいない。


 けれどもアイデアさえあれば、この立場をひっくり返すことはできる。

 俺の前世の記憶を使えば、一獲千金を狙えるのではないか、などと考えていたのだ。


「なるほど、なるほど、で、何かオリジナルのアイデアはあるの?」


「はい……電子レンジを作ろうかと思っています」


 ビビ先輩は、俺をじーっと見ていた。


「電子……レンジ?」


 電子レンジは、魔法を使わずに料理するにはとても便利なアイテムだ。

 高周波マイクロウェーブを照射することで、水分子を振動させ、加熱する。

 魔法使いは手っ取り早く魔法で温めてしまうのだが、これなら魔法は一切使わずにすむ。


 俺が騎士のアルバイトで長丁場になるときなど、これさえあれば、あらかじめ料理を作りおきしておいて、妹に「レンチンしてね」ができるのだ。


 だが、ビビ先輩は首をかしげていた。

 料理に魔法を使わないでいる利点が考えられないらしい。

 まあ、最終的に闇魔法を使わなければ、完全に魔力付与を取り除くことはできないからな。

 闇魔法使いの料理人は必須だ。


「あと、ガスコンロとか」


「ガス……?」


 これも必須だ。魔法を一切使わないで加熱調理をすることで、俺の料理はさらなる無属性を得るのだ。


 ビビ先輩は腕を組んで、眉間にしわをよせていた。

 むーん、と、必死に需要がどこにあるかを考えてくれている。

 需要、需要、需要、需要……。

 考えた末に、ビビ先輩は顔をあげた


「ドナテッロ、あなたひょっとして『特区』の出身なの?」


 と言われた。

 やっぱり不思議なことを言う人だな。

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