6、Watermelon Man/ハービー・ハンコック

ビリー・ジョエルはジャズ畑のピアニストで、ポリスのスティングもジャズベース出身、ストーンズのチャーリーは徐々にジャズドラムに流れてくし、ドナルド・フェイゲンはそもそもジャズロックミュージシャン。

オレの好みは、知らず知らずのうちに、はっきりとジャズに偏ってた。

そうと知った大学時代は、毎夜のようにジャズ酒場に入りびたって安いジンをあおり、古い音源に聴き入ったものだ。

が、ジャズって音楽に最初に感度を向けたのは、もっとずっと早い時期のことだ。

サントリーのCMで、ハービー・ハンコックの「<a href="https://www.youtube.com/watch?v=x7PnmJ4BQis">ウォーターメロン・マン</a>」に出くわしたときの興奮ときたら。

探してた音楽を見つけた気がした。

そして、ピアノを習ってた(が、ほとんどサボってるようだった)妹のアップライトで、必死に耳コピで練習したんだった。

ピアノも音楽もまったくの無学だったが、音(コード)を耳で聞き取って鍵盤上に写し取る、って作業は、なぜか最初からできるひとなんだった、オレって。

大人になってからピアノを習いはじめ、ヨチヨチの当初に、よめはん家から運び込んだアップライトで耳コピを再開したわけだが、今は便利だね、ユーチューブがある。

その各種映像の指の動きを読み込んだら、当時(中学か高校の頃)に完璧にコピったと信じ込んでた音は、ぜんぜん薄っぺらで的外れだってことがわかった。

そして実際に弾いてみて知ったんだが、この曲、スイングしてもいないし、左手でコード進行を、右手でメロディーを、って作法からも逸脱してる。

右手と左手の音を玄妙に絡め合わせて、一本の分厚い音を紡ぎ出す、ってモダーン的ジャズなわけ。

うまく言えないけど、飛んだり跳ねたりって音を用いないで、右手と左手で8分音符を代わるがわるに繰り出し、譜面をすき間無く埋めることで、音の複雑な歯車を回してるわけだ。

冒頭部はタテノリも横揺れもない、茫洋とフラットな音の連続。

俳句のように削ぎ落とした、禅的世界だ。

が、必要なエレメントのみを残し、複数のそれを再び鍵盤上の狭い域内で再構築するんで、シンプルとはほど遠い、濃密で猥雑な音が立ち上がる。

落ち着きがなく、つかみどころのない、ファンクな総合。

最小の音で最大の効果を、って記号論だ。

彼の師匠であるマイルス・デイビスの晩年の音は、ヤスリにかけすぎて「呻吟」みたいになっちゃってたけど、あれともちょっと違う。

そんな悟りを開ききれずに、俗世の享楽に浸っちゃってる破戒僧。

ハービー・ハンコック先生って、そんなイメージ。

単音のラッパじゃなく、音が複合的なピアノには、そうした遊びが許されるんだった。

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