8、拝啓、ジョン・レノン/真心ブラザーズ
ボブ・ディランにノーベル文学賞、ってのは、選考委員会の英断だなあ。
なるほど、文学のくくりはそこにまで及んでたんだっけ。
フォーク・パンクのひとであるディランは、刺激的な詩を朗々と吟じるように歌う歌うたいさんだ。
説明的でない分、むき出しの力強さがあり、ひとびとの心を惹きつける訴求力と説得力を持ってる。
そんなメッセージが音にのると、聴いてる側の感受の質が倍増してより深い浸透が生じる、ってのは面白い現象だよなあ。
日本には、「イエ~」と「ベイベー」を持ち込んだ忌野清志郎がいる。
このひともフォーク・パンクからロックに渡ったひとで、歌詞は私小説的にしてハードボイルド。
詞を追うと肝心の音楽が頭の中で整頓できなくなってしまうオレには、こうした講談みたいな、つまり音にのった話芸みたいな歌の方が理解しやすいみたいだ。
逆に言えば、詞に高度に編み込まれたメロディーをつけられると、オレの意識は音の構造理解と解体分析の方に向かってしまうんで、日本の歌を聴くなら、音は簡潔で、詞は電気刺激みたいに知性じゃなく五感で感知できるものがありがたい。
そうして、オレもようやく日本の歌うたいの曲の聴き方を学んだんだった。
フォーク・パンクの進化系である真心ブラザーズの出現を知ったのは、彼らのデビューからもうずいぶんたった頃のこと。
テレビのチャンネルをガチャガチャしてる最中に通りかかった、深夜のとある音楽番組だった。
「ループスライダー」ってカッコいい曲だったな。
その音とスタイルから、RCサクセションの後釜指名を受けるべきはこのひとたちなのでは?とピンときて、不意に見入ってしまったんだった。
真心は、やたらとでかい声を張り上げてまっすぐな歌詞を叫ぶヨーイチ(YO-KING)と、ちょっとねじくれた高度な音組みを繊細に編み上げてか細い声で歌い上げる桜井の二人組。
アルバムの中には、この粗忽と洗練、辛辣と穏健、二種類のまったく異なる個性が交互まぜこぜになって詰め込まれてる。
主にボーカルを担うのは、大学の先輩であり暴君でもあるヨーイチなわけだが、殿はスリーコードをちょっと展開した程度のメロディで構成された清潔なシンプルさを求めすぎるため、その素材をギター・プロデュース・さらに家来でもある桜井がいじくって多彩な音に仕上げ、聴けるものにしてく、ってシステム。
アルバムには、メインディッシュ(=ヨーイチ)の付け合わせとして、桜井の頼りない声(しかしエレガントな楽曲)の歌がはさみ込まれてるわけだが、そのデコボコぶり、節操のなさは、「これでいいのか?」ってくらいのものだ。
ふたりは、当時のテレビで流行った勝ち抜きオーディション番組からのご褒美デビュー組なんだが、その素人芸をほぼ「このあたりまでは」貫いてたと言っていい。
んなわけで、ヨーイチがつくる歌はヨーイチが歌い、桜井がつくる歌は桜井が歌う。
勝手気ままで、ヘンなデュオなんだった。
それでも、こうした自由すぎる姿勢のために、ライヴはMCを含めて最高だった。
「拝啓、ジョン・レノン」は、声量と歌詞にびっくりさせられた。
こんな内容を大声で直言してもいいんだな、と。
オレも路頭に迷ってたからね、感じ入るものがあった。
言いたいことを、好きに叫ぶ。
ヨーイチの声に出会ってから、オレって小市民をやめて、王様になれた気がする。
自由にのびのびと生きる。
好きなひととだけつき合い、したくないことをしない。
その後の性格形成に最大の影響を与えた歌かもしれない。
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